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ファンタジーハンター  作者: Who
その手に掴むモノ
6/49

その1

「来たか」


扉を押し開くと、ナツメが言葉をこぼした。場所は作戦室。

この組織、『桜花戦線』の司令塔。それがこの部屋だ。内にある机の一番奥には、ナツメ。そこから入り口に近くなるにつれ、階級の低い幹部が首を揃えていた。


「緊急招集と聞いた」

「同じくっす」


たんたんと答える。隣では、あくびを噛み殺すような顔をしたマークがそう呟く。

『緊急招集』といえば少しは格好もつくが、要はただの招集と変わらない。おそらく、また食料の調達でもする必要があるのだろう。

と、そんなことを考えていた頭が、次の一言で切り替わった。


「生存者がいるかもしれない」

「なっ!?」

「……」


思わず、といった様子でマークが声を上げるのも無理はない。ナツメのその言葉には、それだけの力があった。

『生存者』。この地下シェルターに籠ることなく、地上で一年以上生き延びた奴がいる……。


「すぐに行かせてくれ」

「落ち着け、まずは情報の整理だ。……順を追って話す」


振り返り、すぐさま部屋から出て行こうとする背中に、ナツメの声。ついでカチリ、と音がした。

何かのスイッチを押したのか、壁に一枚の地図が映し出された。ちょうど、この地下シェルターを中心とした周囲何キロかの地図に見える。

その地下シェルターの北東に、赤い点がいくつか灯った。地図上から見える情報的には、警察署、があった場所のようだ。


「ちょうど今朝方のことだ。この赤点が示す場所、旧警察署から信号を受信した」


またカチリと音がし、赤点が点滅を始める。


「この信号はすでに何度か送られて来ている。お前たちがくるまでにも二度。合計では5回も受信している。これは人為的な物と考えていいだろう」

「で、生存者ってわけっすか」

「その通りだ。しかも、この信号、指向性がある信号ではなかった」


指向性ではない。つまりは、何処かへ向けた信号ではない。

それが複数回。その意味するところは。


「……救難信号」

「同感だ」


普通、信号は誰か、もしくはどこか特定の場所と通信するのに用いられる。そうしなければ、そもそも受取手がいるかすら分からないからだ。その上、傍聴の恐れもあるため、デメリットしかない。

それをせずに全方位に送る信号は、誰でもいいから拾って欲しいことを意味する。


「そこで。この信号をどうしようか、と君ら二人をここへ呼んだ訳だ」

「私は反対です!」


と、そこで左の方から声が上がる。見ると、ナツメと似た感じの服装をした男が立ち上がっていた。

階級的には、ナツメから……二つ下、といったところだろうか。


「冷静に考えて、一年もの間、地上で生き延びられるはずがない! それを信号の一つや二つで、わざわざ我々が出向かなくても!!」

「もちろん、それも正論だ。ここで我々が助けに向かえば、逆に奴らにこの場所を教えてしまう可能性だってある」


と、ここでナツメの視線がこちらに向く。その目はなぜか、ひどく冷め切っていた。


「君らはどうしたい?」

「……本気で言っているのか?」


聞かれ、聞き返す。それぐらいに、その質問は愚問だった。

救難信号があって、それを無視する?

そんなこと、俺にできるわけがない。


「だと思ったよ。お前も一緒か? マーク」

「そりゃもちのロンっすよ。誰が止めたって俺は行くっすよ」


その言葉は軽い他ないのに、聞こえてくる声は重い。こっちも聞くだけ無駄だったようだ。


「そんな……即断、だと?」

「なんて勇敢な……」

「……蛮勇と履き違えるなど……」

「……英雄でも気取るつもりか」

「ならば決まりだ」


部屋がざわつくなか、ナツメの一言で再び静まり返る。

その声を合図にしたのか、モニターにはさっきまでとは違う、今度は黄色の印が浮かび上がる。その数は、一つ。


「これを見てくれ。これは、今までにない反応を示したものだ」

「『これまでにない』……?」

「ああ」

「あれ? でも、それってドラゴンなんじゃないっすか?」

「無論、我々もそう思った。だが、それにしては反応が妙だ。しかも身動ぎ一つしない」


言われて、改めて印の示す場所を睨む。場所は、最初の救難信号を拾った場所から目と鼻の先。もっといえばほとんど同じ場所だった。


「よって、作戦を二段階に分けることを、絶対の条件とする」

「二段階? っていうことは……」

「マークにしては察しがいいな。その通り。……まずはこの反応を調査、しかるのちに、救難信号の場所へと向かってもらう。安全は第一にしておきたい。その意味でも、この調査は不可欠だからな」


ちらり、とこちらに目を向けながらそう言われてしまえば、頷かざるを得ない。

流石にここで首を横に振って出す代案も、この作戦自体から降りることも、どちらも俺にできる選択肢じゃない。


「わかった」

「りょうかいっす」

「よし、ではこの会議を持って作戦開始とする。各々、自分の役割を全うしてくれ」


ガタッ!ザッ!!


ナツメの声を合図に、椅子に座っていた連中が立ち上がる。その手は額に。そんな立派な敬礼をしてから、それぞれに部屋を出ていく。

その邪魔をしないよう、俺たちも部屋を出るーー


「ああ、二人とも、ちょっといいか?」


寸前でまたも、ナツメに引き止められた。

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