一回戦終了
「あなた、見て下さいッ!! あの子が勝ちましたよッ!!」
闘技場の貴賓席、はしゃいでいる真田の母親であるリシュナをその夫カルボが窘める。
「分かっている、少し声を落とせ」
見れば周囲の名のある家長や大家長に近い者達が、はしゃぐリシュナに冷ややかな目を向けていた。
それもその筈、先ほど真田が叩きのめしたのは大家長の息子であるラハンだ。
だた、貴賓席の中央、張り出したテラスの様になっている特別席で第一試合を見ていた大家長ベルゲンは試合の様子を満足そうに眺めていた。
「ご子息が敗れたというのに楽しそうですな?」
「当然だ。ラハンはいずれこの国のかじ取りとなる者の一人ではあるが、それは将軍としてでは無い。国の守りは武に優れた者に任せば良いのだ。その意味でメイファーンの子が使った技は精魔騎士の新たな力になるだろう」
「精魔騎士にあの者の技を?」
「うむ、騎士、兵士に伝えれば戦いの幅が広がる。武器が尽きた時の生存率も上がる筈だ」
ベルゲンはそう言って側近のエルフに笑みを向けた。
この何百年か、精霊魔法に精通したリーフェルドのエルフの戦い方は洗練される事はあっても基本的な物は変わっていなかった。
ラハンが行った様に精霊を呼出しそのサポートを受けながら遠距離、または近距離にて戦闘を行う。
その戦闘も弓術、剣術、槍術が主で格闘術は重要視されては来なかった。
それはエルフたちが殴り合いを泥臭いモノとして忌避した事も大きい。
だが二百年かけ練り上げた流れる様な真田の動きは、まるで舞を舞う様でベルゲンには美しいとさえ感じられた。
しかし、ベルゲンが感銘を受けた真田のわい最拳は多くの貴族には受けが悪い様だった。
変化を嫌う者達にはやはり拳で戦う事は受け入れがたい様だ。
それを証明する様に、第二試合、オーソドックスな精魔騎士同士の戦いを見て貴族達は朗らかな笑みを浮かべていた。
「やはりこの大会の花形は精魔騎士だな」
「そうね、妖精銀の甲冑の煌めきに舞う精霊たち、我々エルフを代表する戦士にはあの様な優美な者達こそが相応しいわ」
そして第三試合、真田の見合い相手グリモラの戦いが始まると貴族達は再び眉を顰めた。
彼女の戦いは無数の上位精霊、火炎魔神に風の王等を召喚し彼らの放つ火炎と嵐等で一気に相手を追い詰めるモノだったからだ。
「まるで虐殺だ。いくら力を持っていてもやり方が荒すぎる」
「まったくだ。戦いにも礼儀という物があるだろうに……」
貴族達はグリモラの戦い方がお気に召さなかったようだが、一般席に座る者達にはその迫力から人気を博している様だった。
そして試合は進み、一回戦、第五試合、ラハンによって対戦相手を組み替えられた健太郎とシード選手では優勝候補と目されている精魔騎士ランベルとの戦いが始まった。
『それでは第五試合、選手の紹介をさせて頂きます!! 前度の大会で準優勝という成績を残され、今大会優勝候補として注目されております、北の守護神、ランベル・バニア・トーラス卿!!』
主審の紹介で長大な馬上槍を携えた白銀の騎士が歩み出てその槍を掲げると、会場は大きな歓声に包まれた。
『続きまして、なんと国の守りの要であるフォミナ家から参戦、ロミナ・ウルグ・フォミナ嬢!!』
健太郎もブンブンと両手を振って観客たちにアピールする。
「……ちょっとやり過ぎだよ、ミシマ……」
投げキッスまで始めた健太郎にミラルダは額に手を当てため息を吐いている。
「グヌヌ、ミシマ、試合が終わったら絶対に説教してやる」
名前と姿を貸したロミナは握った拳をブルブルと震わせていた。
「まぁ、ミシマは何というか、元々行動が大袈裟だからな。大目に見てやれ」
「大目に見ろだとッ!? グリゼルダ貴様、自分が同じ立場でもそんな事が言えるのかッ!?」
「…………すまん」
「まぁまぁ、お二人とも試合が始まるみたいですよ」
「さて、ミシマはどうやんのか」
そう言ったギャガンの視線の先、ロミナの姿をした健太郎は拳を握り腰を落とした。
健太郎は試合を終えた真田から早い段階で接近戦に持ち込んだ方がいいとアドバイスを受けていた。
実際、ラハンとの戦いも彼が遠距離戦を選択すれば負けないにしても、かなり試合は長引いた筈だ。
そんな訳で健太郎は試合開始と同時にランベルに接近戦を仕掛けようと距離を詰めた。
ランベルはその事に少し驚いた様子を見せ、風霊を呼び風を纏って距離を稼いだ。
「コホーッ!」
逃げないでよッ!
ランベルは薄い笑みを湛えたまま、自分を追う健太郎に不気味な物を感じていた。
そもそもフォミナ家の武術は精魔騎士のお手本とされる様な物だ。現在、健太郎が行おうとしている様な接近格闘をメインにした物ではない。
その事を知っていたランベルはそれについても違和感を感じていた。
「さりとてこのまま逃げ回っている訳にもいかん……『氷の魔狼!』」
『アオォォォン!!』
ランベルは移動しつつフェンリルを呼出し、風を使いその背に騎乗した。
騎乗と同時に手にしたランスに氷と風が渦を巻き、吹雪の槍を形作る。
氷はそれのみならず、ランベルの体をフェンリルの背に固定した。
「悪いが一撃で決めさせてもらう」
ランベルはそのつぶやきと同時にフェンリルの腹を蹴った。
フェンリルの四肢が地面を蹴り、一瞬で健太郎に迫る。その速度のままランベルは槍を健太郎に突き出した。
突き出された槍は氷の刃となって対象を抉り刻む、その筈だった。
だが健太郎はその掘削機と化した槍の穂先を左手一本で受け止めた。
「馬鹿なッ!? この私の槍を片手でッ!?」
「コホー……コホーッ!?」
捕まえた……っていうか、籠手が!?
ガッチリと槍の先を握ったはいいが、槍の纏った吹雪は健太郎の左腕に装備されたロミナの籠手を削り始めていた。
「コホーッ!!」
あわわ、ヤバいッ!! このままだと俺がエルフじゃないってバレちゃうッ!!
慌てた健太郎はそのまま槍ごとランベル、そしてフェンリルを片手で頭上へと持ち上げる。
「なっ、何だその膂力はッ!?」
「コホー……」
ごめんね、このままじゃ正体がバレちゃうから……。
謝罪を口にした健太郎は、彼らを思い切り闘技場の地面に叩きつけた。
『ギャンッ!?』
「グオッ!?」
「………………」
氷の結晶となって精霊界へと消えるフェンリル、その巨体に潰される形となり地面に伸びているランベル。
そんな異様な光景を生み出した健太郎を貴族も一般客もそして審判たちも茫然と眺めていた。
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