鷲鼻の老女
誰も何も言わなかった。
闘技場では様々な試合が催されており街の住民達を楽しませていたが、そんな彼らにとっても健太郎が行った行為は余りに異質で、どう反応していいか分からなかったのだ。
「ブイィィィン!!」
そんな彼らを正気付かせる為、健太郎は闘技場に甲高いエンジン音を響かせた。
『あっ……しょっ、勝者、ミシマ・ミラルダ組!! こっ、これによりクロサキ、フィリス両名の訴えは退けられミシマ・ミラルダ組の証言が採用されます!! 観客席の皆様にはその証人として試合結果をご記憶願います!!』
我に帰ったベルサが健太郎達の勝利を宣言すると、客席からは歓声と一部ブーイングの声が上がった。
ブーイングは恐らく将吾たちに賭けていた者達だろう。
そんな声を後目にギルド職員達が目を回し倒れた将吾達を担架に乗せ運んでいく。
「ミラ姉、ミシマさーん!!」
聞こえた声に視線をおくれば、トーマスが両手を振って声を張り上げている。
「ドラ○もんッ!! ミミもそれ乗りたいッ!!」
「あっ、それなら俺も乗りたい!!」
「僕も僕もッ!!」
「私も乗ってあげてもいいよッ!!」
「……僕はいいかな、危なそうだし……」
子供達の声を聞きながら健太郎が苦笑を浮かべていると、クレーンで吊り下げられた審判席が降下し中からベルサが顔を覗かせた。
彼女は健太郎達に駆け寄ると若干顔を引きつらせながら口を開く。
「はぁ……何と言っていいのか……ともかくこれで神の御名においてあなた方が正しい事が認められました……しかしミシマさん、何なのですかその姿は……」
「何でも異界の乗り物でバイクって言うらしいよ」
「バイク……ですか……正直、姿が変化した時は止めるべきかどうか迷いましたが……協議の結果、今回はミシマさんの能力という事で認める事となりました……というかそんな事が出来るなら事前に説明しておいて下さい」
「パラリラパラリラ」
すいません……ちょっとサプライズになるかなぁ、なんて……。
「相変わらず貴方は何を言っているか分からない人ですね……ふぅ……ミシマさん、ミラルダさん、ともかく貴方達への疑いは晴れました。後はこちらで処理しておきます。本日はお疲れ様でした。お帰り頂いて結構です」
そう言ってペコリと頭を下げたベルサにミラルダは問う。
「あのさ……やっぱりフィリス達は除名かい?」
「当然でしょう。同じ会員を襲うような者達を所属させておく訳にはいきません」
「それって処分を軽くする事は出来ないのかい?」
「ブイィィィン!?」
何を言い出すんだミラルダ!?
「……ミシマさん、それは私にも分かりましたよ……ミラルダさん、襲われたのは貴女なのですよ?」
「そうなんだけどさぁ……あたしはさ、師匠に人を許せる奴になれって言われて育ったんだよ……もちろんお咎め無しって訳にはいかないだろうけど……何とか除名だけは許してやっちゃあ貰えないかね?」
ミラルダの師匠、レベッカだったか。……そうか、師匠の教えがあったからミラルダは差別を受けながらも曲る事無く育ったんだな。
きっと素敵な人だったのだろう……俺も出来れば会いたかったぜ……。
そんな事を考えていた健太郎のカメラアイがカシャカシャと何やら動いた。
するとどうだろう、ミラルダに似たローブと帽子を纏った白髪の老女が突然彼の瞳に映し出される。
「パラリラパラリラッ!!!?」
「ミシマ、何だい急に!?」
「本当ですよ、急にそんな騒音を響かせて……ビックリするじゃないですか」
いいいいいい、いるんだよッ!!! そこにッ!!!
健太郎はバイクのハンドルをブルブルと動かし、怪訝な顔をしているミラルダとベルサに老女の存在を伝えようと藻掻く。
「ふぅ、流石にその姿じゃ分からないねぇ、降りるから人型に戻りなミシマ」
ミラルダが背中から降りたのを確認した健太郎は、人型、人型と念じかなり焦りつつ体を戻した。
その後、ジェスチャーを使い老女の事を何とか二人に伝える。
「あたしの服と似た服のお婆ちゃん……そりゃ多分師匠だねぇ……そうかい、今も側にいてくれたんだねぇ……」
「お師匠様はお亡くなりに?」
「ああ、もう五年になるかねぇ……」
ベルサにそう答え、目の端に溜まった涙をそっと拭ったミラルダに健太郎は訴える。
「コココッ、コホーッ!?」
しししっ、師匠だとしてもお化けだよッ!? ふふふッ、二人とも何で平気そうなのッ!? ミミミッ、ミラルダは怖くないのッ!?
「怖い訳ないだろ? 育ての親だよ?」
「コッ、コホーッ!!」
でもでも、ゆっ、幽霊なんてッ!!
ワタワタと訴えていた健太郎の肩に何か冷たい感触が走る。それはこれまで彼がこの世界では、いや日本でも感じた事の無い感触だった。
ギギギッと音がしそうな程、ぎこちなく健太郎は首を回し右肩を確認する。
“ヒッヒッヒッ、あんた、あたしの姿が見える様だねぇ”
おとぎ話に出て来そうな鷲鼻の老女は健太郎にそう言うとニタリと笑った。
「ブシューッ!!!!」
「わっ、ミシマ、いきなり何すんだいッ!?」
「うっ、こんな機能も!?」
健太郎が噴き出した蒸気が風に流されて消えた後にミラルダ達が見た物は、うつ伏せで地面に突っ伏した青いゴーレムの姿だった。
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