精霊魔法と小型ロボ
訓練の為にある程度広い場所が必要だ。
そう言ったロミナはいい場所があると健太郎と真田にラテールの街の南西にある岩山を示した。
その言葉を受けて、VTOLモードに変形した健太郎はロミナと真田を乗せて岩山へと向かった。
ロミナの話では、岩山はトラスに憧れた彼女が昔、修行した場所らしく、山中にはキマイラ等も生息しているらしい。
「フフフッ、わざわざ探さなくても向こうから寄ってくるからな。練習相手には丁度いいぞ」
「キマイラでっか? 確かに火ぃ吹くしええかもしれまへんなぁ」
「そうだろう。何度も返り討ちにしている内に懐いてな。中々に可愛い奴だった」
「……バババババッ……」
……返り討ちにして懐かれる……なんだろうか。ロミナの事が何だか金太郎に思えてきた……もしかして乗ってたグリフォンもそうやって手懐けたのだろうか……。
そんな話をしている内に眼下には岩山の山頂が見えて来た。
「ふむ、ミシマ、あそこの開けた場所に降ろせ」
「バババババッ」
了解ッ。
操縦席からロミナが示した場所はゴツゴツした岩がそそり立っている山でも比較的、平な場所だった。
空き地の横には大きな池があり、周囲には疎らではあるが背の低い木が生えていた。
健太郎がロミナの指示に従いその空き地に下りると、すぐさま獅子と山羊の頭に蛇の尾を持つ巨大な獣が姿を見せた。
「わっ、ホンマにすぐ出て来たッ!?」
真田が上げた驚きの声を横目に、ロミナはスタスタとVTOLモードの健太郎から降りた。
キマイラは健太郎から降りたロミナを見つけると駆け寄り、彼女の体に獅子の頭を擦り付けた。
「ニ゛ャーッ、ゴロゴロ」
「フフ、久しぶりだなルル。元気だったか?」
「メェエエエッ」
「そうかそうか」
ロミナは嬉しそうに巨大な二つの首に腕を回し、ポンポンとその首を叩いている。
「なんや、キマイラってもっと狂暴なイメージやったんやけど……」
「コホー……」
猫みたいだな……ちょっと可愛いですね。
「せやな……」
二人並んでキマイラと戯れるロミナを見ていると、彼女はおもむろに振り返り口を開いた。
「さて、真田に教える精霊魔法だが、武闘家である貴様には攻撃よりも防御に使えるモノを優先して教えたいと思う。どうだ?」
「さいですねぇ。攻撃はわい最拳がありますから、それででお願いしたいです」
「うむ。ではまずは水幕を習得して貰おうか。それが出来たらルルの吐く炎を捌いてもらう」
「水幕、水霊の使う、火炎系の攻撃を防ぐ水の幕を、身体の回りに張る魔法やったやろか?」
「そうだ。水幕、土盾、風壁あたりをマスターすれば精霊の使う大体の魔法は防ぐ事が出来る筈だ。それでは早速、池から水霊を呼び出せ」
久しぶりやなぁ、そう呟きながら真田は精霊語で水霊に呼び掛ける。
『ちょっとそこの水霊はん、出て来て貰えんやろか?』
真田の呼び掛けに応え、池から水で出来た身体を持つ小さな女性がフヨフヨと宙を舞って彼に近づいた。
「コホーッ」
あれが水霊って奴か……精霊語、普通に話している様にしか聞こえないんだが……。
「ハハッ、ミシマはんの身体にもわいのスキルと同じ様なもんが付いてんのかもなぁ」
「……ミシマは精霊語が分かるのか?」
「コホーッ」
普通に言葉を話している様にしか聞こえないよ。
「分かるみたいや」
「ふむ、ではミシマも精霊魔法が使えるかもな。『どうだ、こいつと契約する気はあるか?』」
ロミナは真田が呼び出した水霊に健太郎を指差しながら問い掛けた。
『なーい、その人、魔力がないもーん』
水霊は一瞬、健太郎を見ただけで即座に首を振った。
「コホー……」
クッ、何だろうかこの敗北感は……。
「ふむ、まぁゴーレムだしな。では真田、水霊と契約しろ。言葉はなるべく簡素且つ明確にするのがコツだ。上位の精霊は知能が高いが、下位の精霊は意識の薄い者が殆どだからな。言葉よりもイメージを優先させろ」
「イメージが大事、やね……『えっと、ワイの魔力と引き換えに暫く付き合って貰えるやろか?』」
真田は水霊に仲良うしてなという思いを乗せて言葉を紡いだ。
そんな真田の問い掛けに水霊は彼の周りを暫く回り観察すると、やがて『いーよ』と返事を返した。
「よし、では次に水霊に術の行使を命じるんだ。その際、水霊に魔力を提供する事になるが、コツとしては彼女に対し心を開く感じだ。警戒心を持つと上手く魔力の受け渡しが出来ず精霊界に帰ってしまうから気を付けろ」
「コホーッ……」
心を開くか……俺はいつだってオープンマインドなんだが……クソッ、魔力ってなんだよッ!
