真田とオトン
用は終わったと立ち上がったロミナを見送ると、胸ポケットに携帯モードの健太郎を潜ませた真田は父であるカルボの寝室へと向かった。
「ム゛ーム゛ッ」
所で先生、説得するって言ってたけど出来る見込みはあるんですか?
「無いな。わい、二百年近く好き勝手やって来たさかい、オトンの中ではどうしょうもないクズや思われてるから……」
クズか……。
その言葉を聞いた健太郎の脳裏に自分の両親の姿が浮かび上がる。
彼らは期待に応えられなかった健太郎を散々罵倒した。出来損ない、三嶋家の恥、そしてクズだと……。
そんなに親の敷いたレールから外れるのが駄目な事なのか?
人間は機械じゃない、出来る事、出来ない事があって当然だろう。
偶々、親の求める事が苦手だっただけだ。
真田も恐らくそうだったのだろう。彼の父親は跡継ぎとしてエルフらしいエルフを望み、真田は武の道に生きる事を望んだ。
「ム゛ーム゛ッ」
先生、もし説得が無理だと感じたら言って下さい。どんな手を使っても逃がしますから。
「どんな手でもって、あんまり家のもんに対して乱暴な事はせんで欲しいんやけど、一応実家やし……」
乱暴な事……ビームで壁に穴を開けたり、DXで暴れたりとか考えてたけど……やっぱ駄目だろうな……なんかもっとスマートな方法があれば……。
「まぁ、ここはわいに任せて。取り敢えずオトンと話してみるから」
「ム゛ーム゛ッ!!」
うっスッ!!
健太郎の返事を聞いた真田は歩を進め、やがて父親の寝室の前で歩みを止めた。
彼は少し迷いを見せた後、それを振り払う様に首を振ってドアをノックする。
「誰だ?」
「フィーです」
「入れ」
壮年の男の声が響き、それを受けて真田はドアを押し開けた。
「客人は帰ったのか?」
ベッドの側に歩み寄った真田に彼のこの世界での父親カルボは問い掛ける。
「はい」
「それでフォミナ家の娘が、地方豪族に過ぎない我がメイファーン家に何の用だったのだ?」
「私への伝言を届けてくれました」
「伝言? 一体誰からの伝言だ? まさかバリアラ様から?」
「いいえ、私がラーグで一緒に働いていた人族の娘からの物です」
「どういう事だ? なぜ人族の伝言をフォミナに連なる者が伝える? いったい何をその娘は伝えてきたのだ?」
「ずっと私の事が好きだったと、戻って来て欲しいと言われました」
真田の言葉を聞いてカルボの眉間に深いしわが刻まれる。
「まさかとは思うが、応える気では無かろうな?」
「応えようと思うてます」
「何だとッ!? それにその話かたは止めろとあれほど……」
カルボは歯をギリギリと鳴らし真田を睨み付ける。
「色々、オトンには縛られて来たけど、やっぱりわいは武術が好きや。そんで身に付けた技を色んな人に伝えたいと思うとる。それには閉じたリーフェルドでは駄目なんや。せやから家を出る事を認めて欲しい」
「こっ、この期に及んでまだそんな事をッ!! そんな事を認める訳が無いだろうッ!!」
カルボは顔を真っ赤にして声を荒げた。
胸ポケットからその様子を見ていた健太郎にも説得は絶望的である事が窺えた。
「……やっぱアカンか…………オトンには悪いけど、この家の跡取りは従弟のシエルにでもしてんか。そうそう、あとグリモラの事やけど、何かにつけて下の者を見下すあのお人とは、やっぱりやって行く自信はないわ、ほな、オトン、お世話になりました」
「待てフィーッ!! 家を出るなど許さんぞッ!!」
真田はカルボの叫びには答えず、ペコリと頭を下げ身を翻した。
「むざむざ行かせるかッ!! 『風霊よ、彼の者に風の刃を浴びせよッ!!』」
「ム゛ーム゛ッ!?」
先生ッ、危ないッ!!
カルボの呼び掛けに応え現れた風霊が、真田に向けて真空の刃を放つ。
振り返った真田は本来魔法でしか防げないだろうそれを、左手一本で受け流した。
受け流された刃は軌道を変え、見事な彫刻の刻まれた壁に深い傷を穿つ。
「馬鹿な……風刃を素手で……」
「カルボ様、何事ですかッ!?」
風刃の発生させた音を聞きつけ、屋敷にいた召使いや警備の兵がガルボの寝室に駆け付ける。
「フィーを取り押さえろッ!! そやつは国法を無視し人族の女の下へ走るつもりだッ!!」
「人族のッ!? フィー様本当ですかッ!?」
「ああ、ホンマやで」
「なんと愚かな……カルボ様がどれだけ貴方の事を気に掛けていたと……」
執事風の男が真田に非難の目を向ける。
「気にしてたんは跡継ぎのしてのわいやろ? この家継がへんのやったら気にする必要は無いやろ」
「そんな勝手が許されるかッ!! 構わん、精霊を使い拘束せよッ!!」
カルボの声で集まった召使いや兵達は一斉に精霊に語り掛け魔法を行使した。
呼び出された樹霊が腕を振ると床板から無数の蔦が伸び、真田の体を拘束しようと襲い掛かる。
真田はそれをステップと両腕でしのいでいたが、その内の一本が彼の左手に絡み付いた。
「グッ、流石にこの数は捌ききれへんなぁ……」
「ム゛ーム゛ッ!!」
先生、ここは俺がッ!!
「いや、ミシマはんやと殺してしまうかもしれへんやろ?」
「ム゛ーム゛ッ!!」
大丈夫ッ、俺の電撃なら広範囲の相手を殺さずに無力化出来ますッ!!
そう言った健太郎の言葉で真田はチラリとカルボに目をやった。
カルボは興奮の為か服の胸元を握り締め、荒い息を吐いている。
「……年取ったなぁ、オトン……すまん、ミシマはん、あんたの電撃がどんなもんか知らんけど、今のオトンには耐えられそうにないわ……」
「ム゛ーム゛ッ……」
確かにあの様子じゃ、電撃のショックは耐えられないかもしれない……。
胸のポケットからカルボの様子を見た健太郎も真田の言葉に同意せざるを得なかった。
「せやろ……はぁ……降参や。好きにしい」
抵抗を止めた真田を樹霊が操る蔦が絡め取る。
「はぁ、はぁ……この馬鹿息子が……牢に繋いでおけ」
「ハッ」
「フィー、暫く牢で頭を冷やせ」
「わいの気持ちは変わらへんよ」
「お前はこの家の跡継ぎなのだ。もう一度良く考えろ」
蔦に巻かれた真田の答えにカルボは顔を歪めると、顎をしゃくり連れて行けと低く命じた。
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