試合会場へ
岩山から戻った翌朝、しっかりと睡眠を取った真田達と共に健太郎は街を構成する巨木群の中央にある本戦会場へと向かっていた。
会場は予選を行った屋内とは違い、樹霊の力によって作られた枝が渦を巻いた様な作りの樹上闘技場で行われる運びとなっている。
渦を巻いた枝は階段状の観客席や選手控室等を形作っており、その中心、平らな巨木の幹部分が戦いの場となる様だ。
本戦会場への選手の移動は精霊の力を使った専用のゴンドラ、木製のロープウェイで各巨木から渡る形となっていた。
そのゴンドラの乗り口で真田とニーナは真田の両親、カルボとリシュナと鉢合わせた。
「……来てたんか、オトン、それにオカンも」
「グリモラに教えて貰ってな……それで、その栗色の髪の人族がそうか?」
ガルボは真田の横にいたニーナにチラリと視線を向ける。
「そうや。オトンはグリモラと一緒になって欲しいんやろうけど、わいはこのニーナはん以外と所帯を持つ気はあれへんねん」
「それもお前が優勝出来なければ泡と消えよう」
「せやな、けどわいは優勝するで」
「精魔騎士相手に魔法を使えぬお前が? ククッ、見ものだな、精々足掻くがいい」
そう言うとガルボは真田に背を向け、杖を突きつつ貴賓客用のゴンドラへと向かった。
「フィー、わざわざここで待っていたのはあの人が言い出した事なの。あなたの選んだ人が見たいって……あの人素直じゃないから……」
「オカン……」
「お義母様……」
「おい、何をしているッ!? 早く来んかッ!!」
こちらを振り向いたカルボが声を上げる。
「はいはい、今行きますよッ!! フィー、何としてでも優勝しなさい。そうすればきっとあの人も……」
「リシュナッ!!」
「フィー、ニーナさん、それじゃあまた後で」
「あっ、はいッ!」
真田とニーナに微笑みながら手を振ってリシュナはカルボの下へと駆けていった。
「ふぅ……相変わらずオカンは慌ただしいなぁ」
「お義母様は私達の事、応援してくれているみたいですね」
「せやな。こりゃ絶対優勝するしかのうったなッ!」
真田はギュッと右拳を握り自身に発破を掛けた。
「フフ、優勝するのはこの私よぉ、それでフィー、貴方は私の物になるのぉ」
「グリモラッ!?」
「フフフ、その小娘が貴方の相手だったのねぇ……」
「ヒぇッ!?」
グリモラが血走った目をニーナに向けると、彼女は思わず真田の服を掴み彼の背後に身を隠した。
真田もニーナを庇う様に左腕を広げる。それを見たグリモラはカッと目を見開いた。
「グググッ……今に見ていなさいぃ! 大会が終わった時、彼の隣にいるのは私なんだからぁッ!」
ガチガチと歯を打ち鳴らし唾を飛ばしたグリモラは、肩を怒らせゴンドラへと消えて行った。
「こっ、怖かったです」
「ふぅ……なんであないにわいに執着しとるんやろか……」
「コホーッ!!」
先生、お待たせッ!! ニーナさんのゴンドラのチケット取って来たよッ!!
「さよか……」
ロミナモードの健太郎が駆け寄ると真田とニーナはホッとした様にため息を吐いた。
■◇■◇■◇■
本戦会場は前述の通り大樹の形を樹霊の力で変え、形作られていた。
その会場の観客席の下、選手控室へ向かう廊下で健太郎はシード選手の一人に絡まれていた。
「ロミナ、僕に会いたくてわざわざ大会に出場したのかい? そんな事しなくても婚約者なんだからいつでも会いに来てくれて構わないのに」
その金髪碧眼の美青年は今にも抱きつかん勢いで健太郎に接近してくる。
いつもであればそんな輩は拳一発で黙らせる所だが、試合前に揉め事を起こせば失格になるだろう。
「ラハン様、ロミナはんは純粋に力試し目的で出場しただけです。それに選手同士の過度な接触はペナルティの対象に……」
そう言って自分と健太郎の前に割り込んだ真田をラハンは不機嫌そうに睨め付ける。
「なんだ君は? その女性は僕の婚約者だ。部外者は黙っていてくれ」
「黙りまへん。このお人には随分世話になってます。困っているのを見過ごす事は出来へん」
「……君は先程、僕の名を呼んだな? では僕が誰だか分かっているのだろう? その上で邪魔をするというのか?」
「ここではわいもあんさんも一選手に過ぎまへん。身分の事は関係あらへん」
「コホー」
先生、ありがとう。ぶっ飛ばす訳にもいかなくて困ってたんだ。
「気にせんといて……」
「おい、僕のロミナとコソコソ話すな」
「……あんさんも僕の、でっか……あんなラハン様、ロミナはんあんたの事えらい嫌てたで。反りが合わんちゅうてな」
「何ッ!? 本当かロミナッ!?」
「そんなん、本人の前で言えますかいな。代わりに言わせてますけど、ロミナはんはエルフの血筋、自分の身分を誇るトコが気に入らへんらしいわ。そういう訳やからロミナはんには近づかんといてもらえます?」
そう言って真田はシッシッと野良犬を追い払う様に右手を振った。
「ググッ、この僕に向かってよくも……覚えていろ、君は試合で容赦なく潰す! ロミナ、君もだ! 誰が主であるかしっかりと認識させてやるッ!!」
怒りで顔を引きつらせラハンは叫ぶと、彼らに背を向け廊下を歩き去った。
「コホー……」
グリモラといいラハンといい、相手を自分の所有物とでも思っているみたいだ……。
「せやね……ともかく試合が始まるまでは大人ししとこか。問題起こして失格になったら目も当てられんわ」
「コホーッ」
そうっスね。
健太郎達が控室の隅で目立たない様にひっそりと佇む中、闘技場ではこの国の指導者である大家長、ベルゲン・ギュリ・リーフェルドによる開会の言葉が宣言され、精霊魔闘会は厳かに開始された。
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