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第36話【セーラ嬢の治療と祈り】

「この部屋で待機しておいてくれたまえ。

 先に娘に説明をしておくからな」


 僕達は案内された応接間でメイドが入れてくれた紅茶を飲みながらこれからの治療方法をシミリと打ち合わせしていた。


「建前上シミリがお嬢さんとの直接会話を担当することになる。

 質問内容はこの紙に書いてあるから語尾を優しい言葉に変えて聞いてやって欲しい。

 僕は挨拶だけしたら直ぐに病気の鑑定に入るからシミリはお嬢さんの気持ちを落ち着けてからゆっくりと質問に入ってくれるかな?」


「分かったわ。そうしてみるわ」


 ふたりの打ち合わせが終わった頃に領主が部屋に入ってきて僕達に伝えた。


「娘には治療の為に薬師と助手が来ると伝えたからそれで頼む」


「分かりました。それではお嬢さんとの面会をお願いします」


 クロイスは頷くと僕達をある部屋に連れて行った。

 ドアの前に着くとドアをノックしてから「セーラ入るぞ」と声をかけてドアを開けた。

 そこに居たのはベッドから上半身起き上がった状態で僕達を待つ少女の姿があった。

 盲目のためにベッドに横になる事が多いためか腰まで伸ばしたストレートの見事な銀髪は艶が無くなっており表情も子供らしさが抜け落ちた感じで儚げな印象を受けた。

 問題の眼は開いているにも関わらず焦点が合っていない様子であり、そもそも光を有していなかった。


「初めまして、治療を担当致します薬師のオルトと申します。

 そしてあなたに質問等させて頂くのが助手のシミリになります。

 これから幾つか彼女の質問に答えて貰いますが分からない事や答えたくない事がありましたらそう答えて下さい。

 答えられない事によってあなたが不利益を受けることは絶対にありませんので安心して下さい。

 それではシミリ後はお願いするよ」


 僕は質問のバトンをシミリに渡すと少女の眼を身体探索(ボディサーチ)で鑑定した。

 当初の予測通りの結果が頭の中に巡った為、先に準備していた薬品を鞄から取り出してシミリの質問が終わるのを待った。


「以上で質問は終わります。ありがとうございました。

 セーラさん苦しいとかの症状はありませんか?この後、幾つかの手順にそって服薬や点眼等の治療を行いますがよろしいですか?」


 シミリがセーラに治療の話をすると彼女がぽつりと言った。


「本当に私の眼は治るの?もう暗い世界は嫌だよ・・・」


 それが彼女の全ての感情なのだろう。

こんな少女の運命を無知な薬師や治癒魔法師の為に辛いものにしておく医療レベルの低さに僕は腹が立って仕方なかった。

 領主の言動に一時は治療を放棄する判断をしたが少女に会ってみてそんな些細な事など吹き飛んでいた。

 とにかく少女の眼を治してやりたい、そんな思いだけがそこにあった。


「セーラさん。失明してから約2年間辛かったでしょう。

 よく頑張りましたね、もう心配はいりません。

 僕が必ず君の眼を治してあげるよ。

 クロイス様、当初の予測どおりお嬢さんの病気、いえ傷害は無光鏡裂傷で間違いありません。

 ですので先に説明した通りの手順で治療をさせて頂きますので宜しくお願いします」


「分かった。宜しく頼むぞ」


「では、まずこの部屋の明かりを半減させて・・・」


 僕は当初予定していた手順でシミリから薬品を受け取りながら少女に治療を施していった。

 少女は僕の言葉に小さく頷きながら指示にしたがって治療を受けていった。

 祈るような表情をしながら・・・。


「これで今日の治療は終わります。

 この後包帯を外しますのでゆっくりと目を開けてください。

 まだ部屋の明かりは暗くしてますのでぼんやりとしか見えないかもしれませんが落ち着いて目の前にある灯りをじっと見ていてください」


 僕がそう言うとシミリが少女の包帯をゆっくりと外していった。

 皆が見守る中、少女は目をギュツとつむったままだったが僕の合図で恐々だが目を開いていった。


「目の前の光が分かりますか?」


 僕が優しく問いかけると少女が涙ながらにはっきりと答えた。


「ぼんやりとだけど光が見えます。

 真っ暗だった私の世界に光が見えます」


「分かりました。では一度目を閉じてください。

 最後におまじないをかけますので」


 言われるままに少女が目を閉じて僕の言葉を待つ。


「類いなる素質を持ちながら不運の壁を長きに渡り耐えた勇敢なる少女に幸福の日々と光りある世界への翼を与えん。

 『エクストラヒール』」


 少女が光を感じた時点でほぼ完治しているのはわかっていたが2年にも渡る闘病生活で衰えた身体機能の回復をするためにエクストラヒールをかけておいた。

 先に魔力暴走の制御薬は投与してあるためエクストラヒールでぶり返すことはない。


「それでは部屋に日の光を入れてから目を開けてみましょう。

 大丈夫ですよ必ず治ってますから」


 少女は僕の言葉に意を決して目を開けた。


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