表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/120

第29話【想像以上の事態と対応する創造力】

 そこに居たのは軽症の傷を負った商人だけでは無かった。

 恐らく護衛の任務で獣と戦ったであろう男女3名がベッドに横たわっていた。

 皆、手足だけでなく顔や背中など何ヵ所も獣の爪痕が切り裂いていた。


「この人達は?」


 確か僕達が聞いたのは“商人が怪我をしているので薬を試して欲しい”だったと思うが、確かに商人は怪我をしているが軽症に見える。

 それよりも護衛らしき3名の傷が痛々しく目に入ってくる。


(なんか話が違うと感じるのは僕だけなのか?)


 隣で青い顔をしているシミリを見るとやはり僕の感覚がおかしいのではないと確信に変わった。


「君の考えているであろうとおり護衛だった人達だ。

 彼らは商人の馬車を守るために多くの獣達に立ち向かい撃退するも大怪我をおってしまった。

 しかし、この街の薬剤レベルではとても手に負える傷ではない事は承知だ。

 君達を騙すような言い方をした事は謝罪するが、あの多くの人々が聞いている場所では重傷者に薬を試すとは言えなかったのだよ。

 薬が効けば良いが効かなければ君達の薬は使えないとの噂がたつ可能性があるからだ」


(なるほど、ラックの言い分は理解出来る。現存の薬では治る見込みのない怪我人に新薬を試すとはあまりにも実験的で批判を受ける可能性は十分にあっただろう)


 僕は軽症の商人をシミリに任せて重傷の護衛達の傷を見てから解決策を考えた。


(正直、魔法を使えば完治は可能だけど人前で出来るだけ魔法は騒ぎになるから使いたくないし、薬も今回用意したものでは傷口は塞がるかも知れないが完治は厳しいだろう。

 さてどうするかな・・・)


 考え込む僕にやはり無理かと諦めの表情でラックが依頼の取り下げを申し出ようとした時、僕は言った。


「すみません。今の手持ちの薬ではこの傷は完治出来そうにありません」


「やはりそうか。いや済まない、もとより無理は承知で頼んだのだからな」


「いえ、この薬では難しいと言っただけですよ。

 今からこの傷に最適の薬を調合しますので少々時間と調合する部屋をお貸し下さい。

 それと平行して、今あるこの傷薬を傷口に塗り込んでおいて下さい。

 僅かではありますが生命維持に役立つでしょう」


「なっ!?今、この場で薬を調合すると言うのか?

 本当にこの怪我が治せる薬が出来ると言うのか?」


 ラックだけでなく手当てを受けていた商人までもが驚きに声をあげた。


「もし、その話が本当ならば彼らを助けてくれ!彼らは護衛の職務とはいえ私を守る為に精一杯の働きをした。

 結果、私は軽症を負ったとはいえ無事に街にたどり着く事が出来たんだ。

 金は出す!頼む!」


「しかと承りました。

 すみませんが部屋の準備をお願いします。

 あと、申し訳ありませんが調合の立ち会いはご遠慮させて下さい。

 師の秘伝である調合方法は極秘ですので・・・」


「あ、ああ。わかった。

 この部屋の隣を使うといい。

 ドアがあるから閉めれば他からは見られないだろう。

 それで時間はどのくらいかかる?」


「半刻ほど頂きたいと思います。

 シミリ調合を手伝ってくれ。

 怪我人への薬の方は任せて大丈夫ですか?」


「わかった。よろしく頼む」


 僕達は用意された部屋に移動するとドアを閉めて念のために防音魔法で部屋をコーティングしてからこれからの手順を話しあった。


「オルト君。本当にあの重傷患者に効く薬を作るつもりなのですか?」


「どうしてだい?あの傷はメンタムのヒール効果だけでは完治出来ないよ?」


「それは分かっています。

 でもラックさんは言いましたよね?“この街の薬剤レベルでは完治出来ない”と。

 それを簡単に治してしまったらそれこそギルドや有力者に目をつけられてしまうのではないですか?」


「うん、やっぱりシミリは頭が良いな。

 それはもちろん僕も分かってるよ。

 だから一瞬で完治する薬ではなくてじわじわと治るタイプの薬を作ろうと考えてるんだ。

 魔法で言ったら“リジェネ”だな」


「リジェネ?何ですかそれは?」


「あはは。そうだよね。

 リジェネと言われても分かる訳がないよね。ゴメンゴメン。

 簡単に説明すると“少しずつだけど継続して回復魔法がかかっている状態”なんだ。

 効果の低い回復魔法でも継続してかければ自分の治癒力の底上げを促して完治するって仕組みだよ。

 毒とかになってない限りかなり有効な手段だと思ってるよ」


「まだ完全には理解出来てないけど大体分かったわ。

 ようするに魔法だけで治すのではなくて自分の治癒力を後押しする魔法をかけるという事でいいのよね?」


「うん。その認識で良いと思うよ。

 本当にシミリは理解が早くて助かるよ。

 それじゃあ薬を作るね。

 魔道具創造(アイテムクリエイター)


 そうして薬を作った僕はシミリと皆の待つ部屋に向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