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第91話【新しい魔法の習得とその代償】

 毒消しの魔法・・・。

 一般的に有名なのは【ディスポイズン】であるがこの世界では高レベルの浄化魔法に分類されていた。

 そもそも、毒の種類が無数にあるのに一つの魔法で万能に浄化出来る方があり得ない事であり、高レベル魔法とされる由縁だった。


「それでは毒に対応した薬が無い場合に患者を助けるためにはどうしたらいいかな?」


「薬が無いならば、毒の解析をして調薬するか、もしくは『魔法で解毒する』ですか?」


「そのとおりだよ。

 で、君は解毒魔法と言えばどんな魔法を知ってるかい?使えなくてもいい、知ってる魔法を教えて欲しい」


「えっと、まず一番代表的な魔法が万能型の『ディスポイズン』ですね。

 あとは植物系の毒に効く『キュアリー』、そして動物系の毒に効く『マナリアル』ですね。

 他にも幾つか派生はあるみたいですけど私はそれしか知りません。

 もちろん私はどれも使えませんけど・・・」


 エスカは胸をはって自信満々で答えた。

 知識は結構しっかりと勉強してるみたいでこういった質問には驚くほど博識に答えてきた。


「よく勉強されていますね。

 では、魔法の構造は理解しているとみていいですか?

 それが理解出来ているならば後は魔力の増幅と安定でなんとかなると思うけれど・・・」


「・・・すみません。

 自分に使えない魔法は理論だけ分かっていても構築して試す事が出来ないので本で見た程度しか理解出来ていません」


 エスカは非常に残念そうな顔をしながら右手を上げて自分の知識にある魔方陣を空に展開した。

 それは、今まで何度も挑戦しながら全く発動する兆候すらなかった解毒魔法だった。


『ブォン!』


「えっ!?きゃっ!!」


 エスカの指先から青い光で描かれた魔方陣が光を強めて力を宿そうとした瞬間、エスカが驚いて集中力を欠いたために魔方陣は効果を発する事なく虚空に消えていった。


「おー。出来るじゃないですか。

 エスカさんは本当によく勉強されていて良く努力もされている。

 今のはキュアリーの魔方陣ですね。

 レベルの高い治癒士は頭の中で魔方陣を描くので見ることはあまり無いですけど、慣れるまではきちんと外部に魔方陣を展開して発動させる方が安定した効果を発揮出来るんです」


 僕の言葉にエスカは驚いた目をして僕を見た。


「今まで一度も発動したこと無かったのに!?

 それにあの一瞬で何の魔方陣が分かるオルトさんって!?・・・。

 本当に何者なんですか?」


「まあ、僕が何者かは置いておいて次のステップに進みましょうか。

 エスカさん、キュアリーの魔法が使えるようになればさらに多くの患者を助けられますよ?

 さらにマナリアル、ひいてはディスポイズンまで習得出来ればあなたの理想に近付くのではないですか?」


 エスカはオルトの事が気になったが、次の言葉の意味を理解した瞬間に気持ちを特訓モードに切り替えていた。


「絶対に習得してみせます。よろしくお願いします」


「うん。じゃあまずはさっきのキュアリーを安定して使えるようになろうか。

 ちょうどこの毒人形は植物系の毒に侵されているから実験には最適だ。

 前回のヒールでやったように魔力の上乗せをしつつ、慌てないで魔方陣を完成させてみようか」


「はい!頑張ります」


 エスカはさらに集中するとキュアリーの魔方陣を丁寧に書き上げ、ゆっくりと魔力を充填していった。

 魔方陣は徐々にその色をその輝きを増していき、端からみても十分な力を宿したまま安定していた。


「よし、エスカ!その魔法を人形に向かってゆっくりと包み込むように浸透させるんだ!」


 僕は自分で指導しておきながら、今ここに一人の新米治癒士が大きな壁を飛び越える瞬間に立ち会い、心が震えていた。


「体に巣食う不純なるものよ。正の純たるマナのもとその悪しき流れを正したまえ。キュアリー」


 エスカの唱えた魔法は青く輝きながら毒人形を包み込み体の中に吸い込まれていった。

 三人が人形を覗きこむと紫色だった顔色も正常に戻り毒が完全に浄化された合格マークが額に浮かび上がった。


「ひゃったぁ・・・・・ぱたっ」


 エスカは達成感に包まれ笑顔のまま気を失いその場に崩れ落ちた。


「エスカ!?」


「エスカさん!!」


 僕はエスカの魔法に気をとられて彼女の状態を確認するのを怠っていた。


「オルト君!回復薬!?いや回復魔法!?」


 シミリも突然の事に珍しく冷静さを失っていた。


「いや、これは魔法で治せるものじゃない!

 この症状は『魔力枯渇症候群』だ!

 治すにはこの『凝縮魔力液』を飲ませるしかないんだ」


「じゃあ早く飲ませてあげないと!」


「分かってるけど彼女は今、意識を失っているから直接飲ませる事が出来ないんだよ」


 その時、僕の脳裏にはある人命救助の方法が浮かんでいた。

 しかし、シミリの目の前でやることに躊躇(ちゅうちょ)していた。


「何か方法があるんでしょ?早くしなきゃエスカさんが!」


 その言葉に僕は覚悟を決めてエスカを抱えて薬を口に含んだ。


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