貴族のやり方
「ああ……なんてことだ……僕の……僕のアルティメット・スーパー・ウルトラ・リゼル・ブレードがぁ……」
ほろりと涙を零し土の大地に膝を突いたリゼルは、断ち折れたアルティメット・スーパー……さっきまでスーパーは付いていなかった様に思うのだが……まぁ、いい……とにかく折れたリゼル・ブレードを眺めながらさめざめと泣いていた。
「コホー」
あの、ごめんね。なんか俺、凄い頑丈でさぁ……グレート君もごめんね。
健太郎はペコペコとリゼルとゴーレムに頭を下げた。
その姿を見たリゼルは涙を拭いキッと健太郎を睨み付け口を開く。
「勝者が敗者に頭を下げないでくれたまえ、余計惨めになるだろう……ともかく君の……グスッ、強さは分かった……僕の騎士団へ入る事を認めようじゃないか」
「コホーッ!?」
騎士団へ入る!? えっ、なんでなんで!? そんな事、一言も言ってなかったじゃん!
「フフッ、そんなに慌てて、余程嬉しいらしいね」
「コホーッ!!」
違う!! 勝手に人の就職先を決めるんじゃ無いよッ!! 大体、俺はもう会社とか組織的な物に身を置くつもりは無いのッ!!
「コホーッ!! コホーッ!!」
健太郎の憤りの為かいつもよりも激しく呼吸音が鳴り響く。
「そうかそうか、そんなに興奮して。喜んでもらえた様で嬉しいよ」
「ピーッ!!」
突然、沸騰したら鳴る薬缶の様な音が鳴り響き、健太郎の胸の装甲版を固定していたロープが弾け飛んだ。
「ブシューッ!!」
どうやら憤りで発生した蒸気を解放する為、背中の放熱板が無理矢理開いたようだ。
ついでだと、健太郎は胸を叩き胸部のスピーカーを露出させた。
「クッ……何か言いたい事がある様だね? ……なるべく小さい声で頼むよ」
リゼルは健太郎から少し距離を取って、両手で耳を庇いつつ少し腰を落とした。
『すぅーーーー、俺はアンタの騎士団に入るつもりはこれっぽっちも無いッ!!!! 今の俺はミラルダを幸せにする為に生きるって決めてんだッ!!!!』
ダッァ!!! ダッァ!! ダァッ! ダァッ……。
いつかの様に健太郎の発した合成音声は闘技場の壁を超え街中に鳴り響いた。
耳を覆ってもきつかったのか、リゼルは少しよろめきながら首を振っていた。
「うぅ、小さい声でと言ったのに……ふぅ……ミラルダの為だと言ったな? 君は平民の、それも半獣人の為に貴族になれるチャンスを逃すのかい?」
リゼルの問いに健太郎は深く静かに頷いた。
「愚かな……騎士になり戦功を上げれば家も土地も手に入るんだぞ。それに君の強さならもっと上、男爵や子爵にだって……」
『分かってないなリゼル!!! 俺はもう何かに所属するのは御免なんだッ!!! 男爵とか言ったって、結局は王様の部下だろう!!! 違うか!!?』
「ググッ……急にしゃべらないでくれるか……心の準備をしていないと頭がクラクラするんだよ、それ……はぁ……では、君はあの半獣人の娘と二人、冒険者とは名ばかりの安定を欠いた仕事を続けると?」
健太郎はリゼルの問いに再び静かに頷いた。
「そうかい……じゃあ、君が壊したスーパー・グレート・ファンタスティク・リゼルと、アルティメット・スーパー・ウルトラ・ダイナミック・リゼル・ブレードの修理代を請求しようかねぇ」
『何ッ!!!! それはそっちが勝手に攻撃して壊れた奴だろッ!!!!』
ヒーンッというマイクのハウリングの様な音を含んだ健太郎の怒号が闘技場に響き渡る。
「うぅ……それ、何とかならないのかね? ……ふぅ……君の憤りも分かるがね、これが貴族のやり方という物だよ……金を払うのが嫌なら大人しく騎士団に入り給え」
『修理代はいくらだッ!!!』
「クッ……はぁ……そうだねぇ……金貨三百枚は頂こうか。スーパー・グレート・ファンタスティク・ブルーオーシャン・リゼルも、アルティメット・スーパー・ウルトラ・ダイナミック・トロピカル・リゼル・ブレードもこの国で超一流の魔術師、魔法鍛冶士の手による物だからねぇ……フフッ、君に払えるのかな?」
健太郎は静かに胸部装甲を閉じると金の当てについて思考を巡らせた。
やはり一攫千金を狙うのであれば、ダンジョンに潜るのが一番の近道だろう。
ベックの店でのやり取りで、竜の素材が金貨数十枚で取引されている所は見ていた。
なら、もっとドラゴンを狩れば調達出来ない金額では無い筈だ。
そう結論付け、健太郎はグッと親指を立てた右手を突き出した。
「フンッ、そうかい。じゃあ期限は二週間後だ。もし払えないなら大人しく僕の騎士団に入ってもらうよ」
「コホーッ!」
いいだろう! 望む所だ!
健太郎は深く頷くとリゼルに背を向け、大音量で響き渡った声に少しフラフラしているリゼルの部下が開けた闘技場の扉を潜り、ミラルダの家へと足を向けた。
それを見送ったリゼルの下に彼の部下であるヒャッハーな兵士の一人が頭に手を当て、首を振りつつ歩み寄る。
「ふぅ……うるせぇゴーレムだ……所でいいんですかい? もし金貨を集めたら、平民が強力なゴーレムを所有する事になりますぜ?」
「フフッ、彼は多分ドラゴンを狩るつもりなんだろうが……残念な事にダンジョンの仕組みを知らないのだろう。強力なモンスターはそう簡単復活しないという事をねぇ」
「へへッ、リゼル様、あなたも悪ですねぇ」
「悪とは人聞きが悪い、貴族らしいと言ってくれたまえ」
「へへへッ」
「フフフッ」
まさに小悪党といった感じの笑いが闘技場に小さく流れた。
■◇■◇■◇■
その後、ミラルダの家に帰った健太郎だが、子供達からミラ姉と結婚するのと囃し立てられた後、顔を真っ赤にしたミラルダに正座させられ懇々と説教される事となったのだった。
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