第39話【何故かお兄ちゃんと呼ばれた】
「追加報酬か・・・。
普通ならば魅力的なのだが相手が領主で既に金貨100枚受け取っているから何を提示されてもあまりいいこと無い気がするんだよな。
シミリはどう思う?」
「普通に考えてオルト君との個人的な繋がりを作っておきたいって所かと思いますけど、セーラ嬢がお礼を言いたいと言うのも理由のひとつかと思います」
「うーん。まあ、そうなのかな?
あまり気は進まない気がするけれどセーラ嬢の様子は気になるから少しだけ顔を見せてやるか」
「はい、そうですね。
私もご一緒してよろしいのですか?
特にやることは無いと思いますが何かの交渉があった時には意見のひとつも言えるかと思います」
「そうだな。そうしてくれるとありがたいな」
そんな事を話ながら僕とシミリは領主邸までの道を散策しながらゆっくりと歩いて行った。
* * *
少々お待ちください。
今、係りの者を呼んでおりますので。
領主邸で通行証を提示した僕達は案内の者が来るまで門兵と話していた。
「クロイス様は最近領主になられたと聞いたのですが先代が無くなられたのですか?」
「いや、まだ健在なのだが病気を患ってしまい思うように領地経営が出来なくなった為に長男であるクロイス様に家督を譲ったのだ。
先代も頭の切れる方だったがクロイス様も先代に劣らず新しい事に興味を持たれて繁栄されてきたんだ。
お嬢様が病気になられてからは領地内の治療師達を招いては治癒が上手く行かずに荒れる日があったのだが先日ついにお嬢様の治療が成功して前の優しいクロイス様が戻ってこられた。
ありがたい事だ」
そんな話しをしていると執事が僕達を迎えに来たので門兵にお礼を言って屋敷に入った。
「こちらでお待ちください」
応接室に通された僕達は例のごとくメイドに出された紅茶を飲みながらクロイスが現れるまでゆっくりして待った。
「待たせたな、二人とも良く来てくれた。しかし、領主邸に来ても緊張するでもなく普段通りに紅茶が飲めるとは肝がすわっていると言うか何も考えててないと言うか。
ある意味大物だな」
クロイスは苦笑いをしながら僕達の前に座りメイドが出した紅茶を一口飲んだ。
「今日来て貰ったのは他でもない娘の事だ。あれから娘は見える事が嬉しくて庭を散歩して花や生き物を見たり、本を読んで泣いたり笑ったりとこの二年間の苦しみが嘘のように明るく元気になった。
本当に感謝している。
今日はまず、娘に会って経過を診て欲しいのだ。言われた点眼薬はきちんとさしているので問題ないと思われるがやはり親として心配なのだよ」
クロイスは控えていた執事にセーラ嬢を呼ぶように指示してから言葉を続けた。
「それとギルドには君達に追加の報酬があると伝えてあったが既に金貨100枚を渡された者に更に金貨を渡すなどあまり意味がないことは分かっている。
なので、こういった物を用意してみたので確認してみてくれ」
クロイスはそう言うと机に一枚のプレートを置いた。
大きさもステータスプレートやギルドカードと同じで何やら魔法処理がされているらしかった。
「これは“特化型特殊許可プレート”と言って領主が発行する特殊許可書でその領主が治めている地域でのみ効力を発揮するものだ。
このプレートの特殊許可は調薬についての許可になる。
このプレートを冒険者ギルドで提示すればその時に必要な薬草等の素材を優先的に手配して貰える。
そして商人ギルドで提示すれば調薬した薬の優先登録及び販売許可が領主の許可不要で認められるものだ」
「そうですか。なるほど便利ですね」
(ん?もっと喜ぶかと思ったがそうでもなかったな・・・。
何処かに良い仕入れのルートでも持ってるのか?)
「後はたいした事は無いが宿屋で割引が受けられるとか領地内であれば街の出入りに税金がかからない程度なんだが・・・」
「それ!本当ですか!?全然大したことないって凄いお得じゃないですか!?」
「そっそうか?」
(妙な所に食いついたな。
金貨100枚あれば少々の出費など無いに等しいと思うが・・・)
クロイスはオルト達の欲しがる基準が理解出来なかったがとりあえず機嫌が良いようなのでほっとしていた。
その時、執事がセーラを連れて部屋に入ってきた。
「歓談中失礼致します。セーラお嬢様をお連れしました」
「おお、セーラよく来たな。
目の調子はどうだ?見えにくいとか痛みがあるとかはないか?」
「はい、お父様。セーラは大丈夫ですわ。
良く見えるし、痛みもありません」
セーラは部屋に入って来た時にクロイスから声をかけられてそれに応えた。
その時クロイスの前に座るオルトを見ると満面の笑みを浮かべて小走りに駆け寄り盛大に抱きついた。
「お兄ちゃん!」
いきなりのセーラの行動に僕は完全に固まってしまっていた。
抱きしめる訳にもいかず、突き放す訳にもいかず手が宙をバタバタしていた。
「なっなっなん・・・何でしょうか?お嬢様・・ 」
パニックになっていた僕はそう言うのが精一杯だった。




