ドラグキャノン
健太郎に再度弾き飛ばされたカミヤは動揺を隠し切れなかった。
バルバドス公爵家公子、カミヤ・バルバドス。
彼はエルダガンドの公娼であるキュベルと同じく転生者だった。
前世では体が弱く、人生の殆どをベッドで過ごした。
そんな彼を慰めてくれたのはアニメや漫画や小説、そしてゲームだった。
そして僅か十四年の人生を終え、気が付けば竜人の貴族の息子として転生していた。
強力な肉体を持つ竜人、さらに天啓の様に脳に響いた声で、自分が竜を食らい血肉とすればその力を得る事の出来る竜喰らいというスキルを持っている事を知った。
そんな彼がここは憧れていた夢を実現できる自分だけの世界だと思うのに時間は掛からなかった。
そうだ、この世界は僕の世界なんだ。あのゴーレム、いやロボットはいわば中ボス。
竜の力を得る為に乗り越えるべき壁に過ぎないッ!!
「ウォオオオオッ!!!!」
叫びと共に闘気を吹き出し、崩れた壁の残骸を吹き飛ばす。
「今の僕の全てを掛けて君を倒すッ!!!!」
「コホーッ……」
えー、全てとかちょっと重いんですけど……。
健太郎はカミヤの熱い叫びを聞いて、若干気後れしながら再度、拳を構えた。
そんな健太郎にカミヤは腕を横に広げ体中の闘気を両手の掌に集約する。
「行くぞッ、竜闘気全開ッ!!!!」
「コホー……」
うわぁ……本格的に少年バトル漫画みたいだ……ハッ!? もしかして俺もワンチャンあの技をッ!?
健太郎の脳裏に日本人、いや世界中のあの漫画を見た少年なら、誰しも一度は真似した事があるであろう気の力を放つ有名な技が浮かぶ。
彼がそんな事を考えている間にもカミヤの両手に集まった闘気は輝きを増し、暗い寺院を真っ白に染め上げた。
「コーホー……」
○ーめー○ーめー……。
それを見た健太郎も両方の手の付け根を合わせ声と共に腰だめに構える。
「フフッ……光栄に思うがいい、この技を全力で放つのは君が一番最初だ……食らえ、竜咆撃ッ!!!!」
「コホーッ――――!!!!」
波ッ――――!!!!
カミヤが両手を胸の前で打ち合わせると真っ白なレーザーの様な閃光が放たれ、同時に健太郎が突き出した両手からは…………残念ながら何も発射される事は無かった。
「コホーッ!!!!」
いや出ないんかいッ!!!!
カミヤの放った閃光は健太郎のツッコミと共に彼を飲み込み、その後ろ、寺院の壁を破壊、その先に広がる森の木々を数百メートルに渡って一瞬で消滅させた。
「はぁ、はぁ、はぁ……どうだい……これが竜超人の……最高の技……竜咆撃さ」
「……コホーッ」
……か○は○波は出なかったけど、やっぱ効かなかったみたい。
そんな健太郎の呟きの通り、カミヤの竜咆撃はその後ろの壁の一部を健太郎の体の形を残し吹き飛ばしたのみで、彼自身には傷一つ付けてはいなかった。
「そんな……馬鹿な……この僕の……最高の……技……が…………」
驚愕に目を見開いたカミヤは闘気を全て使い切った影響か、その場にバタリと倒れ込んだ。
「コホー……」
あっ……ふぅ、なんか予定と違ったけど、カミヤは取り押さえる事が出来たな……さて、キューを助けに行かないと。
健太郎は気絶し鱗の無くなったカミヤを担ぎ上げると、キューの後を追い寺院から抜け出した。
■◇■◇■◇■
今回の作戦でネックとなったのはベッカーの鼻だった。
ミラルダ達が近くに潜伏していると、ベッカーは警戒して取引を止めるかもしれない。
そこで録画の為にガラケーになった健太郎を寺院の天井に貼り付け、人の匂いを出さないキューにタニア救出役を任せたのだ。
そもそも今回の遠征にキューを連れて来たのは彼が強く望んだからであるし、やる気十分のキューをギャガンが推した事で人数を極力絞った作戦は実行される事となった。
誤算だったのはローグが健太郎の予想よりも遥かに素早かった事だ。
予定ではカミヤ、ローグ、二人とも電撃で眠ってもらう予定だったのだが……。
そんな訳で現在、タニアを連れたキューはバルバドス家執事のローグに追われ、森の上を必死で飛んでいた。
「キュエーッ!!(しつこいし早いのッ!!)」
「……!!(お兄ちゃん、頑張ってッ!!)」
「逃げられませんよッ!!」
タニアの無言の声援を受けてキューは懸命に翼をはためかせる。
そんなキューたちに向けて、ローグは叫びと共に青白い光のブレスを吐きだした。
「キュエーッ!!(あの竜人、嫌いッ!!)」
悪態を吐きつつキューはギリギリでブレスを躱す。
キューが躱したブレスは森の木々を薙ぎ払い、ビキビキと音を立てて水晶に似た結晶を生み出していく。
「キュエーッ……(もう少しなの……あと少しで……)」
「往生際が悪いですよッ!!」
ローグは薙ぐようにブレスを吐き、キューの行く手を阻む様に結晶を発生させた。
「さぁ、その子竜を渡しなさい。赤竜は坊ちゃまがもう取り込んでおられますので、子竜を渡すなら貴方は見逃して差し上げます」
「キュエー……(タニアはキューの妹なの……)」
「……(お兄ちゃん……)」
庇う様に鳥籠を抱いたキューを見てローグはため息を吐き肩を竦める。
「はぁ……仕方ありません、無益な殺生は好みませんが貴方を殺して取り戻すとしましょう」
そう言うとローグは大きく息を吸い込んだ。それと同時にキューの行く手を阻んでいた結晶が真っ二つに断ち切られる。
「キュエーッ!?(何なのッ!?)」
「そんなッ、私の結晶壁がッ!?」
「クククッ、良くやったぜキュー、後は俺達に任せな」
声の出どころに目をやれば硬質の結晶の壁を一太刀で切り裂いた黒豹が、ローグを見上げ牙を剥き笑っていた。
お読み頂きありがとうございます。
面白かったらでいいので、ブクマ、評価等いただけると嬉しいです。




