表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ファンタジーハンター  作者: Who
その手に掴むモノ
12/49

その7

「あ、あの…?」

「えほん、ごほん」


もう一度声をかけられそうになって、慌てて咳き込む。


『クク、ククふふ……』


インカムからはそんな声。そういえば俺たちにはナビもどきがいたはずだ。

と言うことは、今耳から聞こえてくるように、こいつは全て分かった上で黙っていたんだろう。


(このトカゲめ…!)


静かにインカムの向こう側に怒りを向ける。帰ったら覚えとけよ……。

そうして息を整えるフリをしてから。


「はい、確かに俺たちは信号をキャッチしてここにきました。…と言うことはあなたが?」


妙な気恥ずかしさを振り払うように、ことさらゆっくりとして言う。

顔は少し熱いままだが、なんとか声はいつも通りのものが出た。


「は、はい」

「そうですか。俺たちは、あー、『桜花戦線』に所属する者です」

「おう、か…?」

「早い話が、助けに来ました」



ーーー



「で、ここが私たちの生活の場所です」


案内されたのは、二階の隅。かろうじて壁があるが、そのあちこちに穴が空き、天井もほとんど意味を成していない。と言うよりもほとんど青空教室だ。

幸か不幸か、俺たちが来た方角とは真逆に位置していたため、見えていなかったようだ。人数はおよそ20人と言ったところか。


「わー、ハカセおかえりー!!」

「ふふ、ただいま」


その中から四人組が飛び出してきた。次々と走り寄ってきて、そのまま少女に抱きつく。そうして少しばかりじゃれあった後、その興味の先はこちらに向いた。


「あれ、そのにーちゃんたち、だれー?」

「もしかしてさっきのすごいおとも、にーちゃんたちー?」

「こ、こら。失礼でしょ。この人たちは私たちを助けに来てくれたのよ」

「え! ほんと!?」


やったー、と叫びながらさっきと同じスピードで駆けていく。今度はさっきとは逆に俺たちから離れる形で、集まっている人たちに向かって突進していった。

その子供たちから話を聞いた大人たちが順に俺たちを見始める。どうやら噂は勝手に広まっていっているらしい。


「すいません、騒がしくて」

「いえ、子供はあれぐらいがーーー」

「あーー!!!」


こっちにも子供がいたか。

すぐ後ろでマークの叫び声が聞こえてくる。振り向くと、少女を指差しながら固まっていた。口も開きっぱなしだ。


「どうした、マーク」

「ハカセって、博士っすか!? ももも、もしかして柚木博士っすか!?」

「そ、そうですけど……なんで知ってるんですか?」

「そ、そりゃ知ってるっすよ!!何せ柚木博士と言ったら、生物学の権威! その幼い容姿と明晰な頭脳は有名中の有名じゃないっすか!!」

「ひぃ…!」


堰を切ったように喋り始めるマーク。確かに柚木博士の話なら俺も聞いたことがある。なるほど、これなら幼い容姿と言われても納得だ。

が、それはそれとして。


「落ち着け」

「あいた!!」


今にも飛びかかりそうだったマークに、拳を落として大人しくさせる。

そうして少し黙らせてから。


「ナツメ?」

『ああ、こちらでも確認した。確かにその人は柚木博士で間違いないようだ』


どうやらちゃんと本物らしい。


「まぁとにかく。……俺たちはあなた方を保護するために来ました」


後半は、先程からこちらに視線を向けている人たちに向けて言う。その言葉を聞いて立ち上がる人が一人。

痩せ気味の、こちらも女性のようだ。まっすぐこちらに向かって歩いてくる。その顔は俯いていてよく見えない。


「え、っと……?」

「っ!!」


マークの前までやってきたその女性は、ようやく顔を上げる。

その顔は。


パァン!!


乾いた音が響く。

女性の振りかぶったてのひらが、マークの頬を張った。

その顔は。その表情は、悲哀だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