第42話【市場散策と値切り交渉】
「さて、何処から見て回るかな。
ゴルドさんの商会にも顔を出しておきたいけど他国の商品も気になるよな」
「そうですね。どんな珍しいものがあるかドキドキしますね」
二人とも既に観光モードに入ってしまっている事には気がつかないで店先の商品を順に見て行った。
「なるほど、今はこんな物が主流なんですね。
あ、こっちも新しい物が並んでる」
シミリが熱心に見ていたのは化粧品だった。
(やはり女の子なんだな。
ああいった物は女性に人気があるから結構安定した商売になると思うんだよな。
そう言えば前に試しで作った物があったな。
後でシミリに見て貰おうかな)
「シミリ、気になる商品があったかい?試してみたい商品があったらどんどん言ってくれて大丈夫だよ?」
僕達の会話を聞いていた店主は僕達が観光で彼女の買い物に同行している彼氏と見てすかさず商品のアピールをしてきた。
「いらっしゃい。兄さん可愛い彼女だね。
彼女が見ている商品は私の国で一番売れている化粧品で何処に行っても品薄状態なんだよ。
私は今回カイザックの人達にも是非試して貰いたいと取引先に無理を言って在庫をかき集めて来たんだ。
だから今回買い損ねたら次はいつ頃入荷するか分からない商品なんだよ」
店主はそう言って積んである箱を指差してから続けた。
「この商品はあとこの箱分だけだから、全部で大体30個くらいかな。
多分、今日中には全部売り切れるんじゃないかな?買うなら今しかないよ。
確かに安い物じゃないけど、彼女にプレゼントしてみてはどうだい?
可愛い彼女がもっと可愛いくなる事間違い無しだよ」
(口の上手い商人だな。まあ、カップルの彼女を誉めて彼氏に買わせる手法は常套手段だからな)
シミリはじっくりと商品を見て説明文を読み、見本を少し手に付けてから匂いを嗅いでみて最後に僕の顔を見て言った。
「とりあえずこの化粧品は欲しいですね。
買ってもいいですか?」
「ああ、もちろんいいぞ。
そんなに良い商品だったのかい?それとも何か良いことを思い付いたのかい?」
シミリはにっこり笑うと僕の耳元でこっそりと囁いた。
「これは持って帰って成分分析をしたいのです。
私の勘になりますがお肌にとってあまり良くない成分が入っているはずです。
オルト君ならばもっと安全で効果の高い商品が作れるはずなので、化粧品のシェアを貰っちゃいましょう。
この国の品質レベルが低いからと粗悪品を持って来られても迷惑ですからね」
(あれ?使ってみたいから買う訳ではないのか。
確かに化粧品は嵩張らずに価格が高めで需要が見込めるから店舗を持たない僕達には向いているんだけど、それよりなんか商品の品質で怒ってるみたいだし。
ここは任せてみるか)
「分かったよ。他には何かないかい?」
「そうですね。このお店はいいですので次は食料品のお店を見てみたいですね」
「分かったよ。店主、この化粧品はいくらだい?あまり吹っ掛けないでくれよ。
この後の買い物が出来なくなるからね」
念のためぼったくりの牽制を入れておいてから交渉するのが僕のやり方だ。
「価格はひとつ銀貨三枚だが、いいのかい?
彼女へのプレゼントを値切る彼氏は懐が狭いと言われないかい?」
店主も牽制球を投げてきた。
暗に値引きはしないと言っているようだ。
「はははは。彼女はそんな事を気にするタイプじゃないよ。
むしろどれだけ商品の価値を見極められて交渉出来るかを僕に課してくる最高の彼女なんだ。
せっかくだからこの商品も本当の価値を見積もらせて貰うよ」
僕はそう言いながら化粧品を手にとってこっそりと鑑定スキルを使った。
【化粧品:肌に塗りつけるクリームタイプの化粧品。効能:****。素材:****。成分:****。注意事項:続けて使うと肌荒れが酷くなる事あり注意。原材料費:小銀貨二枚】
(シミリも指摘していたけどあまり良い素材を使っていないみたいだな。
原材料が小銀貨二枚の商品を銀貨三枚で売ろうとは舐めてるな。
製品化とここまでの輸送費で銀貨一枚が正当な価値かな)
「店主。なかなか吹っ掛けてくれるじゃないか。
この化粧品の原価は小銀貨二枚ってところで売り値相場は銀貨一枚ってところだろう?
観光客相手だと思ってボろうとしても僕には分かるんだよ」
「なっなぜそれが分かるんだ?あっ!」
正解を言い当てられた店主が盛大に自爆した。
「兄さんは鑑定士か何かかい?分かったから大きな声は出さないでくれ。
他の客に聞こえたらうちは大損害を出してしまう。
他には言わないと約束してくれるなら銀貨一枚に値引きする。
どうだい?頼むよ」
(まあ、この店主も商売だ。
価値を知らない者から相応の対価を得るためにわざわざカイザックまで来たんだから邪魔するのも悪いだろう。
・・・但し、今だけだけどね)
「分かった、交渉成立だな。
それじゃあ代金銀貨一枚だ。
ありがとう、約束は守るよ」
「あっああ。約束だぜ」
僕達は焦りまくる店主に一応の礼を言ってから次の店を探して散策を続けた。




