子守依頼
真田の教室の受付嬢、ニーナをエルフの国リーフェルドへ連れて行くと決めた健太郎は一旦家に戻り、その事をミラルダ達に相談する事にした。
前回の事もある、もしかしたらキューを攫おうと考える者がいるかもしれない。
パーティが全員冒険に出るとあの家は子供だけになる。その辺の事も話し合わねばと健太郎は考えていた。
そうして家に帰るとミラルダの他、ギャガンもグリゼルダも旅の準備を整えている最中だった。
「コホー……?」
みんなどうして……?
「どうしてじゃないよ。さっき大声であんたがエルフの国に行く事は街中の人間が知ってるよ」
「次はエルフの国か、どんな奴がいるのか楽しみだぜ」
「エルフ……森に住み弓矢と剣、それに精霊魔法に優れた長命の種族だな。しきたり等にうるさいイメージがあるが……」
どうやら全員行く気満々の様だが、健太郎としては誰か留守番で残って貰いたい。そう考えていたのだが……。
「コホー……」
あのー、三人の誰かは留守番で残って欲しいんだけど……。
健太郎の言葉をミラルダが伝えるとギャガンが不満の声を漏らした。
「留守番ってなんでだよ?」
「……タニアの件か、ミシマ?」
「コホーッ」
うん、無いとは思うけどキューや子供達が狙われたら嫌だからさ。
健太郎はグリゼルダに頷きを返し、その間に彼の言葉をミラルダが伝える。
「うーん、これまでうちは貧乏だったから、あんまりそんな事考えて来なかったけど……」
「赤竜の子供……欲しがる奴はいるかもしれねぇなぁ……」
「ふむ、ようは留守番がいればいい訳だ。なら冒険者ギルドで募集してみたらどうだ? ビビや伯爵の仕事で金に余裕はあるのだろう?」
「ギルドで依頼ねぇ……そうだね、依頼を出してみようか」
「コホーッ」
いい感じの人が来てくれるといいね。
■◇■◇■◇■
健太郎達は冒険者ギルドで泊まり込みで子守をしてくれる人を募った。
その返答が来る間、ニーナにはミラルダが待って欲しいと伝えていた。
彼女の方も教室が休みになった事を利用者に伝えたり、その分の返金を行う事務作業がある為、時間を貰える事は有難いようだった。
そして数日後、ギルドから連絡を受け取った健太郎達は、ギルドの一室で募集に応えてくれた者達と対面する事となった。
まるで面接会場のような長机と椅子に座り、依頼を担当してくれたクニエダが部屋に冒険者を呼び込むのを待つ。
「えー、一組目は皆さんも面識のある黒崎さんとフィリスさんです」
「却下だ」
ギャガンがクニエダの言葉を聞いて即座に口を開く。
「ちょっと、困ってるって言うから助けに来てあげたんじゃないッ!?」
「そうだぜ。いきなり却下は無いだろう?」
「はぁ……フィリス、師匠の事で色々あたしに思う所はあるんだろうけど、子供達を巻き込むのは勘弁しておくれ」
ため息を吐いて困り顔で言ったミラルダの言葉にフィリスは唇を噛んで俯いた。
やがて顔をあげるとボソボソと話し始める。
「……確かに深紫のレベッカに師事出来なかった事は恨んでるわ……正直に言うわ。私はレベッカの書いた文献が読みたいの。誓って貴女の家族をどうこうしようなんて考えていないわ」
「……なるほどな、レベッカの知識なら魔法使いであれば喉から手が出る程欲しいだろうな」
グリゼルダは得心がいったと頷きを返した。
そんなグリゼルダを横目に、ギャガンは将吾に声を掛ける。
「お前はどうなんだよ? 剣を交えた印象でしかねぇが、子守をするタイプじゃねぇだろ?」
「まぁな……だが相棒の願いだ。付き合うのはやぶさかじゃねぇよ」
「コホーッ?」
どうするミラルダ?
「そうだねぇ……クニエダさん、来てくれた人はまだいるんだろう?」
「ええ、あと一組」
「じゃあ、その人達と話してから決めさせてもらうとするよ。それでいいかいフィリス?」
「……いいわ」
その後、控室に戻ったフィリス達に変わり、一行は応じてくれたもう一組と面談を続けた。
二組目はファング、スケイル、カレンの竜人パーティだった。
「お前ら子守なんて出来んのかよ?」
「任せてくれよ。こう見えて料理の腕には自身があるんだぜ」
「スケイルの言ってる事は本当かい?」
ミラルダはファングに視線を送りつつ口を開いた。
「……ああ、かなり刺激的だが美味い事は確かだ」
「刺激的?」
「スケイルの料理は基本酒の肴だからな」
「香辛料が効いてて葡萄酒にも麦酒にもよくあうのよね、あれ」
「コホー……」
酒の肴って……家にいるのは十代前半から六歳までの子供達だよぉ……。
「まぁ、料理はトーマスやシェラも出来るから……取り敢えず保留で……」
「よろしく頼むぜ。まだダンジョンに慣れなくて懐が寂しいからよぉ」
スケイルは笑みを浮かべて手を振りながら、ファングは小さく頷きつつ、カレンは一行によろしくとウインクして部屋を後にした。
「……どっちもそれなりに腕は立つが……?」
「そうだねぇ……」
うーん、フィリス達は今一つ信用が置けないし、ファング達はそもそも子守を出来るのか不安が残る……まぁ、トーマス達はこれまでもミラルダがいない間もやって来たみたいだから、護衛的な感じでもいいんだろうけど……。
「どちらも微妙だな。どうするミラルダ?」
「……決めた。どっちも雇おう」
「両方か? 多すぎるんじゃねぇか?」
「たしかに人数は多いけど、フィリス達もファング達がいれば変な事は出来ないだろうし、フィリスならスケイルの料理にもきっと文句を言うだろうしねぇ……案外上手く行く気がするんだよ。どうだいみんな?」
「互いに互いを見張らせるか……」
「ふむ、ファング達は共同戦線を張った仲であるし、信頼してもいいかもな」
「コホーッ」
いいアイデアかもしれない。意外と意気投合してパーティを組んだりもあるかもね。
「あの五人がパーティを……フフッ、そうだね。それも面白いかもしれないねぇ」
「えー、では二組に依頼するという事でよろしいですか?」
「みんなそれでいいかい?」
「うむ、私は構わない」
「俺もそれでいいぜ」
「コホーッ」
俺もオッケーだよ。
「決まりだね。それじゃあクニエダさん、よろしく頼むよ」
「承知しました。では全員で依頼の詳細について詰めるとしましょう」
笑みを浮かべたクニエダに健太郎達は頷きを返した。
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