興味深そうに見つめる瞳
転移者、黒崎将吾。彼が転移時に得たスキルは加速。肉体の動きとその動きの速さを処理する脳の処理速度を倍加させる物だ。
将吾はこのスキルにより常人の何倍もの速度で動き、その速さによって強力なモンスターを討伐、ギルドでの評価を上げて来た。
「ここでテメェらを片付けて俺達が卵と子竜を連れ帰りゃあ、胡散臭ぇゴーレムと嫌われ者の半獣人は消えて、俺らの名声は更に上がって一石二鳥だぜッ!」
ニヤついた笑みを浮かべ将吾は間合いを詰め健太郎に加速を利用し編み出した技、高速剣を振るった。
希少金属を用いた合金製の直剣が健太郎の関節部分に的確に無数の斬撃を浴びせる。
その斬撃によってギィイインという金属同士がぶつかり合う不快な音が地底湖に響いた。
「コホーッ」
「なっ、無傷……だと……?」
拳を握りファイティングポーズを取った健太郎は将吾の速さに反応出来なかった。
しかし無数に振るわれた斬撃は健太郎の体に何の痛痒ももたらさなかった。
将吾はその事に驚き、チラリと自身の持つ直剣に目をやる。
「馬鹿な……こいつは特注品だぞ……」
見開いた彼の瞳にはボロボロに刃こぼれした直剣の刃が映し出されていた。
「将吾ッ! 剣が効かないなら魔法でッ!」
「お、おう! 頼むフィリスッ!」
間合いを開けた将吾に変わり、詠唱を終えたフィリスが健太郎に向けて杖を突き出す。
その突き出された杖の先からは無数の氷の柱が放たれた。
「ミシマッ!」
氷柱群は健太郎に届く前にミラルダが放った火球によって完全に無力化される。
「チッ。ホント癇に障る女ねッ!」
「獣女は俺が狩る! フィリス、お前はゴーレムをッ!」
「わかったわッ!」
「あっ、あんたら、冒険者同士の私闘はご法度の筈だよっ!?」
狼狽したミラルダの声を聞いた健太郎は、火球が生んだ爆炎の中に迷い無く飛び込んだ。
健太郎から見て右手側、岸辺にいたミラルダに襲い掛かる将吾に目標を定める。
だが加速した将吾の動きは完全に人を超えており、健太郎が割って入る余地は無かった。
「コホーッ!!!」
ミラルダッ!!!
爆炎の向こう、剣を振りかぶった将吾の構えからは明確な殺意が窺えた。
このままではミラルダが殺されてしまう!! 駄目だ!! それは絶対に駄目だ!!!
健太郎は思わず右手を突き出した。クソッ、間に合え!!!
伸ばした右手が将吾と重なる。
「コホーッ!!!!」
ミラルダッ!!!!
バシュッ!! そんな音が聞こえた直後、ガインッという金属同士がぶつかる音と「グワァアアッ!?」という将吾の悲鳴が響いた。
そんな音と声と共にミラルダに剣を振り下ろそうとしていた将吾は、何かに弾き飛ばされ遠く湖面に水柱を上げた。
「将吾ッ!? クッ、次はこうはいかないからッ!! 魔力よ、我に自在に空を舞う翼を、飛翔ッ!!」
飛行魔法を使い将吾の下に向かったフィリスを無視して、健太郎はペタンと尻もちを付き顔を青ざめさせているミラルダに駆け寄った。
「コホーッ!?」
大丈夫かミラルダ!?
そう問い掛け、震える彼女に右手を伸ばそうとした健太郎は、今更ながら自分の手首から先が消えている事に気が付いた。
「コッ、コホーッ!?」
あわわわ、手が無いッ!?
そんな風に健太郎が慌てていると、我に返ったミラルダも右手の無い健太郎に気付く。
「ミッ、ミシマ!? 右手はどうしたんだいッ!?」
「コホーッ!?」
俺にもよく分かんないんだよぉ!?
「とっ、とにかく見せてごらん!」
ミラルダは杖を支えに腰を上げると、健太郎の傍に屈み失われた手首の断面に目をやった。
断面からは四本の細いワイヤーが伸びている。
「なんだいこりゃ? ん? なんか点滅してるねぇ」
ミラルダは健太郎の右腕上腕部の一部が点滅している事に気付いた。
何だいこりゃと彼女は思わずその光をツンとつつく。
すると手首から伸びた四本のワイヤーが、掃除機のコードを収納する時の様にシュルシュルと巻き取られ最終的に健太郎の右拳がカシャンと元の位置に収まった。
「……さっき将吾を弾き飛ばしたのはあんたの右手だったって訳かい……ねぇ、今更だけどあんたの体、一体どうなってんだい?」
「コホー……」
それは俺が聞きたいよ……それより竜は?
健太郎が視線を巡らすと、赤い鱗の小さな竜は小首をかしげ興味深そうに健太郎達を見つめていた。
「コホーッ」
その目は止めろ。忌まわしい記憶が蘇る……ふぅ……こいつ、絶対あの竜の子供だよ……。
「コホー?」
ミラルダは卵を回収してくれる?
「卵だね? 分かったよ」
健太郎はやれやれと首を振り、岸辺に置いた竜の卵の確保をミラルダに任せると、余りいい関係では無かった竜の残しただろう子竜に歩み寄った。
「キュエーッ!」
健太郎が歩み寄ると、子竜は警戒する様に声を上げ小さな牙の並んだ口をパカッと開き威嚇を始めた。
「コホー」
おやめなさい。そんな風に誰彼構わず喧嘩を売ると君のお父さん……いやお母さんだったのか……とにかく、君の親御さんみたく脳天唐竹割にされるよ、俺に。
「……キュエー?」
子竜の前に胡坐を掻き、そう心の中で語り掛けた健太郎に竜の子は威嚇を止め小首をかしげ鳴いた。
ふむ、あの竜よりは多少聞き分けが良いようだな。
「ミシマ、どうするんだいその子?」
卵を抱えたミラルダが健太郎に歩み寄り尋ねる。
そうだなぁ、腕組みをして首を捻った健太郎の頭の上でクルクルとパラボラアンテナが回転を続けている。
それを見た子竜は健太郎に歩み寄ると、じっと頭のパラボラアンテナを凝視していた。
「コホーッ?」
ん、なんだい? このアンテナが気になるのかな?
そう言って健太郎がスッと頭を差し出すと、子竜はおもむろに健太郎の頭に噛みついた。
「コホーッ!? (やっぱ、お前も一緒かよッ!?)」
「ミッ、ミシマッ!?」
「キュエーッ!? (かたーいッ!?)」
三者三様の叫びが静かな地底湖に響き渡った。
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