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ファンタジーハンター  作者: Who
今生きるために
4/49

その4

「呼ばれた……ッテ何やらかしたんだヨ」

「別に何もやらかしていない。ただ、『まだ考えているのか』と聞かれただけだ」

「ん? え、マジ? っかー、あの女もしつこいナ」


なはははハ、と笑うトカゲの声が部屋中に響く。その声は半年前と何も変わっていない。いや、むしろ聞き慣れた分、余計に不快に感じる部分もあるかもしれない。


(半年、か)


その笑い声で、思い出す。半年前、俺が目覚めた直後。

トカゲと初めて出会ったあの日。俺がドラゴンを狩ると、そう決めた日のことを。



ーーー



「といっても無理そうダナ。わーった、聞かせてやるヨ。お前が呑気にお寝んねしていた半年間のことを。世界の変わり様を、サ。」


半年。そのトカゲはそう言った。

あのファンタジーが襲来して、すでに半年が経っているのだと。その半年間、人間も決して指を加えてみていたわけじゃないはずだ。

すぐには反撃できなくても、きっと……。


「んー、どこから話したものカ……」

「最初からだ」

「最初かラ? それはおよそ46億年前ニ、宇宙が……ってそんなに睨むなっテ、冗談だヨ」

「…………」


黙って目から力を抜く。次にふざけたことを話そうものなら、許さない、と目で訴えてから続きを促す。

それに対して。


「っと、ちょうドご到着だ」


がちゃり、と扉が開く。場所はトカゲのちょうど後ろ。俺のいるベッドから、トカゲを挟んだ反対側の壁からだった。

そこにあった扉が開いて光が入ってきている。そして。


「目が覚めたと聞いて来てみれば、またお前はちょっかいをかけているのか?」

「しかたねーダロ? せっかくのオモチャだからナ、遊ぶなって方が無理ダロ」


コツコツ、と軽い足音を響かせながら人が一人入ってくる。髪は長い。


「気分はどうだ?」

「よくはない」

「つまり悪くもないってことか、なら良い」


ふぁさ、と音を立てて目の前で髪が揺れる。


「紹介が遅れたな。私はナツメ。……で、こっちの怪しいのが」

「オレに名前なんてないヨ、見たまんまトカゲだ。愛着持っテ、気軽にカゲさん、とでも呼んでくレ」

「……だそうだ。それで、君の名前は?」

「…………須野すの裕二ゆうじ

「そうか、では須野。君には今二つの選択肢がある。一つは、何も聞かず、ここでゆっくりと過ごしていくことだ」

「もう一つは?」


間髪入れずに答える。それが意外だったらしく、目の前の人物、ナツメさんは一瞬目を見開く。

けれどそれもすぐに消えていく。


「もう一つは、これから話す絶望を聞いてから生きていくことだ」

「…………」


正直、そのとき心が揺れなかった、と言えば嘘になる。

今ナツメさんは『絶望』と言った。それは十中八九、あのファンタジーのことだろう。

それが、半年もたった今でもまだ、『絶望』。


(聞くな、聞いたら戻れなくなる)


心のどこかから、そんな声が聞こえてくる気もする。

けれど、俺の口は動いた。まるで、何かに突き動かされるように。そうすることを強いられるかのように、その選択肢を選んだ。


「聞かせてください。その『絶望』ってやつを」

「……いいだろう。望み通り聞かせてやる」


言って、部屋のどこかから椅子を取り出し、そこにナツメさんが座り込んだ。カゲも同じように椅子を手に取る。


「まずは半年前だ。君も覚えているかい? そう、ドラゴンの襲来から全ては始まった」



ーーー



「そんな! 銃もミサイルも効かなかったんですか?」

「ああ、その通りだ。ミサイルはともかく、人が手に持って扱う銃器なんて、ただの豆鉄砲だったよ」


それは、確かに絶望だった。

まず、襲来したドラゴンは所構わず人を襲い始めた。それ自体は俺も確かに覚えている。忘れられるはずもない。

その直後から、国は抗戦を開始した。具体的には、自衛隊、陸軍、空軍の部隊で殲滅を図ろうとしたのだ。

それらの結束があれば、必ずそのドラゴンを駆逐できるはずだと。そう、『結束があれば』。


「ナハハハハ。あァ、あれは確かに面白い見せ物だったナ」


隣で笑うカゲ。決して笑うところではないはずだが、当人にとっては笑い話らしい。


「いや。そんな地球の危機を、自らの欲でさらに悪化させたんだ。笑うしかないだろう」


ナツメさんも、笑いこそしないものの否定はしない。

理由は一つ。要は揉めたのだ。『どの部隊だれが先陣を切るのか』、という議論で。

確かに歴史的にも、先陣を切って戦う姿はかっこいいように言われている。

そして国自体の報酬にも色がつくだろう。だから、上層部は揉めに揉め、ついには瓦解を始めた。

もちろん、ドラゴンがそれを待つようなこともなく、軍隊は、隊を成す前に崩壊した。

といっても、軍人である以上、彼らは戦った。多数で取り囲むはずが、各個撃破のような形になってしまったが、それでも一人でも多くの民間人を守るため。その銃口をドラゴンに向けたのだ。

けれどそれも。


「効かなかった」

「効かなかった、って、当たらなかったんですか?」

「いや、当たりはしていたらしい。が、当たったその瞬間に弾が弾け飛んだ。奴らの皮膚を貫通することはついぞなかったよ」

「…………」


黙り込む。いや、喋りたくても言葉が出て来なかった。

嘘だと否定したい。そんなのは幻だ、悪い夢だと。いっそーー


「それで、どうなったんですか?」


言葉を絞り出す。まさしく、そんな感じの声の出し方だ、と自分でも思った。

聞こえづらいし、何より小さくて、床に向かって発したような言葉。


「どう、とは?」

「その後、人間は、俺たちはどうなったんですか」

「……見ての通りだとも。我々は敗北した」


ふー、と少し長めにナツメさんが息を吐き出す。


「残った、多くない人間はこうして地下に逃げ延びた。が、地上はもう奴らの領土だ。人が安心して歩ける地なんてもはや残っていない」

「そう、ですか」


足が、震える。さっきまでろくに力も入らず、動かすことすら満足にできなかった足が。

武者震いなら、それでもよかった。けれどこれは違う。カタカタカタと、止めることもできないまま震え続けている。

地上に人間の世界はもうない。そんなーー


(そんな世界に妹を置き去りにしてしまった)


その事が、黒い何かとなって心をざわつかせる。

さっきまで、まだ落ち着いていた感情が揺らいでいく。

俺だけが、助かってしまった。こんな。こんなくそったれな世界に、俺だけが。


「こちらとしてはこんなところだ。……さて、では今度は君のことも聞かせてもらおうか」


ナツメさん、いやナツメに言われて、前を見る。

そこで初めて、彼女の服が意識に入った。それはまるで、軍服のようで。


「ん、ああ。そう言えば最初に言うべきだったな。私としたことがうっかりしていたよ。……私はナツメ、この地下シェルターの指揮官をしている者だ」

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