笑顔からこぼれた涙
金髪角刈りおじさんの城から帰ったミラルダは、今回の冒険の顛末を子供達とレベッカに語って聞かせた。
健太郎としてはテレビになって見た物を映し出そうとしたのだが、アレは携帯で録画した物しか再生出来ない様だった。
まったく、融通の利かない身体だよッ!!
そんな健太郎の憤りを他所にミラルダは物語風にタニアの追跡、竜人達との出会い、公子カミヤの野望等、旅先での出来事を語っていく。
そうして話を終えるとレベッカが苦笑いを浮かべボソリと呟いた。
"前も思ったけど何だかあたし達と似たような事してるねぇ"
「コホーッ?」
似たような事って寅三郎とって事?
「寅三郎? 師匠がなんか言ってるのかい?」
「コホーッ」
うん、自分達と似たような事してるって。
「まぁ、あたしゃ師匠の弟子だからね。考え方が似るのも仕方ないさ」
"ふぅ……相変わらず暢気な子だよぉ。あたしゃミラルダには国とか大きな物には関わって欲しくないんだけどねぇ……"
レベッカの言葉を健太郎がミラルダに伝えると、彼女はあたしだって率先して関わりたい訳じゃないさと苦笑を浮かべた。
健太郎もミラルダの言葉には同感だった、しかしどういう訳か事が大きくなってしまうのだから仕方が無い。
それに恐らく他者の無意識の集合体である(健太郎はそう推測している)世界を見て回るのは楽しかった。
日本じゃ働いていた時は会社と家の往復、ホームレスになってからは公園と裏路地の往復だったからなぁ。
代り映えのしない世界の生活から、広い世界を冒険する生活を健太郎は純粋に楽しく感じていた。
"まぁ、あんまり派手に動いて変な連中に目を付けられない様にするんだよ"
「コホーッ?」
変な連中?
"ん? 変な連中って誰かって? いるんだよ、有名になると厄介事を持ち込んで来る奴らが"
何とか健太郎のジェスチャーを読み取ったレベッカが、過去を思い出したのか顔を顰めつつ答える。
「ミシマ、師匠は何だって?」
「コホー」
派手にやって有名になり過ぎると、変な連中から厄介事が持ち込まれる様になるから気を付けろだってさ。
「厄介事ねぇ……嫌われ者の半獣人と獣人、この国じゃ珍しい魔人、そんでゴーレムのミシマ……そんなパーティーにギルド経由以外で依頼をしてくるのは伯爵様ぐらいだと思うけどねぇ……」
「コホーッ」
今の所そうだよね。昨日も野次馬は一杯いたけど直接話しかけて来る人はいなかったし。
「だろう? 考えすぎなんだよ、師匠はさ」
"……あたしも寅三郎と冒険を始めた頃は自分達がそんな事になるなんて思ってなかったさ……でも人はこっちが名声を得たとたん扱いを変えたりするからねぇ……ミシマ、そうなった時はミラルダを守ってやっておくれ"
「コホーッ!」
ああ、任せてくれッ!
親指を立てた右手を突き出した健太郎を見て、レベッカはホントに大丈夫かねぇと苦笑を浮かべた。
■◇■◇■◇■
その一週間後、健太郎がわい最拳の訓練の為、真田の教室へ向かうと、いつもニコニコとしている受付の女性が珍しく暗い顔で出迎えた。
「コホー?」
どうしたの? 何か困りごと?
「ああ、ミシマさん。すいません、レッスンは暫くお休みでお願いします。その分の御月謝はお返ししますので……」
「コホーッ?」
えっ、先生具合でも悪いの?
