第一試合
リーフェルドの指導者であるベルゲンが開会宣言をしている頃、その息子であるラハンは大会運営の責任者である男の下を訪れていた。
「これはラハン様、何か御用ですか?」
「トーナメントの組み合わせはどうなっている?」
「ご存知の通り、一回戦はシード選手と予選組が当たる様になっておりますが?」
「予選組で黒いロングコートの様な服を着た男がいただろう?」
「ああ、地方豪族のメイファーン家のご子息ですな、彼が何か?」
「その男と僕を当たる様にしてくれ」
ラハンの言葉に責任者の男は顔を顰めた。
「いくらラハン様の願いでもそれは出来かねます。組み合わせは抽選で……」
「分かっている。だがな何も不正をしようという訳じゃない。他の奴と当たってあいつが負ける前に戦いたいだけだ。いいだろうそのぐらい?」
「…………ふぅ……分かりましたよ」
「あとロミナは決勝で僕と当たる様にしておいてくれ」
「ロミナ嬢……それだけですね?」
「ああ、それだけでいい。よろしく頼む」
ラハンはニヤリと笑って男に背を向けた。
責任者の男は去って行くラハンの背を眺め深いため息を吐いた。
■◇■◇■◇■
そんなやり取りの後、始まった第一試合、ラハンの望み通り会場中央の試合場には彼と真田の姿があった。
「店長頑張ってッ!!」
「ピポピポッ!!」
「ほう、第一試合はラハンが相手か」
「知ってるのかいロミナ?」
「話していた私の婚約者だ。いけ好かん男だが精魔騎士としては一流だぞ」
「へぇ、王子様も強いんだねぇ」
フードを深く被り顔を隠したロミナの答えにミラルダが少し驚いた声を上げる。
彼女の知る貴族の子息といえばリゼルぐらいしかいないので、貴族イコール余り強くないという認識が出来ていた。
「あの店長は勝てますか?」
「フフッ、心配いらん。お前も見ていただろうが、真田とは私とギャガンが考えられる全てのパターンで戦っている。奴はその全てをいなした。ラハンは一流ではあるがそれ以上では無い。真田には勝てんよ」
「ロミナの言う通りだ。あいつは俺と上位精霊の波状攻撃も捌いてみせた。並みの戦士じゃ勝てねぇぜ」
「そうですか……」
ロミナとギャガン、二人の言葉にホッとした様子のニーナに、ロミナは笑みを浮かべ視線を試合場に戻した。
『では第一試合、選手の紹介をさせていただきます。大会の主宰者でもあります大家長、ベルゲン様のご子息、ラハン・ギュリ・リーフェルド様!! 皆さんもご存知の通り、ラハン様は去年の大会でも三位という成績を残された優秀な精魔騎士であります!!』
主審が左手を翳しラハンを示すと会場からは「ラハン様ーッ!!」と黄色い声援が飛んでいた。
『続きまして、対するのは東の豪族、メイファーン家から参戦されたフィー・エルド・メイファーン選手ッ!! えー、フィー選手はわいさいけん……ですか、ご自身で考案された格闘術を使う、武器の使用を許された本大会では珍しいタイプの選手です』
主審の紹介に真田は右手を上げて応え、ラハン程では無いが声援を貰っていた。
『では両者前へ』
「潰す言うてたけど、いきなり当たるとはなぁ」
「フッ、偶然とは恐ろしい物だな」
「まぁええわ。ともかく試合は試合や、正々堂々お互いに頑張りましょか」
そう言って真田は右拳を左手で握り頭を下げた。
ラハンはそんな真田に一瞥をくれるとフンッと鼻を鳴らし細剣を抜いた。
「おい、さっさと始めろ」
『はっ、はい、では始めっ!!』
『雷神ッ!!』
ラハンが主審を促す形で始まった第一試合。
初手、ラハンはカミナリの上位精霊である雷神を呼出した。
