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5 ひとまずリトライ

私が目覚めると、何やらチクチクしたような感触を首筋に感じた。とても涼しげで、草の匂いすらしている。確か私は宿のベッドに寝てたはずだけど…


「おや、目覚めたかい?」


私が状況を掴めず暗闇の中目をパチパチさせていると、右側から声を掛けられる。どこかシロンの声に似ているけど…


「えっと…誰?」


そちらの方を見ると、水色の輝く瞳がこちらを覗いていた。暗闇に目が慣れてくると、その容姿が見えてきた。


「どうも説明している暇はなさそうなんだ。取り敢えず乗って。」


その少女は体を翻し、大きな黒竜へと変貌した。本当にとんでもない大きさだな…シロンが龍になっているときもこれほど大きくなかったと思う。どうしてここにいるのかとかどうして私を乗せるのかとかいう疑問をシャットアウトし、黒竜の背中に飛び乗る。


「さぁ、行くよ!鱗、離さないでね!」


黒竜はそう言うと、天高く高速で飛び上がった。


「うわわわわわわわわああああああっ!!」


勿論私は振り落とされないように鱗にしがみつく。が、Gのかかり具合が半端ない…宇宙飛行士でもなければパイロットでもない私からすればもはや修行とも呼べる。


地上1万mくらいを通過したあたりからやっと前に進み出し、飛行が安定した。飛んでいるのはかなりの上空なため、雲上の満天の星空が目に飛び込んでくる。遠くには碧色の満月がぼんやりと薄く輝いていた。


「ひとまず落ち着いたから、事の顛末を話そうか。」


彼女はそう前置きをし、何が起きたか話し始めた。



「…そんな事があったんだね…何かごめん。私が気づけていればもっと早く対処できたんだろうけど…」


「構わないよ。それに、白竜の私は薄々気付いてたみたいだよ?」


えっ!?そうなのか!?……まぁでも気付いても気にしなさそうだし、すぐ私に流されちゃったから言う暇も無かったのか…


「まぁ、丸く収まったから良しとしよう。でもこれからどうしようか…てか、最初に訪れる所から設定おかしくない!?ハードモードすぎるんですけどっ!?」


私は届くはずもない神への苦言クレームを思わずこぼしてしまう。


「とにかく!こうなったらまともな拠点探しだ!……とは言ったものの、アテがないな…。」


「大丈夫、安心してよ。私の目なら先まで見渡せる。それに、もう街は見えてるよ?って、ああ、ごめん。高度を下げなきゃ見えないよね、ははっ。」  


……すごく嫌な予感がする。


「あ、一つ言っておくけど、上がるときより下がるときのほうが辛いからね?」


「いやっ!一々言わなくていいから!言わないほうが恐怖心も少しは無くなひゃあああああああっ!!!」


シロン(黒)は私の話を遮るかのように真下に急降下する。


「はぁ…はぁ…少しは私の話を聞いてよね…って…あれは……」


眼下の平原にそびえ立つ大きな城壁、そしてそれに囲われるようにして街、城と連なっていた。ここから距離があるため小さく見えるが、実際は立派なものなのだろう。


「街は見つけたみたいだね。深夜だから入れてもらえるかは分からないけど、物は試しだよ。」


シロンはそう言うと、先程とは打って変わってゆっくりと降下していく。きっと懲りてくれたんだろう。そう思おう。


平原に着地すると、街まではまだまだ遠く感じる。もちろんここを高速移動する術は持ち合わせてないため徒歩だ。なんだろう、ゆっくり移動できる事に安心している自分がいる。


「さてと、まず聞きたいんだけど、シロンは何故神殿から落っこちる私を助けてくれたの?初めて会ったのってあの神殿だよね?」


そう、疑問に思っていたことの一つ。見ず知らずの神殿から落ちるただの人間を何故ドラゴンが助けたのか、である。正直なところ、ドラゴンって凶暴で殺戮を好む生物なのかと思ってた。こう友好的なところも怪しく見えてきてしまう。


「まぁ、自然な成り行きというか……彼女、お節介を焼く所があってね。何でもかんでも首を突っ込む習性があるから。君はラッキーだと思ってくれていいよ。大丈夫、ドラゴンは基本危害を加えられなければ加えることはないよ。」


「そっか、…わかった。シロンのこと、信じるよ。ただ、呼び名がなぁ…」


昼の時はもちろんシロンで良いんだろうけど、夜になったときに困るよな…クロン?いや安直すぎる…


「ふふっ。私にも普通の名前はあるよ。ただ、こんがらがるだろうから、シロンでいいよ。」

 

シロンはそう言うが、こちらとしては……まぁいいか。



しばらく歩いていると、思っていた数倍の大きさの壁が見えてきた。黒色の鋼のようなもので壁はできていて、まさに難攻不落といった感じだ。


「どう入ろうかな……」


「まぁ見ててよ。」


シロンは自慢げにそう言うと、門へと向かっていった。何か策があるのかな…さすがは黒いシロン、頼りになる。

……コミュ力がない私とは大違いである。


「そこの君、こんな夜中に危ないよ。」


その時、後ろから声をかけられた。そこにいたのは、髪を腰まで長く伸ばした女性だった。


「あー、えっと…あそこに用がありまして…」


突然声をかけられキョドる私だったが、必死に門を指差す。


「なるほど。私の国に用があったんだね。」


「えっ!あなたがあの国の主なんですか!?」


国王とかって、ずっと玉座に座っているイメージだったけど、違うのかな?


「ふふ、意外だろう。他の国主はただ暇そうに座っていることが多いが、それでは民の平和を完全に守りきることは出来ない。主自らが動いてこそ、真の防衛となれる。」


うわぁ…明らかに理想とか意思とか持ってる人だ…めちゃくちゃ他の王のことディスってるけど。


「とにかく、私の許可が出たとでも言えば門は開けてくれる。私は巡回で忙しいのでね。」


そう言って彼女は手を振りながら去っていった。なんというか、国民思いの人だな。


「話は聞かせてもらいました。今、門を開けましょう。」


その後すぐに門番がやってきた。……そういえばシロンは何を?


「だーかーらー!ほんっっと頭硬いんだね!君は!ただ門を開けてくれればいいって何回言ったら分かるのさ!」


シロンは手をぶんぶんさせながら、門番に真っ向からぶつかっていた。いやまぁ…なんか嫌な予感はしたけれど。


「白が白なら黒も黒かぁ…」


私はその抜けっぷりにどこか安心しながら、この世界でのまともな一歩を踏み出した。

すみません……また…遅くなりました…

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