そう呟いた健太郎は羨ましそうに水霊と話す真田を眺めた。
『えっと、魔力を融通するさかい、わいに水幕を張って貰えんやろか?』
『……いーよ。じゃあ魔力貰うね』
真田の心に冷えたサラサラする何かが触れる。
「心を開く……警戒心を無くして……」
昔、真田がまだこの世界に転生して間もない頃、普通のエルフの子供なら出来る精霊との交流が彼には上手く出来なかった。
恐らく精神的に大人だった事で、心に壁を作り守る事が当たり前となっていた事が原因と思われる。
しかし、あれから二百年以上が過ぎ、武闘家として技だけでなく心も磨いて来たつもりだ。
好きなだけ見たらええ、今のわいの心は洗い立てのシーツ並みに真っ白やでッ!!
そんな真田の想いを感じ取ったのか、水霊は嬉しそうに微笑み、彼の身体の周囲に薄い水の幕を作り出した。
「やった……やったでロミナはんッ!!」
「よし、基本である精霊と心を繋ぐ事は出来たな」
「あのロミナはん……この水幕やけど拳だけに張るみたいな事は出来んやろか?」
真田が試したい事があると言っていたのは魔法の形を変える事だったようだ。
「ほう、今からまさにそれを教えようと思っていた所だ……いいか、現在は身体全体を水幕が覆っている状態だ。だがそれでは恐らく火矢を一発喰らえば穴が開いてしまうだろう。今度は先程とは逆にお前から水霊の心に触れろ……そうだな、拳に集中して幕を張るようイメージを伝えるんだ」
「拳に……グローブみたいな感じやね」
「そうだ。上位の精魔騎士はその繋がりによって、世界の至る所にいる精霊の力を自在に攻撃と防御に組み込める。こんな感じにな『土小人よッ』」
ロミナが精霊語で呼び掛けると彼女の前に一瞬で土の壁が現れた。
その横では彼女のひざ下程の大きさの半透明の小人が、槌を肩に担ぎ『ふぅ』と額の汗を拭っている。
「コホーッ!!」
凄い、言葉で細かく命じなくても壁とか作れるんだッ!!
「ふえー、たいしたもんや……」
「先程の言葉には契約から術の行使までのイメージを乗せた。貴様にそこまでは望まんが手と足に瞬時に防壁を張るぐらいはマスターしないと、本戦で勝つ事は難しいだろうな」
「フフッ、久々に修行の日々に戻ったみたいや……ロミナはん、おおきに。精霊魔法、本戦迄に絶対に物にして見せるでッ!!」
『おーう』
真田の心に反応したのか彼の横に浮かぶ水霊も拳を振り上げた。
「コホー……」
いいなぁ……俺もあんな感じの応援してくれる小っちゃい何かが欲しいなぁ……。
それに反応してか健太郎の背中、いつもスラスターが出て来る場所がパカッと開き、そこから円形の小型ロボットが飛び出した。
円形の側面からは蛇腹のアームが二本伸び前面にはカメラらしき物が付いている。そして原理は不明だが宙に浮かんでいた。
「コホーッ!?」
何なのコレッ!?
「ピポピポッ!!」
ロボットは健太郎の周りを飛びながらアームを振り上げエールを送っている様だった。
「……ミシマ、何だそれは? まさか危険な武器ではあるまいな?」
「コホー……」
何だって聞かれても俺にも分からないよ……。
「ピポピポッ!!」
「なんや楽しそうやねぇ」
「コホー……」
先生……違う、俺が思い描いていたモノじゃないんだよコレは……。そんな健太郎の呟きは「ピポピポッ!!」という甲高い電子音にかき消された。
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