国境警備隊
グリフォンに乗った女に案内されて健太郎達は巨木へと導かれた。
その巨木にはグリゼルダの言っていた通り枝に木で足場が組まれ、その足場同士は蔦のロープと板で出来た吊り橋で繋がっている。
そしてその足場の上には木造の建物が建てられていた。
足場はかなり広く、上にも下にも階層構造を為して複数作られており、一本の巨木にかなりの人数が暮らしている事が窺えた。
「ここに降ろせ」
エルフはその足場の一つ、土台だけの物に健太郎達を導いた。
木造の足場に下りて大丈夫だろうか。そんな健太郎の不安を打ち消す様に降り立った足場はビクともしなかった。
駐機した健太郎の操縦席に騎乗したまま歩み寄り、エルフの女はミラルダに声を掛ける。
「貴様らはここで待て。私は入国記録を調べてくる」
「降りてもいいかい?」
「……構わんがさっき言った様に妙な真似はするな」
「分かってるよぉ。ちょっとエルフの里ってのを見たいだけさ」
「……こいつ等が他へ移ろうとしたら容赦なく射ろ」
「分かりました」
女は彼女に同行し健太郎を取り囲む様に足場に下りた部下だろう一人にそう命令し、手綱を引いて別の足場へとグリフォンを向かわせた。
「ふぅ……どうもピリピリしてるねぇ」
「だな。交わりを望まねぇとか言ってたし、面倒そうな奴らだぜ」
「あの、すいません……」
「あ? 何でお前ぇが謝んだよ?」
「だって私がミシマさんにお願いしたから……」
「んなもん関係ねぇぜ。嫌だったら端から付いて来てねぇよ。それより早く降りようぜ」
ギャガンは恐縮した様子のニーナにニヤッと笑い、機体横のドアを開け足場に飛び降りると彼女を促した。
「ほらさっさと来いよ」
「あっ、はい」
ニーナはドアから伸びたタラップを降り、足場に足を下ろした。
彼女に続きグリゼルダとミラルダも足場へ降り立つ。
「ミシマもずっと飛んで疲れたろ? あんたも人型に戻りなよ」
「ヴヴヴヴヴッ」
そうだね。俺もエルフの里を見てみたいし。
飛んでいる時よりかなり低いアイドリング音を響かせた健太郎はその身を人型へと変えた。
「ゴーレムッ!? どういう事だッ!?」
VTOLモードから人型モードへいつも通りよく分からない変形をした健太郎を見て、取り囲んでいたエルフの兵達が一斉に矢を構える。
「コホー……」
ホント、物騒な人達だなぁ……まぁ、想像してたエルフって森を守っててプライドが高いって感じだから、こんな感じちゃあこんな感じだけど……。
「暢気だねぇ……あのさ、このゴーレムはミシマっていって、色んな形に変形出来るんだよ」
「変形だと……その魔人族が作ったのか!?」
ミラルダの言葉を聞いた兵士の一人、エルフの青年は視線をグリゼルダに向けながら問いかける。
その間も番えた矢じりは健太郎達に向けたままだ。
「違う。こいつの中身は異界人だ。身体の事はよく分からんが私の推測では異界の物だと考えられる」
「異界だと……そんな危険な物を我らの国に持ち込むつもりか?」
「ミシマは危険じゃないよ」
「その魔人の話は推測なのだろう!? では危険ではないと断言等出来んだろうがッ!!」
「コホー……」
そりゃ、考えた事を反映して勝手変形する事はあるから絶対安全とかは言えないけどさぁ……。
「ゴチャゴチャうるせぇ連中だぜ。それじゃあコイツを縛り上げときゃ安心かよ?」
「……そうだな。この里を離れるまではそうしてもらおうか」
「コホー……」
縛り上げる……ギャガン、俺達は仲間だよね?
