理想の為に
バルバドス家の執事ローグの吐いたブレスが作った結晶壁の向こうから、赤い髪の女と魔族の女が飛び出しローグの左右に位置取り身構える。
更にそれに続き青、緑、金の髪の竜人が彼を取り囲んだ。
「六対一だ、諦めて降参しなッ!」
赤い髪に獣の耳を生やした女が声を張り上げる。
「なるほど、あの子竜はあなた方との合流を目指して飛んでいたのですね……」
ローグは自らが作り出した結晶壁の影に逃げ込んだ二匹の子竜に目をやり、苦笑を浮かべた。
「どうするんだいッ!? 降参するのかいッ!?」
「降参?」
首を傾げ自分を取り囲む相手に順繰りに視線を巡らせる。
結晶壁を斬った獣人は要注意だが空は飛べない筈だ。
恐らく半獣人だと思われる女と魔人は魔法使い、大半の魔法は自分のブレスで無効化出来るだろう。
残り三人の竜人達、彼らについて警戒すべきはブレスのみ……。
守りを固め戦えば勝てずとも負けはしない。
時間さえ稼げばゴーレムを始末したカミヤが合流し、天秤はこちらに傾く事に疑いは無い。
そう結論付けたローグは大きく息を吸い込むと、ブレスを使い自身の周囲に雪の結晶に似たバリアを作り出した。
霧状に展開した青白い結晶の粒が下弦の月の光を反射し煌めきを放つ。
その煌めきの中から唐突に青白い閃光が迸った。
「回避だッ!!」
「了解だよッ!!」
「やはりそう簡単にはいかんか」
「うぉッ、アブねぇッ!!」
「ヤダッ、素直に諦めてよ」
グリゼルダの警告の声でミラルダ達は上空に逃れ何とか閃光を回避した。
「……あくまで戦うつもりか?」
グリゼルダの問い掛けに、ローグは纏った煌めき越しに彼女を見上げながら微笑みを浮かべた。
「確かに私一人で無傷であなた方全員を倒すのは不可能でしょう。だが負けなければ坊ちゃまがきっと……」
「……坊ちゃま……カミヤ・バルバドスの事か? 恐らくカミヤはミシマに勝つ事は出来ないぞ」
「ミシマ? あのゴーレムの事ですか? ……ククク……あんなメタルゴーレム一匹に坊ちゃまが手こずる筈が無いでしょう?」
「ミシマを舐めるな。あいつの装甲は竜の牙から作った剣を持つ獣人の斬撃さえ弾き返す。多少力を得たぐらいで竜人が勝てる訳が無かろう」
「坊ちゃまを侮辱するなッ!!」
ローグはカミヤの能力に絶対の信頼を置いていた。
その話の最中、遠く先程までローグがいた寺院の壁が吹き飛び白い閃光が森の木々をなぎ倒す。
「うぉッ!? 何だありゃっ!?」
「フフフッ、あれこそが我が主、カミヤ・バルバドス様の力!! あのメタルゴーレム、ミシマでしたか!? 随分とあのゴーレムを買っていらっしゃる様ですが、あの光を受けたなら既に蒸発している事でしょう!!」
「ミシマが蒸発ッ!?」
ローグの言葉を聞いたミラルダの顔に不安が浮かぶ。
「ええ、あれは竜咆撃、赤竜、緑竜、金竜の力を練り合わせ放つ坊ちゃまの最強の技!! その光に耐えられる者等、この世界に存在しません!!」
ローグはかつて赤竜の力を得たカミヤが竜咆撃を放つのを見た。
それはまさに赤竜の灼熱のブレスその物だった。あれからカミヤは更に二つの竜の力を得ている、完璧では無いが更に力が上がっている事は疑いの無い事実だ。
そのカミヤの放った竜咆撃を受けてゴーレム如きが生きていられる筈が無い。
『おーい!!! こっちはカミヤを確保したから、その人捕まえてくれるッ!!? あとキューは無事ッ!!?』
「フフッ、耐えられる者がいた様だな?」
遠く鳴り響いた合成音声に余裕を見せていたローグの顔が引きつる。
「馬鹿なッ!? あの方は私の理想を体現して下さる唯一の存在の筈ッ!!」
「ふぅ……安心したよ。あんたが余りにも自身満々だからちょっぴり心配しちまったよ……」
「クッ、こうなれば貴様らを始末して坊ちゃまをお救いするのみッ!!」
ローグは防衛では無く攻勢にスタンスを切り替えた。
まずは先程から癇に障る物言いを続ける魔人族から片付けてやる。
そう考え牽制でローグはブレスを放った。
「おっと、物騒な爺さんだよぉ!」
「ミラルダッ、グリゼルダがッ!!」
「スケイル、ブレスをッ!!」
「おっ、おうッ!!」
上空を薙ぐように放たれた閃光のブレスを急降下して躱したスケイルに攻撃の指示が飛ぶ。
だが隙を突いてグリゼルダに肉薄したローグのスピードに、スケイルの放った暴風のブレスは彼の通った後に残る煌めきを吹き飛ばすにとどまった。
「クッ!?」
「いかに魔力操作に優れていても、やはり近接戦闘では魔人は竜人の足元にも及びませんねぇ」
目の前で剣を振り上げたローグを見て、グリゼルダは思わず顔を引きつらせた。
「その為に俺がいるんだよぉ」
「なッ!?」
上空から聞こえた声にローグが視線を向けると、先ほどまで結晶壁の前でこちらを見上げていた黒豹が月明かりで白く光る刃を彼に向けて振り下ろしていた。
反射的にそれを手にした剣で受け止めたローグだったが、獣人は落下の勢いのまま剣を振り抜きローグを地面に叩き落した。
「ググッ……翼の無い獣人が何故……」
強かに地面に叩きつけられたローグが状態を起こし視線を空に向けると、そこには赤い子竜に抱えられこちらに迫る黒豹の姿があった。
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