鎧を着た巨人の手には雷を帯びた戦槌が握られている。
「雷神か……手にしたハンマーで多くの巨人を屠ったという伝説を持つ戦神だな」
グリゼルダの説明でニーナは眉根を寄せる。
「戦神……」
「雷神を呼ぶとは、ラハンは速攻で終わらせるつもりのようだ」
「ロミナ、予行演習でアレも呼んだのかい?」
「いや、私ではまだ雷神は制御出来ん」
「じゃあ店長は初めてアレと……」
「ニーナ、不安な顔しててもしょうが無いよッ!! 私達は精一杯応援しようじゃないかッ!!」
「ピポピポッ!!」
ミラルダとコロの声でニーナはギュッと胸元で右手を握り顔を上げた。
「そうですね……店長ッ!! ファイトですッ!!」
「分かってるでニーナはん『土小人』」
ニーナの声援に小さく呟きを返し、真田は土小人に呼び掛け右手に石を纏わせた。
「なんだそれは? そんな物で雷神の一撃が防げるかッ!! 『風霊ッ!!』」
腰を落とし拳を構えた真田に、ニヤリと唇を曲げたラハンは風霊に呼び掛け自身に風を纏わせる。
「一気に決めるぞッ!!『雷神ッ!!』
ラハンは纏った風の力で間合いを詰めながら、雷神に指示を出す。
指示を受けた雷神はラハンに先行する形で真田に駆け寄り、手にした戦槌を思い切り振り下ろした。
真田はその振り下ろされた雷を纏った巨大なハンマーを右に躱し、目の前を通り過ぎるそれに石に覆われた右拳を叩き込んだ。
ハンマーの打点がズレ、雷の巨人の体が真田から見て左に流れる。
『土小人』
真田はその巨人に拳を振るった反動で生じた回転を乗せた後ろ回し蹴りを叩き込む。
回し蹴りを放った右足には、まるで槍の様に石が形作られていた。
その槍が鎧に覆われた雷神の鳩尾を抉り貫く。
『ガアアアアッ!!!!』
「何だとッ!?」
驚きで目を見開いたラハンの前で、串刺しにされた雷神は一筋の雷となって精霊界へと送り返された。
真田はそのまま回し蹴りを放った右足を地面に打ち付け、こちらに向かって来ていたラハンに向かって前転する形で宙を舞った。
纏った風で体を浮かせていたラハンは真田の動きに対応出来ず、辛うじて頭上に細剣を構えた。
「それは悪手やな」
そんな言葉と共に真田は石のハンマーと化した右足をラハンの剣に叩き付けた。
「ガフッ!!」
妖精銀で作られた美麗な細剣は真田の踵落しには耐えた。しかしラハンの腕は耐え切れず剣を取り落とし、放たれた蹴りは彼の頭を綺麗に打ち抜いた。
「うん、わい最拳と精霊魔法、精魔騎士にも通用しそうやね」
そう言った真田の前、頭を打ち抜かれ地面にうつ伏せで叩き付けられたラハンは、四肢を曲げピクピクとその体を震わせていた。
駆け付けた主審はラハンが気を失っている事を確認すると、立ち上がり右手で真田を指し示した。
『フィー選手の勝利ですッ!!』
一瞬の静寂の後、会場は歓声に包まれる。
「店長ッ!!」
「ピポピポッ!!」
ニーナは両手を胸元で握り締め、コロは笑みを浮かべ花吹雪を振りまいた。
「うー、何で獣人は出れねぇんだよ」
「落ち着けギャガン、冒険者を続けていればこんな大会に出るチャンスもきっとあるさ」
その横では武者震いするギャガンの手にそっとグリゼルダが手を重ねる。
「一回戦は何とか突破だねぇ」
「だな……しかしラハンがこうも容易く敗れるとは……真田の武術、今後注目されるだろうな」
「注目……」
ミラルダはロミナの言葉を聞いて、真田が打ち込んで来た事がこの会場の何処かにいる彼の父親に伝わればいいと心の中で願った。
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