駆け落ち計画
東へ向かう青黒い金属の鳥の中、薄い金髪の女が笑みを浮かべ栗色の髪の女を眺めていた。
二人の周囲には黒ヒョウの獣人、赤い髪の女、角の生えた女も集まっている。
「それで何か計画はあるのか?」
金髪の女の言葉に栗色の髪の女は困った様に眉をへの字にする。
「計画なんて……ただ、店長が結婚する前にせめて想いを伝えたいと……」
「気に入らん、気に入らんぞニーナ。戦いを仕掛けるのであれば出来る事は全てやる物だ」
「そうは言ってもねぇ……」
「そういうお前に策はあるのか?」
金髪のエルフの娘、ロミナは健太郎が変形したVTOLに乗り込み首都クバルカを離れた後、ギャガンとニーナの話から彼女の想いを知った事を打ち明けた。
その上で国の施策に反するニーナの行動を咎めるつもりは無い事を付け加えた。
彼女は長すぎる生がリーフェルドを濁らせていると考えていた。彼女の父親をはじめとしたリーフェルドでも発言力の強い老齢のエルフ達。
他種族とは違うスパンで生きる故か、移り変わり変化していく周辺国と違いリーフェルドはここ数百年、変化に乏しい暮らしをしていた。
最近になって、といってもここ五十年程だが、他種族の血が入る事でその淀みが払拭されつつあるように感じていたが、それもまた上の考えで元に戻ろうとしている。
「古臭いのだよ。父も大家長もその周辺も。このまま行けばリーフェルドはまた何百年も変わらんままだ、つまらん上に息苦しい事この上ない」
そう言ったロミナの言葉には多分に父への反発があったが、健太郎達を見下した言動の多かったあの審査官の態度からも分かる通り、エルフである事による特権階級意識が存在するのも事実だった。
「策か……それは無いが、ニーナとフィーが駆け落ちでもすればいいとは思っている」
「駆け落ちっ!?」
「駆け落ちなんざどうやってするんだよ? 真田ってエルフはともかく、ニーナは魔法使いでも何でもねぇんだぞ」
「だから策は無いと言ったろう。二人が国外、ラーグにでも逃げてくれれば、私も責任を取る形で堂々と国を出られると思ったまでだ」
フンスと胸を張り自信満々に言ったロミナに、グリゼルダは深いため息をついた。
「……ずさんな計画だ……しかし、駆け落ちか……その為には、まずは真田の気持ちを知る必要があるな。何とか接触出来んものか」
「私が行ってやろうか?」
「ロミナさんが?」
「うむ、ニーナとしては直接会って気持ちを伝えたいだろうが、人間の貴様では私の仲介があったとしても会えんかもしれん。だが私一人であれば門前払いはされん筈だ」
「それであんたが真田先生に会ってニーナの気持ちを伝えるって訳かい」
そうだ、ミラルダにそう答えロミナは強く頷く。
「バババババババッ」
だったら俺も携帯に変形して一緒に行くよ。ほら携帯でニーナを撮影すれば直接じゃ無くても彼女の言葉で想いを伝えられるじゃん。
「なるほど、ロミナに持って行ってもらう訳だね」
「あん? ミシマはなんて言ったんだ?」
「携帯になってニーナさんの告白を撮影するってさ、そんで携帯のままロミナに持ち込んでもらえば……」
「そうか、それなら真田にもニーナの言葉を伝えられるな」
健太郎の能力を知るミラルダ達は頷きあったが、その事を知らないニーナとロミナは怪訝そうな表情を浮かべていた。
「まったく話が見えんのだが?」
「告白を撮影ってどういう事ですか?」
「えっと、ミシマは携帯っていう片手ぐらいの大きさの板に変形出来るんだけど、そいつは見た物、人とか景色とかをもっかい見れる様に記録出来るのさ。勿論、声だって残せるからニーナさんの告白を記録してロミナに持ってってもらえば……」
「告白を記録……その携帯というのはこの鉄の鳥の様に危険ではないのか?」
「基本連絡に使う物らしいから、危険は無いと思うよ」
ふむ、そう言うとロミナは腕を組み健太郎が変化した機内へと視線を向けた。
「人を乗せて飛べる鉄の鳥から掌程の板へか……訳が分からんな」
「そいつは俺達も同じだぜ。だがまぁ携帯を使ってやりゃあ、お前ぇが真田に伝言するよりはニーナの気持ちは伝わる筈だぜ」
ギャガンはそう言ってロミナからニーナに視線を変えた。
「あの、それってどんな感じなのか見れますか?」
「多分いけるんじゃないかねぇ……ミシマ、操縦席のガラスに前に撮ったやつを映せるかい?」
「ババババババッ」
カミヤの奴なら映せると思う。
「んじゃ、頼むよ。ニーナさん、操縦席に行こうか?」
「あ、はい」
ミラルダに促されニーナが操縦席へ足を運ぶと、それまでGPSのマップが映し出されていた画面に竜人のカミヤ達とロドン商会のベッカーのやり取りが再生された。
「……凄い、これは今起きてる事じゃないんですよね?」
「ああ、この前、仕事で行ったベルドルグで起きた事だよ。こうやって記録した物を何度でも見れるのさ」
「ミシマはもっと大きく映し出せるテレビという物にもなれるから、それで見て貰えばニーナがそこにいる様に感じられると思う」
「なんだその"てれび"というのは?」
「今、映像が映っている物よりももっと大きな絵を映し出せる装置だ」
これより大きく……ロミナはグリゼルダの言葉で首を捻りながら何かブツブツと呟いていた。
どうも健太郎の変形のバリエーションに理解が追い付かなくなったようだ。
「……あの、お願いしてもいいですか?」
くり返し流される映像を見ていたニーナは、画面から視線をミラルダに移し問い掛けた。
「ああ、勿論さ。……それじゃあどこか腰を据える場所が欲しいねぇ」
「それなら問題無い、メイファーンの治めるカラミリの街で宿を取るつもりだからな。その撮影とやらもそこでやればいい。私も実際に携帯と"てれび"を見てみたいしな」
「ようやくエルフの街を見られるんだね」
「そういえばそうだな。だがあの男の言い様じゃあ、いけ好かねぇ奴が多そうだぜ」
「国自体が他種族を排しているなら歓迎はされんだろうな」
ギャガンが審査官の言葉を思い出し顔を歪めると、グリゼルダもそれに同意し苦笑を浮かべた。
「ふぅ、あたしゃもう少しエルフの街や暮らしぶりを見たかったけどねぇ」
「すまんな。トラス達がこの国に来た五十年程前ならもう少し緩かったんだが」
「トラス達が……そういえばお前はトラスの事を話していたな……もしかしてだが異種族婚が増えたのは……」
「うむ、トラスが当時この国を襲っていた魔獣の群れを撃退してからだ。彼らの強さに憧れる若いエルフが増えてな。かく言う私もトラスのファンだ。彼の口上だって言えるぞ。コホン……わたくし、生まれも育ちもラーグはクルベスト……」
グリゼルダの問い掛けに、ロミナは満面の笑みを浮かべ嬉しそうに話した。
その後、トラスが言っていた口上の真似をし始める。
その様子を見て健太郎は思う。ロミナはトラス、寅三郎に面識は無いと言っていた。
「バババババババッ……」
知らないって事は幸せだなぁ……。
「……そうかもしれないねぇ」
レベッカから寅三郎がどんな人物だったか聞いていたミラルダ達は、意気揚々と寅三郎の真似を続けるロミナを見て生暖かい笑みを浮かべたのだった。
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