表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ファンタジーハンター  作者: Who
今生きるために
5/49

その5

「しき……官?」

「ああ、そうだ。これでも軍人の端くれだからね。民衆を導くためにってやつさ」


にやり、と笑うナツメ。その顔には遠慮も謙遜もない。

おそらく、本当のことなのだろう。であれば。


「俺を助けたのは誰だ?」

「……っとと、急に口調が変わったね。まぁいい、指示したのは無論私だよ。と言っても何組も指示していたから、どの組か、までは分からないけどね」

「妹が、近くにいたはずだ。妹のことが知りたい。教えてくれ、妹も無事なんだろ!?」

「まてまてまて、落ち着け」


勢いだけで立ち上がる。足はまだ震えているが、知ったことではない。

無理矢理足の上に体重をかける。もちろん、そんなことをすればふらつくだろう。実際その通りだった。

だが、ちょうどいい。


「教えてくれ、妹は!?」


ふらついた勢いのまま、目の前に立つナツメの肩を掴む。掴んで、立ち続ける。


「『落ち着け』、と言ったはずだぞ?」


がっ、と足元から何かをぶつけられる音。次いで、視界がゆっくりと上を向き始め……。

背中で何かに着地する感触。俺の体は三度、ベッドに倒れ込んだ。


「そんな体で、気だけはやらせても仕方ないだろう」

「……教えてくれ、たのむ」

「まったく……。誰も教えないなんて言っていないだろう」


頭に手を置いたまま、ナツメが息を吐き出す。長く、長く。


「お前を回収した部隊の報告によれば、今日、お前が目を覚ましたので全員だ。……そして、すでに目覚めている者の中に、お前を兄と慕う者はいなかったよ」

「ぁ……」


あっさりと言われる。

足から、手から、力が抜ける。息をするのも気怠くなってくる。

やっぱり……そうなのか。あのとき離れた手。あれをもう一度掴むことはもう……。


(ほんとうに……?)


そんな声が聞こえる。


(本当に、もう手遅れなのか? 俺はもう、白奈を……)


……そんなわけないだろ!

そんな簡単に奪わせてたまるか!!


一度落ち着いた黒い何かが再起する。

そうだ、俺は。


「なんて顔をしているんだ。……ならばお前にまた二つの選択肢をやろう」

「……」

「一つは、避難民として、地下で過ごすこと。ここにいる限り、ある程度の安全は我々が保証してやろう」


ナツメが指を一つ立てながら、そう提示する。

たしかにそれが普通だ。なにせ、俺は何の力もない、ただの人間だ。

けれど。ナツメが二本目の指を立てる。


「もう一つは、もちろん、我々と一緒にくることだ。ここにいるだけでは食料にも限りがある。それを補給する意味でも、我々は地上に出なければならない」


奴らの跋扈する地上へ。

奴ら。俺から白奈を奪った、倒すべき敵・・・・・


「二つ目だ」


言うと、ナツメが張り詰めていた顔を崩す。可愛い少女のような顔をして、そのまま。


「ならば、この手を取れ」


手を差し出してくる。少し古ぼけた、グローブに包まれた手。

間違ってもそこらの女の子がするには不格好にすぎるそれが、目の前で揺れている。

もちろん、そこに手を伸ばす元気なんてない。さっき使い果たしたばかりだ。


(大事な者をなくした。しかもその時から半年も経った)


それでも。いまここに、こうして手が差し伸べられた。

それは何もかもから助けてくれる神の手ではないけれど。


(それでもいい!!)


体を横に捻って。戻す勢いで、手を振り上げる。


パァン!!


ほとんど叩きつける勢いで、ナツメの手を取る。握る。

もう絶対に奪わせない。奪い返す。そして。


「ようこそ、『桜花戦線』へ。新しい同胞よ」


奴らを狩り尽くす!!絶対に。

俺たちはニヤリと笑い合った。


「……」


その直後に、俺はまた気を失った。

それでも俺の手は、しばらくナツメの手を頑として離さなかったらしい。



ーーー



半年。

それはドラゴンが初めて襲撃した日から俺が目覚めるまでの期間。そして、その目覚めから地下での生活を余儀なくされていた期間でもある。


「どうしタ、急に黙りこんデ?」


ふと、上から降ってくる声に目が覚める。どうやら少しばかり眠りこけていたらしい。


「少し、昔のことを思い出していただけだ」

「昔……? ああ、もしかして半年前のことか?」


鋭い……。いや、直前までナツメの話をしていたような物だから、それでか……?

まぁ、それはともかく。


「そうだ。そして、ついに今日、俺は奴らとまた相見えた。……もうあれから一年経ってようやくだ」

「……」


ここまでかかるとも思っていなかった、いや、もしかしたらもっとかかるかも、とも思っていた。

不思議な感覚だ。長かったようで、短かったようで。嬉しいようで、悔しいようで。

それでも、事実、俺は今日この日をもって、改めて奴らと向き合う。

いつか感じた、あの黒い何かは襲ってこない。


「必ず……てやる」


こぼれ落ちた言葉が、白奈へ向けての物なのか、それとも奴らに向けてのものなのか。

それすら、その時は分からなくなっていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