子竜と子供
直通路を登る健太郎の手をガジガジと赤い子竜が齧っている。
健太郎がレーダーはもういいと強く思うとパラボラアンテナは頭部に収容され、子竜は頭から口を離してくれた。
その後は左手をずっとしがんでいる。
クッ、こやつは一体何がしたいのだ、親同様、いつか俺を食べるつもりなのか。
健太郎がそんな事を思いつつチラリと子竜に目をやると、目が合った子竜は「キュエーッ(かたい)」と健太郎を見上げ目を細めて鳴いた。
「フフッ、随分と懐かれたもんだねぇ」
「コホーッ」
ミラルダ、笑い事じゃないよ、こいつの親は俺を二度も食ったんだよ。成長したらいつ襲い掛かって来るか。
そもそもコレは懐かれているというより、獲物として見られている気がするんだが……。
そんな気持ちを健太郎は彼女に伝えたかったが、現在は右手は卵を抱え、左手は子竜に齧られているのでジェスチャーのしようが無かった。
「うーん、離れそうにないし連れ帰るしか無さそうだね」
「コホー……」
マジかぁ……コガネの事もあるし、生態系維持の為に置いて行った方がいいと俺は思うんだがなぁ……。
そう思い再度、子竜に目をやると、目を細めまるで赤子がおっぱいをしゃぶる様に健太郎の腕を噛んでいる。
「キュエーッ(かたい)」
確かにミラルダの言う様に子竜は離れるつもりは無さそうだ。致し方ない、何とか人を食わない様、育てるしか無いだろう。
上手くすれば角刈りおじさんの言っていた様に背中に乗せてくれるかもだしな。
ドラゴンライダーになれるかも、その期待にワンチャン賭ける事にして健太郎はモヤモヤする気持ちに一旦区切りを付けた。
■◇■◇■◇■
「わぁ、これがドラゴンなの? お話に出て来た奴と違って小さくて可愛いねぇ」
「干し肉とか食べるかな? うわっ、凄い食いつきだ。フフッ、こいつはケントよりも食いしん坊かもね」
「トーマス兄、俺は食いしん坊じゃ無くて、早く大きくなりたいから食ってんだよ」
「そうだね、一杯食べて大きくなって稼いでくれよ」
「おう、任せろ」
ニカッと笑ったケントの後ろからミミが顔を覗かせる。
「トーマス兄、ミミも干し肉あげたい!」
「わかった、こう掌の上に乗せてあげてごらん」
「キュエーッ」
街に戻ったのは夕刻だったので、健太郎達は報告と受け渡しは明日行う事にしてその日は真っすぐ家へと帰る事にした。
明日、ギルドに出向いた際、卵の引き渡しと将吾たちの行為についても二人は報告しようと話合っていた。
あっ、噛まれるから体は触らない方が…………何だとッ!?
「大人しいね。鱗がツルツルしてて気持ちいい」
「ホント!? 僕にも撫でさせてよ」
子竜はミラルダの家の子供達に対しては噛みつく事はせず、何故か大人しく撫でられていた。
ちょっと待てよ!? 何で俺には噛みつく癖に他の皆には何もしないんだよ!?
……そういえばさっき子供達は子竜に干し肉を与えていた。そうか、餌をくれる奴は襲わないって訳か……。なるほど、なら俺も……。
健太郎は台所に行って食事の準備をしていたミラルダに頼み、少し干し肉を分けてもらうといそいそとリビングへ引き返した。
リビングで子供達と遊んでいる子竜の鼻先にスッと干し肉を差し出してみる。
「ドラ○もんもドラゴンちゃんにおやつあげるの?」
「コホーッ」
ああ、これでこいつも俺に噛みつく事は……って、何でだよ!?
ミミの問い掛けに視線を外した隙に、子竜は干し肉を持った右手ごとその口の中に飲み込んでいた。
器用に干し肉だけ飲み込むと、彼を見上げ「キュエーッ(かたい)」と鳴いてガジガジと右手を齧る。
クッ、何なんだこの体は!? 竜が好む匂いかオーラでも発しているのか!?
「ドラゴンちゃんはホントにドラ○もんの事が好きなんだねぇ」
そう言って満面の笑みを浮かべたミミに健太郎はそれは違うと思うぞミミと心の中で呟き、コホーッと深いため息を吐いた。
■◇■◇■◇■
リビングのソファーに子供達を寝かしつけたミラルダが腰を下ろす。
一仕事終えたという達成感と疲労が暖炉の焚火の炎に照らされた顔に浮かんでいる。
「ふぅ……ようやく寝てくれたよ。まったく、アンタと知り合ってから次から次へと色んな事が起こって……」
「コホーッ」
すまん、ミラルダ。それは多分、俺がこの夢物語の主人公だからだろう。
そう言って頭を下げた向かいに座っている健太郎にミラルダは笑みを浮かべた。
その健太郎の左手は子竜がしがみ付き、左手を甘噛みしながらスピースピーと寝息を立てている。
「フフッ、別に嫌だって訳じゃないよ。ただ目まぐるしくて慣れないだけさ……ねぇ、ミシマ、アンタには感謝してるんだ。あたしを助けてくれたって事だけじゃない。ドラゴンの素材を分けてくれて、パーティーも組んでくれた……きっとアンタと出会わなけりゃ、あの場所で死んでたか、運よく生き残っても第一階層でモンスターを狩って小銭を稼ぐ日々だっただろうから……」
そう言うとリビングのミラルダはソファーに横たわり、手すりの上で両手を重ね頬を乗せた。
「コホーッ」
そうか……夢とはいえ人からの純粋な感謝はやはり嬉しいものだ。……夢……夢か、この幸せな夢もいつか覚めるのだろう。出来れば再び眠った時に続きを見れればいいな……。
二人掛けのソファーに寝そべりウトウトとし始めたミラルダの顔を見て、健太郎は心の底からそう思った。
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