第43話【食料品は調味料チートでボロ儲け】
「良かったのですか?」
店を出てすぐにシミリが聞いてきた。
鑑定の件かと思ったがどうやら違うらしい。
「何が?」
「割り引きして貰えるプレートを提示しなかったので忘れたのかと思いまして・・・」
「はははは。あの展開では流石の僕でもあれ以上の値引きは罪悪感があるよ。
それに銀貨一枚は正当な価格設定だからそれ以上の値引き交渉は『正当な利益を得るのが商売』と言うスタンスから外れる事になるんじゃないかな?」
「そっそうですよね。
私ったら商人の基本中の基本を失念してたのね。
まだまだ未熟ですね。ごめんなさい」
「いや、いいんだよ。
今回のやり方はハッキリ言って反則的な交渉だったからね。
あの店主にはちょっと悪い事をしたかなと思ってるよ。
まあ、さっきの化粧品は夜にでも宿で調べてみるとして気を取り直して食料品の店を回ってみよう」
「そうですね。
カイザックからは主に小麦と塩が取引されているそうですから相手国は大きな穀倉地帯を持っていないか人口がかなり多くて食糧供給が追い付いていないかだと考えられますね。
そして逆にカイザックへは果物や保存加工食が多いみたいです。
遠国の料理屋も出店してるみたいですね。食べてみましょうか?」
シミリはそう言うと屋台料理の店に顔を出すと数種類の食べ物を少しずつ買い求めた。
「こう言うのはちょっとずつ味見をしていきたいですよね。
こっちの国の料理とどっちが美味しいですかね?」
シミリはそう言いながら買った料理を小分けして僕に半分渡してから自分の分を順に食べ始めた。
「うん。意外と美味しいですね。
もう少し香辛料が効いていればもっと味が締まると思いますけど香辛料は高いですからね。
ふんだんに使う訳にはいかないのでしょう」
シミリの評価を聞いて僕もそれぞれの料理を食べてみた。
(確かにシミリの言うとおり味に締まりが足りないようだ。
香辛料か、普通なら調合スキルで作るイメージだが調薬スキルでも出来そうな気がするんだよな。
ちょっと試してみるか)
僕は収納鞄から幾つかの薬草素材を取り出して鑑定スキルで調味料になりそうな物を選別して調薬スキルで調合してみた。
「何を作ってるんですか?もしかして香辛料ですか?」
シミリが興味深く僕の調薬調合を見つめながら聞いてきた。
「ああ、ちょっと調味料が作れないかなと思ってね。
香辛料は香りと辛さに特化した調味料だけど今試してるのは料理にかけるだけで旨味が数倍になる魔法の調味料なんだ。
とりあえず二つ程サンプルが出来たから試してみてよ」
「えっ?これが調味料ですか?
黄色いクリーム状のものと黒い液状のものですか?
どちらも見たことがないですが食べられるのですよね?」
(まあ、どんな物でも初めて食べるのは勇気がいるよな。
先に僕が食べて見せれば安心するかな?)
「そうだな。ちょうどそこの店に小麦粉と野菜を混ぜた焼き物があるだろ?
普通ならば塩をかけるか香辛料の類いをかけて食べるのだけど・・・。
とりあえずひとつ買ってきて貰えるかな?
実際に食べた方が分かりやすいからね」
「ええ、いいわよ。
店主、そのモージル焼きをひとつ貰えるかな」
「まいど!銅貨一枚だよ。
ありがとな!味付けは塩でいいかい?」
「あ、味付けはしないでいいです。
ちょっと試したい物があるそうなので・・・」
店主は首を傾げながらも味付けのしていないモージル焼きをシミリに渡してくれた。
「はい。買ってきましたよ。
味付けしなかったので店主さん首を傾げてましたね。
それでこれにその調味料とやらをかけて食べるのですか?」
「うん。まずこっちの黒い液体の“ソース”を塗ってからこっちの“マヨネーズ”をかける。
よし、こんなもんで良いだろう。
ちょっと先に僕が食べてみようか・・・うん。
旨い!大丈夫だったからシミリも食べてみてよ。
食べ慣れていない味だから合うかは分からないけど多分旨いと思うから」
「はっはい。じゃあ少しだけ・・・」
シミリはそう言うと恐る恐るモージル焼きを口に運んだ。
「!!!!!」
「どうだい?この味は口に合ったかい?」
「お、おいしい・・・です。
こんな味は初めてですがありふれたモージル焼きがこんなに美味しい料理になるなんてびっくりです!」
「そうか、それは良かった。
このふたつの調味料は焼いた小麦粉料理に合う味になってるからモージル焼き以外にも使える用途はたくさんあると思うよ」
「こんな物まで作れるなんて・・・。
オルト君はやっぱり凄いですね。
多分ですけど、これ一つで一財産を築く事も出来ると思いますよ」
「ははは。シミリそれは大袈裟だよ。
まあ、ちょっと人気が出たら売上が倍くらいになるかもしれないけれど、ひとつ銅貨一枚の食べ物を売ってるくらいじゃあ生活費を稼ぐので精一杯だろ?」
「いえ、売り方次第と言ってるんです。
何もわざわざ私達がモージル焼きを売らなくても調味料だけ店に卸せば後はその店主が稼いでくれますから私達は店主に調味料のプレゼンをして買って貰えれば良いのですよ」
「なるほど、そうだよな。ちょっとさっきの店主に掛け合ってみるか?」
僕はシミリの言葉を短絡的に捉えてすぐに行動に移した。




