出入国管理局
リーフェルドでもかなり名の知れた家の娘だというロミナ・ウルグ・フォミナ。
彼女を乗せた健太郎は一路、東を目指し飛んでいた。その道中、唐突にロミナが前方に見える街に下りろと言い始めた。
彼女の言う様に健太郎の視線の先には数十本の巨木が巨大ビル群の様に並ぶ、大きな街が現れていた。
「何でだい? 地図じゃ目的地は先の筈だよ?」
ミラルダは操縦席のコンソールに表示されたGPSの画面を確認し首をかしげる。
彼女の言葉通り画面の表示、つまり真田のいる場所はここから更に東を示していた。
「そもそも何故、貴様らに目的地が分かるのか謎だが……ともかく前方に見える街に下りろ。貴様らがこの国でうろつく為に少しやらんとならん事がある」
「大丈夫なのかい?」
「任せろ」
ロミナは自信満々に胸を張り、座席から立つとミラルダの横、本来であれば副操縦士が座る操縦席へと腰を据えた。
「分かってるとは思うけど、触っちゃ駄目だよ」
「触らんよ。また妙なモノを撃たれては敵わんからな」
口ではそう言っていたがロミナの手は落ち着きなく操縦桿と太腿を行き来していた。
やがて街に近づくと国境と同じく警備だろうエルフ達が街から飛び出し、健太郎の周囲を飛びながら止まる様に命じて来た。
「ミシマ、私の時と同じく空中で静止しろ。奴らと話を付ける」
「バババババッ」
りょうかーい。
健太郎はロミナが制止した時と同様に翼の端にあるローターを九十度回転させ、ホバリング状態で相手の接触を待った。
「お前達は何者だッ!? 誰の許しを得てリーフェルドの空を飛んでいるッ!?」
弓を翳しこちらを警戒しながら正面のエルフが声を張り上げる。
「私はロミナ・ウルグ・フォミナッ!! この者達のリーフェルド滞在許可を得る為、クバルカに入りたいッ!!」
エルフの言葉にロミナは立ち上がって胸の紋章を見せながら答えた。
「あれはフォミナ家の……失礼しましたッ!! ご案内しますのでこちらへどうぞッ!!」
街の守備隊だろうそのエルフはロミナの名前を聞いた途端、白い肌を青くして健太郎の先導を始めた。
それを見たロミナは不満げに鼻を鳴らしながら操縦席に腰を下ろした。
「へぇ、名前を言っただけで通してくれるたぁ、あんたホントに偉い人なんだねぇ」
「……奴は私の後ろにいる父の影におびえているだけだ」
「親父さん、そんなにおっかないのかい?」
「父は現在、この国の家を纏める大家長、お前達の言葉でいえば国王の警護を担う近衛の長だ。首都クバルカの守備隊といえども逆らえんさ」
「バババババッ……」
武を司るとか言ってたけど、近衛騎士団長って感じだったのか……。それにしても首都、これがエルフの都かぁ……。
健太郎は憧れの種族の都と聞いて否が応にもテンションが上がるのを押さえられなかった。
そんなこんなで守備兵に案内され広い足場に導かれた健太郎はミラルダ達を下ろし、その身を人型へと変えた。
周囲を見れば恐らくここは街の入り口にあたるのだろう。立ち並ぶ巨木には多くの人々が飛んだり歩いたりしながら行きかっているのが見えた。
「これから出入国管理局に向かい貴様らをゲストとして登録する。リーフェルドは基本他種族の入国を認めてはいない、恐らく色々言われるだろうが反論したりするな。問題を起こした時点で国外退去だからな。いいな?」
「めんどくせぇ国だぜ」
「貴様だけ放り出してもいいのだぞ」
「チッ、分かったよぉ」
舌打ちをしたギャガンを見て、ロミナは鼻を鳴らすと健太郎達を先導して歩き始めた。
足場と足場を繋ぐのは最初の巨木で見た蔦と板で出来た吊り橋だった。
「こっ、ここを渡るんですか?」
高さに怯えたニーナが思わずミラルダに縋りつく。
「ねぇロミナ、全員渡らなきゃ駄目かい?」
「出入国管理局はこの先だ。ゲスト登録しなければフィーに会う事は出来んぞ」
そう言うとロミナはスタスタとつり橋を渡ってしまった。
「うぅ……てんちょぉ、私に勇気を……」
眉根を寄せ涙ぐんだニーナを見かね、ギャガンが彼女に声を掛けた。
「しゃあねぇなぁ。ニーナ、目ぇ瞑ってろ」
「うぅ、ギャガンさん、何を?」
「抱えて渡ってやる」
「抱えて……」
ニーナはギャガンの提案に、チラリとつり橋の脇から見える地面を見てゴクリと喉を鳴らす。
「……お、お願いします」
「任せな」
両手を握り目を瞑ったニーナを両手で抱き上げ、ギャガンはつり橋を一気に駆け抜けた。
「コホーッ……」
やだ、ギャガンカッコいい……。
「フフッ、なんだかんだで面倒見がいいねぇ」
「……そうだな」
グリゼルダは少し不満そうに答えるとギャガンに続きつり橋を渡った。
「……グリゼルダは何が気に入らないのかねぇ?」
「コホー……」
喧嘩する程、仲が良いって言うからね。他の女の子を助けたのが嫌だったんじゃないの?
「喧嘩するほど……ミシマ、今度喧嘩しようか?」
「コホー……」
俺とミラルダは喧嘩する理由ないでしょ……。
「無いけど、こう無理矢理喧嘩したら、もっと仲良くなれるんじゃ……」
「何やってんだッ!! 早く来いよッ!!」
つり橋の前で話し込んでいた二人をギャガンが呼ぶ。
「まぁ、この話は後でいいかね。ともかく行こうか?」
「コホーッ」
別に喧嘩しなくても俺達仲良しじゃん。
「フフッ、そうかもね」
ミラルダは獣人の血の所為か危なげなくつり橋を渡り切り、健太郎は少しもたつきながらも揺れる橋を渡った。
お読み頂きありがとうございます。
面白かったらでいいので、ブクマ、評価等いただけると嬉しいです。