健太郎は頭に手を当てたり、お腹に手を当てたりして事情を尋ねる。
「……実は店長、故郷に呼び戻されてしまって……手紙で暫く戻れそうにないので、教室はお休みにして欲しいって……私も生徒さんへの説明や返金を終えたら休職という事に……」
「コホー……」
休職……そりゃ大変だ……。
この世界の職業事情は知らないが職を探す大変さは身を以って知っている。
健太郎は思わず受付の女性、ニーナに同情してしまった。
しかし、真田はエクササイズ教室は気の進まないと言ってはいたが、健太郎の知る限り生徒である女性に対する指導は真剣にやっていた。
無責任に投げ出すような人では無いと思うのだが……。
顎に手を当て首を捻った健太郎を見て、ニーナは暫し言おうか言うまいか迷う素振りを見せた。
「コホー?」
なあに? 言いたい事があるなら言ってよ。話ぐらい聞くよ。
カモンカモンと両手で手招きをして、耳に手を当てた健太郎を見てニーナは思わず微笑みを浮かべ、やがておもむろに口を開いた。
「……じゃあ聞いて貰っていいですか?」
「コホーッ!!」
もちろんだよッ!! これもミラルダのイメージアップの一環だからねッ、何でも気兼ねなく話してくれたまえ!!
健太郎は頷きながらニュッと親指を立てた右手を突き出した。
「えっとですね。店長はどうもエルフの国では地方豪族の息子だったみたいで、親父さんが腰を痛めたとかで代わりに族長代理をしないといけなくなったらしいんですよ」
「コホー……」
へぇ、先生って結構偉い人だったんだ……。
「でですね、里帰りしたついでに見合いの話が持ち上がりまして……どうも親族の人たちはそのまま族長を続けて欲しいみたいで……どうしよう……こんな事ならさっさと気持ちを伝えておけば……」
そう言うとニーナは笑顔のままポロリと涙を零した。
「コッ、コホーッ!?」
えっ、ニーナさん先生の事がすっ、好きだったのッ!?
ワタワタと健太郎が挙動不審に動いていると、ニーナは涙を拭ってアハハと笑った。
「なんでミシマさんがそんなに慌ててるんですか?」
「コッ、コホーッ……」
いっ、いやだってそんな感じの話とは思って無くて……。
「ふぅ……ありがとうございます。お話聞いて貰えて少し落ち着きました」
「コホー……」
いや、聞くしか出来なくて申し訳ない……。
右手で頭を掻きながらペコッと頭を下げた健太郎を見て、ニーナは穏やかな笑みを浮かべた。
「ミシマさん、ゴーレムなのにいい人ですね……」
その笑顔が健太郎には堪らなく切なく見えた。そして気付いた時には彼女の手を握っていた。
「えっ!? なっ、何ですミシマさん!?」
「コホーッ!!」
先生に会いに行って、直接気持ちを伝えようッ!!
健太郎は握った彼女の手を放し、胸の前で手にハートマークを作ったりしながら気持ちを伝えるんだとニーナに訴えた。
「気持ちを……駄目ですよ。エルフの国リーフェルドはラーグから凄く遠いんです。ここから幾つも国を超えて東、大森林の奥にあるって……」
それを聞いた健太郎はドンッと胸を叩いた。同時に胸部のスピーカーが露出する。
その後、自分の頭に両手を当てて耳を塞ぐ様にニーナに伝える。
「耳を塞ぐ? こうですか?」
ニーナが両手を耳に当てたのを確認した健太郎は、思いの丈を存分にぶちまけた。
『大森林の奥には俺が連れてってやるッ!!!! 任せろ、噂で聞いたかもしれないが俺は空を飛べるッ!!!! エルフの国まであっという間さッ!!!!』
「フガッ!? うっ、うるさいッ!! ………でも本当ですか?」
『ああ、本当だよッ!!!!』
「ぐぅッ!! ……耳を塞いでいても頭の中心が揺さぶられるみたいです…………でもそうですね、気持ちも伝えられないまま先生が結婚しちゃったらずっと後悔しちゃいますもんね…………ミシマさん、お願いしてもいいですか?」
健太郎はニーナの言葉を聞いてそっと胸部装甲を閉じると、両腕で大きく丸を作り力強く頷いた。
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