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ファンタジーハンター  作者: Who
今生きるために
3/49

その3

「ご苦労だったな」


帰り着いて少し。さっきまでインカムから聞こえていた声が目の前から降ってくる。

俺をこの組織に招き入れた張本人にして、この組織のトップ。名前はーー


「ナツメ様、今回確保した食料の目録です。どうぞ」

「ああ、受け取ろう」


そう、ナツメ。

それで目的を果たしたのか、資料の紙束をナツメに渡した男は敬礼の後、部屋を出て行った。

残ったのはこの部屋の主人たるナツメ。それから俺とマーク。


「危険な任務だったが、終えてみてどうだ」

「どうもこうもない。無事に物資が調達できたんだろ? それで十分じゃないか」

「そーそー。俺たちに戦闘の反省とか期待されても困りますって」


横でマークも同じようにボヤく。

俺たちは特別な訓練をした兵士じゃない。正直、生き抜いたのも奇跡みたいなモノだ。

それを正直に話したところ、帰ってきたのは大きなため息だった。


「ハァ……、別に私もそんなことを聞いているんじゃない。……お前らはまだ『あんなこと』を考えているのか、と聞いているんだ」

「……え?」

「…………」


す、っと周りが静かになる。俺たちが話を止めたから、というわけじゃない。

どちらかと言えば、ナツメが場の空気を引き止め、俺たちがそれに釣られて引きずり込まれた、と言った方が近い。

そんなナツメがこちらを見ながら、また口を開く。


「お前らは偶然にもあのドラゴン共を倒す、いや『狩る』とまで言ったな。それがどう言うことか今回でわかっただろう? それでも、まだそんなふざけたことを言うつもりか?」


紡がれるのは正論。事実、俺たちは奴らに傷一つ付けられない。

こうして囮として逃げ回り、気を引き続けることが精々だ。人は奴らに敵わない。だからもう諦めろ、と。彼女は言外に言う。


……ふざけるな。


「ふざけるなよ? 俺は大切なものを取り戻すために、アイツらを狩ると決めた。できるかどうかじゃない。やると決めたから、やるんだ」

「はー……俺だってそうっすよ、理由はこいつと違いますけどね。……けど、できないからと言って諦められるほど、甘い考えもしてないっすから」


くい、とマークが俺を指差しながら、俺は変わらずナツメを見つめたまま、俺たちは言葉を吐き出す。

だが、その言葉を真正面から受けてなお、ナツメは身動ぎひとつしない。その上、さらにでかいため息をこぼした。


「はぁあああ……。お前らのその執念はよく分かった。もう聞かない。……せめて、死ぬなよ?」

「当たり前だ」

「当然っすよ」


その答えを聞いた後、もう一度ため息を落としてから。


「もういいぞ。とにかく、今回はご苦労だった。部屋でゆっくり休んでくれ」


ふりふり、と揺らすように手を振りながら退出の指示を受ける。俺たちも特に用がないため、その指示に従い部屋を出る。


「さぁってと……」


部屋を出て少し。

後ろで扉が閉まるのを聞きながら、俺たちは同じ方向に足を向ける。


「俺は少し風呂でも入ってくっかなぁ……。裕二、お前はどうする?」

「俺は部屋に戻る」

「そか……んじゃな」


そう言いながら角で別れた後、足を廊下の先へと向ける。この先は居住区。

この地下施設で暮らす人たちの、生活の場として提供されているエリアに繋がっている。

もちろん部屋数にも限りがあるから個室なんてないし、大きな部屋は雑魚寝も良い所だ。


「『みんな寄り添って生きている』、か……」


歩きながら言葉が溢れる。その言葉を蹴り飛ばすように、子供が抜き去っていった。

まってー、ここまでおいでー。と、周りの暗い空気に呑まれず、走り回っている。

すれ違う人とぶつかりそうになりながら走っていく彼らは、曲がり角を曲がって見えなくなっていく。

そして、そんな子供たちを諫める声は、聞こえない。……聞こえてこない。


ガチャリ、と目的のドアを開き、その中に入る。

この居住区には、いくつかの大部屋と、いくつかの個室が用意されている。

ほとんどの人間は大部屋で雑魚寝をしながら暮らしているが、いく人かにはこうして個室が与えられている。と言っても一人で個室を占拠できるような余裕はない。大抵は誰かと二人、もしくは三人での共同部屋となる。

例外として一人で部屋を占拠しているのは、指揮官のナツメ、それに……。


「よぉ、遅かったナ」

「少し、ナツメに呼ばれた」


今の俺のルームメイトとなった、このトカゲぐらいのものだった。

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