告発
森の中、気を失った老人と少年、二人の竜人が大地に寝かされていた。
「さて、この二人をどうやって運ぶかねぇ」
「ともかく、ブレスを吐けない様に口は塞いでおこうぜ」
スケイルは言うが早いかカミヤとローグの口が開かない様、顎を固定する枷を取り付けた。
「便利なもん、持ってんな?」
「仕事柄な、この国じゃ手枷とセットみたいなもんさ」
スケイルの言う様にいくら拘束してもブレスを吐かれたら意味が無いだろう。
「で、後はこの二人を街に運んでやった事を喧伝するんだったかねぇ?」
「そうだ、ミシマ、映像を記録したんだろう?」
「コホーッ!!」
バッチリ撮影したよッ!!
親指を立てた健太郎にグリゼルダは頷きを返した。
「良し、では早速その映像を見せてくれ」
「コホーッ!!」
りょうかーいッ!!
健太郎は両腕で丸を作るとその身を携帯へと変じた。
グリゼルダはそれを拾い上げ、画面に表示された動画に視線を落とす。
「……凄いな、まるで今起きている事を見ているようだ」
「どれどれ、はー、綺麗に映るもんだねぇ」
「これは空間を切り取る魔法なのか……」
「声もしっかり入ってるな、こりゃベッカーまで取っ捕まるんじゃねぇか?」
「あのガキ、タニアをソーセージにするとか言ってやがる……奴はひき肉にするか?」
「物騒な事言わないで。それよりミシマ、あんたがいれば世の中の殆どの秘密を世間に公表出来るわ。と言う訳で私と組まない?」
小さな画面に六人の大人が群がりそれぞれに感想を述べている。
「クルルル(私、全然気が付かなかった)」
「キュエーッ(キューが硬い人を天井に貼り付けたのッ)」
「クルル……クルルルルッ(そうなんだ……やっぱり飛べるのは凄いねッ)」
「キュエーッ!!(タニアが飛びたいならいつでもキューが抱えて飛んであげるのッ!!)」
胸を叩くキューをキラキラと目を輝かせタニアが見つめる横で、グリゼルダは顎に手を当て小さく何か呟いていた。
「映像を定着させる為には……ふむ……ミシマ、もう少し大きく表示出来ないか?」
「ム゛ーム゛ーッ……」
大きく……そうだな……やっぱり大きく映し出すなら大画面の薄型テレビだな。
そう考えた健太郎だったが、体が変形したのは巨大なブラウン管テレビだった。
何故だ、何故この体はいつも一世代前の物になるんだッ!?
そんな健太郎の憤りはヴーンというノイズとなって放出された。
「うぉ、大きくなった……ひゃー、こりゃ見やすいぜ」
「よし、ではこの二人の罪を告発する映像を抽出するぞ」
グリゼルダはそう言うと、竜人達に歩み寄りそっと大地に両手を付けた。
■◇■◇■◇■
その日、ランズの街ではちょっとした騒ぎが起きていた。
何だこれはッ!? どうして僕が檻の中に!?
檻の中で目を覚ましたカミヤは周囲の群衆の話題の中心は自分である事に気付いた。
「バルバドスってアレだろ、確か大臣かなにかやってる」
「だから何だよ? 大貴族だからって何をやっても許されんのかよッ!?」
「んな事は言ってねぇよ」
「それより青竜の子供を食べるって……青竜は優しくて大人しい竜なのに酷いわ」
「そもそも保護の為にって税金取ってるのは国や貴族だろ? その貴族が率先して竜を狩るっておかしくねぇか?」
何故だッ? どうして僕のやった事を平民が知って……。
彼の疑問の答えはこうだ。
街の中央に空から鋼鉄の檻が鳥の羽根の様にゆっくりと落ちて来て、その檻の上に映像が映し出したのだ。
映像には檻の中に入れられている老人と少年が、青竜の子供を受け渡ししている場面が延々と流されていた。
映像には音声も付いており、黒髪の男とのやり取り、そして少年が子竜に料理の名前を羅列する場面までしっかりと映し出されていた。
そんな騒ぎの起こったランズの街の南東の空を青黒い金属の鳥が飛んでいた。
その鳥の操縦席ではミラルダとグリゼルダが檻の映像について話している。
「しかし、幻影魔法にあんな使い方があったとはねぇ」
「元は話した通りレベッカ達のパーティーのアイデアだ。彼女は以前、この国にあった竜神に至る道を根絶する為、彼らの行為をベルドルグの王都で映し出し世論に訴えたんだ。その時に使ったのが移像の魔法だ。本来は人物等の動きや声を別の場所に映し出すだけだが、今回はミシマの映像を基に檻にそれを定着させた。陣を刻んだから何もなければ半年は持つだろう」
檻を作った後、タニアの空飛ぶ船という願いを聞いた健太郎は、その身を輸送機へと変化させた。
垂直着陸可能な翼の両端にプロペラを備えたそれに一行は乗り込み、カミヤ達を入れた檻を街の中央に投下。
その後、騒ぎが大きくなる前に健太郎達は結果を見届ける事無く街から逃げ出したのだった。
「アレなら言い逃れは出来んだろうな」
「まぁあんだけバッチリ映ってりゃあ、違うって言っても誰も信じちゃくれねぇよな」
「これで少しは組合も良くなるでしょうね」
輸送機の後部座席に座っていたファング達が操縦席のミラルダ達の会話に相槌を打つ。
「しかし、本当にあんた達もラーグに来るのかい?」
「ああ、子竜を連れ込んだ実行犯にも調査の手は伸びるだろうからな」
「組合が良くなるってのに逃げだすって、なんだかなぁって感じだよな」
「そういやカレンは何で付いて来たんだ? お前はタニアの件には関わってねぇだろ?」
話を聞いていたギャガンが小首をかしげカレンに尋ねた。
「私も非合法な組合の仕事にはうんざりだったから……それに冒険者ってのも面白そうだし」
「そうか……まぁ、お前ぇら三人なら冒険者として十分やってけるさ」
「バババババッ!!」
だよねッ!! エンジン音を響かせた健太郎にミラルダ以外が何を言ってるのか分からないと苦笑を浮かべた。
その後の話を少し。
映像を観た民たちから調査しろと声が上がり、相手が大貴族だと分かってももはや揉み消す事は不可能となった。
その後、竜守備隊を中心に調査チームが作られ、カミヤとローグの行って来た竜喰らいの諸々が調べられる事になり、ロドン商会のみならず、何でも屋組合も全国規模で査察が入る事になった。
声を上げれば国は動く、その事が分かったベルドルグの民達はこれまで口を噤んでいた、世襲制やそれによる貴族の腐敗にも声を上げ始め、ゆっくりとではあるが変わり始めた。
結果としてローグの求めた国の腐敗が払拭される事になったのは皮肉な話だった。
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