予選突破
リーフェルドで年に一度催される武術大会、正式名称は精霊魔闘会と言うらしいが、何故か殆どの者は武術大会や単に大会と呼んでいた。
その予選会場では健太郎(ロミナモード)が対戦相手と対峙していた。
「お嬢さん、悪い事は言わない、その美しい顔に傷が付く前に棄権したまえ」
その細剣を携えた貴公子然とした男は健太郎に余裕の笑みを浮かべ、肩を竦めている。
「コホー……」
うーん、見た目はロミナだからなぁ……まぁ戦う意思だけは見せておくか。
健太郎が拳を握り腰を落とすと男は呆れたとばかりにため息を吐き、首を振った。
「忠告はしたよ」
「では始め」
「コホーッ!!」
疾風一閃ッ!!
「なッ!? はっ、速いッ!! ブべッ!?」
真田のアドバイスを聞いていた健太郎は、相手が何かする前にスラスターダッシュで間合いに踏み込み、咄嗟に相手が構えた細剣を砕きその勢いのまま胸当てに拳を叩き込んだ。
加減はしたのだが吹き飛ばされた貴公子っぽい男は、会場の壁に激突し目を回していた。
「何だ今の? 背中から炎みたいな物が……」
「精霊魔法か?」
「いや、特に精霊の動きは見えなかったが……?」
他の参加者の声を聞いて、健太郎はやっぱスラスターも使わない方がいいなと少し反省した。噴射拳は我慢したのだが……。
「えー……勝者73番……参考までに聞きたいのですが、先ほどの技は?」
「……」
「しっ、失礼しましたッ!」
説明に困った健太郎が無言のまま見つめ返すと、審判は慌てた様子で目を逸らした。
どうも借りた騎士服の紋章を見て、フォミナ家の人間だと勘違いしたようだ。
うーん、やっぱり地位が高いと色々スムーズに進むなぁ……リゼルの騎士団の話ももう少し考えても良かっただろうか……いや、やっぱり組織に属するのは二度と御免だッ!!
健太郎は一瞬、騎士になった自分を想像したが、かつて会社で受けた扱いの事が脳裏をよぎり頭を振って意識を切り替えた。
「ミシマはん、どないした?」
試合場から出た健太郎に真田が駆け寄り声を掛ける。
「コホー……」
いや、ちょっと昔の事を思い出しちゃって……。
「昔の事なぁ……なぁ、わい等はもう新しい人生を生きてる。過去は参考にする事はしても、後悔する必要はないんやないかな?」
「……コホーッ!」
……そうですねッ! 今を楽しむべきですよねッ!
「そうやで……所でグリモラの試合見てたんやけど……」
「コホー?」
どうでした?
「やっぱり、思てた通り上位精霊を召喚して一気に試合を決めてたわ。ブロックが上手い具合に離れてるから、わいもミシマはんも予選では当たらんやろうけど……」
「コホー……」
グリモラかぁ……雰囲気がもう既に怖いんだよな、あの人。
「昔はああやなかったんやけどねぇ……」
そんな話をしていると、15番と真田の番号が呼ばれた。
「あ、はいはい。ほなちょっと行って来るわな」
「コホーッ!!」
先生、頑張ってッ!!
健太郎の声援に手を振り真田は試合場へと向かった。
その後も健太郎達は順調に勝ち進み、本戦出場の権利を無事勝ち取った。
■◇■◇■◇■
ホテルに戻った健太郎はミラルダ達に予選を突破した事を伝え、真田の見合い相手のグリモラが大会に出ていた事を話した。
「今日見た所ではグリモラは相当な使い手や、対策立てんと手も足も出ん間に終わってしまいそうや」
「店長ぉ、大丈夫なんですか……?」
「ああ、その為にロミナはんに精霊魔法を教えてもらお思うてる」
「だが真田の精霊魔法は基礎の基礎で止まっているのだろう?」
首を傾げたグリゼルダに真田は笑みを浮かべた。
「ちょっと試したい事がある。今から言語魔法を習得するよりは確実な筈や」
「確かに、基礎の基礎でも使い方の分かってる魔法の方がいいかもねぇ」
「それで、予選を突破したのはお前らとグリモラ以外はどんな奴なんだ?」
「一人は生命の精霊を操ってた。魔法で肉体強化して戦う、この国ではオーソドックスな騎士タイプやな」
「コホーッ」
もう一人は沢山精霊を使って弾幕みたいなのを張ってたよ。
「ふぅ、どっちも手強そうだねぇ……ロミナなら部屋で休んでいる筈だよ。のんびりするって言ってたけど……」
「コホーッ」
先生、ともかく話してみよう。
「せやな」
■◇■◇■◇■
「それで、私に精霊魔法を教えて欲しいと?」
ラテールの街のホテルの一室、ラフな格好したロミナがソファーに寝そべり、棒付きの氷菓子を舐めながら真田に答えている。
「そうや、仲間内で精霊魔法が使えるのはロミナはんだけやさかい」
「ふむ……教えてやってもいいが、一つ条件がある」
「何やろか?」
真田の喉がゴクリとなった。
「優勝した時の願いで国民の自由を縛る法の廃止を求めて欲しい。無論、犯罪行為についてはその限りでは無いが、これが通れば現状である優秀種維持法と出入国制限法なんかは廃止となるだろう」
「……それが廃止になったらわいはニーナはんと……」
「この国の法的には問題は無くなるだろうな。後は結婚の手続きでも取ればお前の実家も諦めるんじゃないか? 出入国制限法がなくなれば、私も世界を巡る旅に出られる、それに大会で私の姿のミシマが活躍すれば、父も私の実力を認めざるを得んだろうしな」
「コホーッ!?」
ロミナに都合のいい事ばかりじゃないかッ!?
「何だミシマ、何か文句があるのか? 大会に出られたのは誰のおかげだと思っている」
「……コホーッ」
……ロミナさんです。
ロミナの姿を借りて大会に出ている健太郎は、現状彼女に強く出る事は出来なかった。
「分かった。その条件でええから、わいに精霊魔法を教えてくれる? 一応基礎は子供の頃にやってるから、そこまで時間は掛からへんと思うんやけど」
「いいだろう。では時間も無い事だし早速始めようかッ?」
そう言うとロミナはソファーから立ち上がって氷菓子を一気に完食し、残った棒をゴミ箱に投げ入れニッと笑った。
「よろしゅう頼んますっ!!」
その笑みを見て右拳に左手を当て頭を下げた真田の先、ロミナはコメカミを右手の親指と中指で挿む様に押さえている。
「ロミナはん?」
「何でも無い……ちょっとキーンと来ただけだ……」
「コホーッ……」
一気に食うからだよ……教師役はホントにロミナで大丈夫なんだろうか……。
一抹の不安を抱えた健太郎の呼吸音がホテルの部屋に小さく鳴り響いた。
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