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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

川の底から

作者: 京本葉一

「最後にAさんと会われたのは、八日で間違いはありませんか?」

「はい、あの、Aさんは、ほんとうに……」

「……残念ですが」


 十一日、Aさんの遺体が山林で発見された。


「素敵なお嬢さんでした。顔を合わせるたびに、明るい笑顔をみせて、挨拶をしてくれて……」

「事件を完全に解決するためにも、情報が必要となります。どんな些細なことでもかまいません。Aさんのことで、なにか気になったことはありませんか?」

「…………最後のご挨拶が、とても印象深かったもので、忘れていたのですが」

「なにかあったのですね?」

「……大雨が降った、一日の夜のことです」

「一日?」

「はい、一日の午後十一時ごろです。川の増水が気になって外へ出たのですが、雨が降るなか、Aさんがずぶ濡れになって歩いていました。心配になって声をかけたのですが……」

「様子がおかしかった?」

「いえ、そういうわけでは……」

「ほんとうに?」

「……川のなかに傘を落としてしまった、といっていましたけど……」

「けれど?」

「Aさんの衣服や手足に、泥がついているようにみえて……いえ、暗くてよくみえたわけではないのですが、まるで……Aさん自身が、川のなかに落ちてしまったような……そんな馬鹿なことが思い浮かんだものですから」

「……そのときのAさんに、外傷などは?」

「いえ……暗かったものですから」

「そうですか」

「あの、お役に立ちましたでしょうか?」

「はい、もちろんです。ご協力、感謝いたします」




 大学生であるAさんが失踪した。娘と連絡がとれないことを心配した、Aさんのご両親の通報により、警察が捜索を開始したのが九日になる。本来は軽々に動かないものだが、そうはいかない事情があった。十代から二十代の若い女性の、連続失踪事件がつづいていたためだ。


 捜査開始早々、警察はAさんの自殺を疑った。


 Aさんは携帯電話会社との契約を解除していた。預貯金のほぼ全額をご両親の口座に送金したあと、口座も解約している。生活をしていた部屋には、家具その他の生活用品がなくなっており、マンションの賃貸契約も月末までとなっている。まるで引っ越しをしたかのようだが、転居したという情報はない。


 二日にアルバイト先を辞めたAさんは、失踪するまでに、ご両親や親しい友人などと対面して、会話を楽しんでいる。飲食物に口をつけなかったこと以外、とくに変わった点は見あたらなかったようだ。Aさんの失踪を知らされてようやく、こちらの幸せを願う言葉を贈られていたことに気づいたという。


 まるで最後のお別れのようだったと、誰もが語った。

 そして誰もが訴える。

 Aさんには自殺をする理由がないと。


 八日、大学に退学届を提出したAさんは、電車にのって街を離れた。

 駅の防犯カメラに映像が残っている。

 映像からAさんの足どりを追い、隣りの県警に連絡をいれて応援を要請した。


 Aさんが降りたとおもわれる駅は、過疎化の進んだ土地にあった。手入れのされていない山林が多く、誰にも知られずに自殺をするには適しているのかもしれない。Aさんには、両親や友人が知らない悩みがあったのだろう。Aさんの行方を追っていた捜査員たちの思考は、やはり自殺に傾いていた。


 Aさんのような見知らぬ人物が歩いていれば目立つとおもわれたが、目撃証言は得られなかった。

 かわりに出てきたのは、ときどき不審な車両がやってくること。

 そのワゴン車が、ずっと駐車中であること。


 不安を訴える地元住民の声におされた捜査員たちが山林で発見したのは、大型のシャベルと倒れた三輪の台車。そこに載せられていたであろう、鋭利な刃物で胸を刺されていた若い女性の遺体。首筋を頸動脈ごと噛みちぎられ、血まみれになって死んでいた男の遺体。そして、口もとを赤黒く染めたAさんの遺体だった。




 Aさんの遺体が発見された付近には、四人もの遺体が埋まっていた。

 それらは失踪した女性たちであり、死んでいた男の部屋から、失踪事件に関わる数多くの物証が見つかっている。鋭利な刃物で胸を刺し殺す、残虐な連続殺人事件へと姿を変えたものの、事件は解決したといってもよいのだろう。

 Aさんの胸にも、致命傷となる深い刺し傷があった。

 彼女は被害者であり、連続殺人を終わらせた人物であると、警察は結論づけた。

 いくつもの記録と矛盾する、死後十日以上とされたAさんの鑑定結果。Aさんが一日には亡くなっていたとされる報告は、結局、鑑定ミスとして処分された。

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― 新着の感想 ―
[一言] Aさんは吸血鬼か何かのモンスターだった? 謎があるのはいいけど、もうちょいとヒントが欲しいです。
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