「そうだよギャガン、仲間を縛るって……」
「ミラルダさんの言う通りですよ。ミシマさん、とっても穏やかな人なんですから、そんな事しなくても……」
「いいんじゃないか、それでこの連中の気が治まるなら」
「グリゼルダまで……はぁ、仕方ない、ミシマ縛られてくれるかい?」
「コホー……」
うぅ……分かったよ。
縛られる事を受け入れた健太郎はロープで上半身をグルグル巻きにされ、そのロープの端をギャガンに握られる形で足場からエルフの集落を見る事となった。
「コホー……」
罪人というか散歩させられてる犬みたいだ……。
「ミシマ、そんなに落ち込むんじゃないよ。真田先生の関係者だって分かれば扱いも変わるはずさ」
「コホー……」
はぁ……だといいんだけど……。
ため息を吐きつつ、エルフたちに見張られながら健太郎が巨木の集落を眺めていると、先ほどのグリフォンに乗ったエルフの女が足場に戻って来た。
「あの鉄の鳥は何処だ? その縛られているゴーレムは何処から湧いて出た?」
「隊長、あの鳥はその青いゴーレムが変形した姿だった様で……仲間の魔人が言うには異界の者だと」
「何、異界? ……」
「あっ、あの、私達、店長にフィーさんに会えるんでしょうか?」
異界と聞き眉根を寄せた女にニーナが恐る恐る声を掛ける。
「一応、フィー・エルド・メイファーンが帰国したとの確認は取れた。それで貴様らがフィーと知り合いだという証拠はあるか?」
「あの、これを……」
ニーナはフィーが彼女当てに書いたと思われる手紙を差し出した。
女はグリフォンから降りると手紙を受け取り、内容を確認する。
「ふむ、確かにフィーが書いた物の様だな、印もメイファーン家の物で間違いない……いいだろう。お前は入国を認めてやる」
「ちょっと待っとくれ、お前はって? じゃああたし達はどうなるんだい?」
「あんな金属の鳥に変化するゴーレムを野放しに出来る訳が無かろう。貴様らはこのまま帰るんだな」
「あ? 俺たちゃニーナの護衛も兼ねてんだぜ。それに顛末を見届けずに帰れるわけねぇだろ」
「コホーッ!!」
そうだそうだッ!! ギャガン、もっと言ってやれッ!!
「ミシマ、煽るんじゃないよ……ねぇあんた」
「ロミナだ」
「じゃあロミナ。あたしらはラーグ王国で冒険者をやってる。冒険者ってのは依頼を途中で放り出して帰る訳にはいかないんだ。何とかならないかねぇ?」
「冒険者……お前達が…………ふむ、いいだろう。私と行動を共にするなら、特別に入国を許可しよう」
「隊長ッ!?」
ロミナの言葉に先ほど対応した青年が驚きの声を上げた。
「英雄トラスもラーグの冒険者だった。私はトラスとは面識は無いが少し興味がある」
「この者達と行動を共にするって、此処の警備はどうされるのですッ!?」
「お前達がいれば何とでもなろう?」
「そんな……」
「これは訓練だと思え、私がいない場合のな」
「しかし……」
「くどいッ!! これは命令だッ!!」
食い下がる青年の言葉をロミナは斬って捨てた。その後、ミラルダに視線を向ける。
「移動中は私の指示に従ってもらう。従わない場合はその場で射殺する。それでよければだが、どうする?」
「……ちょっと相談していいかい?」
「構わんぞ」
入国を許可されたニーナも含め健太郎達は集まって小声で相談を始めた。
「どうするね?」
「あの、私は皆さんに付いて来て欲しいです。一人じゃ不安で……」
「受け入れるしか無いだろう。ニーナの事もあるが、私自身、エルフの国をきちんと見てみたいしな」
「だな。こんな入り口で帰されたんじゃ来た意味がねぇぜ」
「コホーッ」
そうだね。エルフは見たけどもっと色々知りたいし、ニーナさんがちゃんと先生に会うトコまで確認しないと。
「じゃあ、あのエルフ、ロミナと一緒に行くって事でいいね?」
「おう」
「ああ、構わない」
「コホーッ」
オッケーだッ! クッ、ジャスチャーが出来ないと調子が狂うぜッ。
腕で丸を作ろうとしてロープに阻まれた健太郎に苦笑を浮かべ、ミラルダはニーナに視線を向ける。
「ニーナさんもそれでいいかい?」
「はい、是非お願いします」
「決まりだね。ロミナ、条件を飲むよッ!」
「心得た。では早速、先程の鉄の鳥の中を見せて貰おうか?」
そう言うとロミナは薄く冷たさを感じる微笑を浮かべた。
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