真田とオカン
真田が父親のカルボの身体を気遣い抵抗を止めた事で、健太郎も暴れるタイミングを逸し結局二人は屋敷の牢に閉じ込められる事となった。
木の根が形作った格子の中、板張りの床に座り込んだ真田がため息を一つ吐き健太郎に話しかける。
「はぁ……すまんなぁミシマはん、こないな事に付き合わせてしもうて……」
「ム゛ーム゛ッ?」
それはいいんだけど、これからどうするの? ニーナさん、この街にいるんだけど……。
「この街に……せやなぁ……何とか国を出てニーナはんと教室やる事を認めて貰わんと、ちょっかい出されても困るしなぁ……」
「ム゛ーム゛ッ」
親父さん、頑固そうだったもんねぇ……いっそロミナが言ってた様に駆け落ちして子供を作っちゃえば……。
「こっ、子供って何言うてんのッ!? わいらまだ恋人にもなってへんのやでッ!!」
「ム゛ーム゛ッ」
既成事実を作れば親父さんも諦めるかなって、それに先生もニーナさんの事、好きなんでしょ?
「そらぁ、武術教室をエクササイズ教室にしたり、色々アイデア出してくれて、苦楽を共にした仲やからなぁ」
「ム゛ーム゛ッ」
教室の事ばっかりだけど、女性としてはどうなの?
「……ミシマはん、結構グイグイくるねぇ」
「……ム゛ーム゛ッ」
……ニーナさん、泣いてたから。親父さんを説得出来ないにしても、メッセージの答えはちゃんと返してあげて欲しい。
「せやなぁ。あない真剣なニーナはん、初めて見たし、こっちも真剣に答えな失礼やろなぁ……」
天井を見上げそう真田が呟いた時、俄かに周囲が騒がしくなった。
「通しなさいッ!!」
「おッ、奥様、落ち着いて下さい。旦那様から誰も近づけるなときつく仰せつかっていますので……」
「あの人が何と言おうが知った事ですかッ!! 母親が息子に会うのに理由など必要ありませんッ!!」
「奥様どうか、お通しすれば我々が叱責を受けてしまいます」
「叱責!? ではこうすればいいわッ!! 『砂男よ、この者達にお前の砂をッ!!』
「おっ、奥様ッ!? ……クッ……」
バタバタと何かが倒れる音が響き、やがて牢の前に中年のエルフの美女が姿を見せる。
「ム゛ーム゛……」
少しきつそうだけど、やっぱりエルフは美人が多いなぁ……。
「ハハッ、キツイってのは合ってるわ……オカン、相変わらず無茶すんなぁ」
「フィー、貴方直接、何も策も無しにあの人に国を出たいと言ったそうね?」
「まあな、ラーグで一緒に働いてた娘に告白されて、未来の事考えたらもう国を出るしかないと思うてな」
「……その娘の事を愛しているの?」
「オカンも息子相手に愛してるとか、よう聞くなぁ」
「はぐらかさないでハッキリ言いなさい」
真田の母親だという女エルフは、切れ長の目を更に細め真田を凝視した。
「……愛してるよ。武術馬鹿のわいにずっと付き合ってくれてんねん。ニーナはんがおらん暮らしはもう想像出来へんわ」
「そう…………いいでしょう。会いに行きなさい」
真田の母リシュナは彼の答えに優しい笑みを浮かべると、兵から奪っただろう鍵を使い牢の扉を開けた。
「オカン……けど逃げ出した事がバレたらすぐに追手が……」
「あの人なら確実にそうするでしょうね……そうねぇ……私が擬態の魔法を使って貴方のふりをすれば……」
「そんなん何時間も出来るもんやないし、オカンがおらんようになったらそれはそれで騒ぎになるやろ」
「確かに……困ったわね……」
「ム゛ーム゛ッ」
あの、先生、俺を床に置いて貰っていいかな?
「ん? 床に?」
「フィー、急に何を?」
突然胸元に向かって話しかけた息子にリシュナは怪訝そうに眉を顰める。
「ああ、この人はわいの弟子でゴーレムのミシマはん」
そう言って胸ポケットから取り出した携帯モードの健太郎を翳した息子に、リシュナは更に眉を寄せ首をかしげる。
「フィー、ゴーレムって、そんな小さなゴーレムなんて見た事ないし、そもそも人の形をしてないじゃない」
「ミシマはんは色々形を変えれるんや。それとオカンはわいのスキル「聞き耳」の事も知ってるやろ? あのスキルでわいはミシマはんと話せんねや」
「……ホントにゴレームなの? ただの金属の板にしか見えないけど……」
「まぁ、ええから……ほい、これでええか?」
真田は健太郎を床に置き、少し離れた。
それを確認し健太郎は脳裏に強く真田の姿を思い浮かべる。対象が目の前にいるので想像する事も随分と楽だ。
変形は俺の想いをくみ取って行われる筈だ。なら出来る筈。
しばし無言の時が流れ、やがてカシャカシャという音がその沈黙を打ち破る。
「こ、これは……」
「そんな、擬態でもこんなに完璧にはならないわ……」
驚き目を見開いた二人のエルフの視線の先、その片方、真田と瓜二つのエルフが牢の中で彼らを見返していた。
「ミシマはん……あんた人の姿にもなれたんか?」
「コホーッ、コホーッ!!」
うん、頑張って想像したら変形出来た、って、結局言葉は話せないのかよッ!!
「喋るんは出来へんみたいやね。しかしよぉ出来てるなぁ……」
「コホーッ!」
これなら身代わりもイケるよねッ!
「確かにこれやったら……」
そう呟きつつ、自分に瓜二つな健太郎の姿に思わず真田は手を伸ばす。
「って硬ッ、ミシマはん、あんたの身体カッチカチやでッ!?」
「コホーッ!?」
エッ、嘘ッ!? あ、ホントだ。見た目は人間っぽいけど硬いままだ。髪はワイヤー的な感じで曲るけど、服とかも関節部分に切れ込みがあるし……なんかフィギュアみたいだ……。
「ホンマやなぁ……ミシマはん、それ服無しバージョンは出来る?」
「コホー……コホーッ!!」
服無し……やってみますッ!!
「オカン、ちょっとわいの服持って来てくれる? なるべく地味な奴」
そう言いつつ、真田は服を脱ぎ下着姿になる。
「……えっ、ふっ、服ね、わかったわ」
茫然と健太郎の変形を見ていたリシュナは真田に声を掛けられた事で我に返り、慌てて服を取りに駆け出した。
彼女が去った後、健太郎は目の前にいる下着姿の真田を思い浮かべる。正直美形なエルフとはいえ男の下着姿を想像するのはきつかったが、健太郎は何とか頑張って彼の身体を脳裏に思い描いた。
「おお……てか、こう客観的に自分の半裸を見んのはキツイもんがあるなぁ」
「コホーッ!!」
先生より俺の方がダメージが大きいんだから、そんな事言わないでよッ!!
「ああ、すまんすまん。ほな、ミシマはん、この服、着てもらえる?」
そう言うと真田は自身が先程まで着ていた服を健太郎に手渡した。
手渡された服を健太郎が着込むと、関節の切り込みもそれ程目立たなくなり、ぱっと見、真田と見分けが付かなくなった。
「フィー、服を持って来たわ……これは……ホントに見分けが付かないわねぇ」
二人の真田に見つめられたリシュナは、そう言うと呆れが混じった苦笑を浮かべた。
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