告白
エルフの国リーフェルド、その地方都市カラミリ。
そのカラミリを治めるメイファーン家の家長であるカルボ・エルド・メイファーンは、ベッドから身を起こし、召使いの言葉に困惑気味に尋ね返した。
「本当にその娘はロミナ・ウルグ・フォミナと名乗ったのか?」
「はい、騎士服に刻まれた紋章は間違いなくあのフォミナ家の物でした」
「……何故近衛の長であるフォミナの者がフィーに……」
「どうなさいますか?」
「会わせぬ訳にはいかんだろう。フィーを呼べ」
「畏まりました」
頭を下げて部屋を辞した召使いを見送り、カルボはロミナの来訪の真意を考える。
地方領主に過ぎないメイファーン家に、中央で権勢を振るうフォミナ家が接触する意味……。
フィーは格闘技に関してはカルボも認める使い手だ、武の一族であるフォミナが彼の技を欲している?
いや、フィーの技は純粋に体術のみを用いた物だ。精霊魔法を武技に組み込んだフォミナ流の弓術や剣術にはそぐわない筈……。
ただ手合わせがしたい? 馬鹿馬鹿しい、そんな理由でわざわざ中央からこんな辺境まで足を延ばす筈がない。
分からん……まさかフィーの奴、何か問題をッ!? しかしラーグへ向かわせた者達からそんな報告は受けていない。
カルボの中に不安が渦巻く中、ドアがノックされ、彼の心を乱した原因である息子のフィー(真田)が顔を見せる。
「お呼びですか、父上」
「ああ……お前に客が来ている」
「客? どなたですか? 見合いはまだ先ですよね?」
「引き合わせる前に一つ聞きたい。お前、フォミナ家と何か問題を起こしたか?」
「フォミナ家? 近衛を中心に軍の中核にいるあのフォミナ家ですか?」
「そうだ」
真田は顎に手を当て首をかしげる。
「さて、僕はここ百五十年程、この国には近づいていなかったので、接点は無いと思いますが……」
「そうか……そうだろうな……客はフォミナ家の次女、ロミナ・ウルグ・フォミナ様だ」
「ロミナ様……面識は無いですし、お名前も初めてお聞きしました」
「はぁ……もうすぐ見合いだというのに……ともかくロミナ様はお前との面会を希望されている。失礼のない様に対応してくれ」
「……分かりました」
真田はカルボに頷きを返すと、彼を呼んだ召使いに案内されロミナの待つ応接室へと向かった。
「ようやく一息つけると思ったのに……フィー面倒を起こしてくれるなよ」
真田の出て行った寝室のドアを見つめ、カルボは眉根を寄せながら小さく呟いた。
■◇■◇■◇■
廊下を歩く召使いの背中をボンヤリと眺めつつ、真田は自分との面会を望んでいるというロミナの事を考えた。
ロミナ・ウルグ・フォミナ、フォミナ家の事は知ってるけど、それはこの国のそこそこ名の知れた家の人間やったら誰でも知ってる事やしなぁ……。
なんぞ下手こいたやろか、わい……。
百五十年以上前、この街で暮らしていた時もフォミナ家とは特に接点は無く、国を出てからはそもそもエルフと関わる事は殆ど無かった。
数少ない関わりを持ったエルフもわざわざリーフェルドを出た変わり者、まぁ人の事は言えないが、そんな者ばかりで国の中枢に関わる様な人物はいなかった筈だが……。
「こちらでお待ちです」
「ああ、ありがとう」
召使いを労い下がらせると、真田はコンコンとドアをノックした。
「入れ」
「失礼します。フィー・エルド・メイファーンです。面会をお求めと聞き、参上いたしました」
ドアを開け、ソファーに腰かけた薄い金髪の娘の前に歩み出ると、真田はエルフ流の礼をしながら優雅に頭を下げた。
「私はロミナ・ウルグ・フォミナ。貴様に伝言を届けに来た」
「伝言ですか? もしかして御父上からでしょうか?」
ロミナが座った向かいのソファーに腰を下ろしつつ、伝言と聞いた真田は眉を顰める。
「違う、伝言はニーナという人間の娘からだ。おいミシマ、映してやれ」
ロミナはそう言うと懐から青黒い掌程の金属の板を取り出し、黒檀のテーブルの上にそれを置いた。
「ニーナはんッ!? それにミシマって、あのミシマはんッ!?」
「フッ、それがお前の素か?」
「ロミナはんッ、一体どういう事です!?」
「いいから観ろ」
二人が話している間にテーブルに置かれた青黒い板はカシャカシャと音を立てブラウン管のハイビジョンテレビへと姿を変えた。
「携帯がテレビになったッ!?」
『えっ、もう撮影してるんですかッ!?』
「…………ニーナはん」
画面に映ったニーナを観て、健太郎の変形に驚いて見開かれた真田の目が優しく細められる。
『……あの、店長……今までずっと言えなかったんですけど……その……あの…………ずっ、ずっと好きでしたッ! 教室でまた一緒に働きたいですッ!! お願い戻って来てッ!! お願い……てんちょぉ……』
画面の中では感極まったニーナが瞳一杯に涙を溜めている。
「ニーナはん…………わいもあんさんと一緒に働くの楽しかったで……」
「それで、貴様はどうしたいのだ?」
「どうしたい言うてもなぁ……ラーグの店の場所は実家に知られてもうてるし……」
「ではこのまま、ニーナの想いには応えずリーフェルドで暮らすと?」
「ブーンッ!!」
真田先生、もしニーナさんと一緒になりたいなら俺も協力するっスよッ!!
テレビのノイズ音に乗せて健太郎も言葉を伝える。普通ミラルダ以外には伝わらない物だが真田のスキル「聞き耳」は健太郎の想いをイントネーションも含め全て彼に伝えていた。
「ミシマはん、あんたテレビにもなれたんやな…………そやな、わいも自分の気持ちにもう嘘は吐きたないわ。この国で家を継ぐよりわいはニーナはんと一緒に教室がやりたい。ホンマは武術教室がええんやけど……妥協はあっても武術に携わっていたいんやッ!!」
「ブーン……」
先生、それじゃあ……。
「オトンを説得するッ! それで、もし駄目や言うんやったらこの家捨てたるわッ!!」
「決まりだな。では早速、説得してもらおうか」
「今すぐにでっかッ!?」
「見合いの予定があるのだろう? 断るにしても早い方がいいのではないか?」
「そりゃそうやけど……今更やけど、ロミナはんは何でミシマはん達と……?」
「ブーン……」
話すと長いからそれは後で説明するっス。
「さよか……まぁロミナはんの言う事も一理あるしな……」
「よし、ではミシマ、貴様は手はず通り携帯になってフィーについていてやれ。もしこいつが幽閉されるような事になったらお前がどうにかしろ」
「ブーンッ!!」
了解だッ!!
カシャカシャと携帯に変化する健太郎を横目に、真田はロミナに問い掛ける。
「ロミナはんは手伝ってくれへんの?」
「私は私で計画があるのだ。心配するな、どう転んでもお前はニーナと一緒になれる」
「はぁ、そうでっか……ほな、ミシマはん、よろしゅうたのんます」
「ム゛ーム゛ーッ!!」
先生、任せて下さいッ!! 不肖、三嶋健太郎。弟子として先生とニーナさんの為に精一杯やらせて貰います。
「携帯が弟子ってなんや微妙な気持ちになるけど、頼りにしてます」
そう言うと真田は携帯モードの健太郎を拾い上げ、エルフらしい爽やかな笑みを浮かべた。
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