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理想郷には遥か遠く  作者: 小犬
第一章 瓦解する世界と泉の少女
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第二十七話 異常というにはささやかな


 二体のゴブリンを倒した後も何度かスライムやゴブリンと戦闘になったがリザとの連携により特に苦戦することはなかった。

 疲労もそれほどではない。

 オーガとの戦闘を考えても問題はないように思う。



 見たところリザも無理をしているようには見えないし、このまま順調にいけば何事もなくまた小屋で夕食を食べることが出来るはずだ。



 そんなことをオーガの生息地まで歩いている最中ずっと考えていた。

 しかしなんだろう。

 無視できないほどの嫌な予感がいくら歩いても消えないこの感覚。



 レベルも経験も間違いなく高まっている。

 探索への積極性はさておき小屋を出てしまった日には真剣に取り組むと心に決めている。

 いくら此処を出ることを望まなくても命の危険がある森の中を適当に進むわけにはいかないからだ。



 ではこの予感は一体何処から?



 リザの案内に耳を傾けながらしきりにそれを考えていた。

 だからこんなにも早く感じたのだろうか。



 「陽太君、そこ……」


 「えっ……? まさかもう着いたのか……!?」



 後ろにいるリザが俺の服の袖を引き、小さな声で囁いた。

 声は隠し切れずに戸惑いを孕んでいる。



 それもそのはず。

 だらしなく出た腹に鮮やかな赤色の体色。

 目玉は一つでくすんだ白の年季を感じさせる角が一本。

 それらの特徴を備えたとあるモンスター。



 正面の開けた土地でちらちらと辺りの様子を窺うオーガの存在にリザより前にいるはずの俺が気付いていなかったのだから。



 オーガがまだこちらに気付いていないのは本当に幸いであった。



 「大丈夫なんですか陽太君? やっぱり体調が悪いのであれば引き返しても――」


 「違うんだ、ただ考え事をしていただけだから。 それよりこいつも多分……」


 「はい。 他のモンスターと同じで()()()()()()()()()()()()()()()


 「やっぱりそうか」



 たとえ考え事をするとしてもオーガの生息地に近付けば嫌でも意識は探索に集中する。

 だとすればどうしてこんな目の前に来るまで俺が気が付かなかったのか。

 その理由こそ正に今ここにオーガが現れたことにある。



 オーガも道中のゴブリンたちのようにいつも遭遇する場所より前で現れたのだ。

 それがゴブリンたちだけならまだしもこう繰り返しだと異常に思えてしまう。



 単に自分たちの調べ方が悪かったのか?

 本当はオーガの生息地はもっと小屋寄りだったのか?



 そういった可能性が排除できないわけではないが俺もリザもしっかりと準備や作戦を立てたうえでこの場に臨んでいる。

 今まで交戦したことがないモンスターなのだから当然だ。

 そうなると偶然だと割り切ってしまっても良いような気もしていた。



 それに、冷静に考えてみれば……。



 「リザ。 オーガのいる位置が予想とずれていたとして、他に問題ってあると思うか?」


 「そうですね……特に問題はないように思えます」


 「だよな」



 さっきから感じていた嫌な予感がこれなんだとして実際どう問題があるのだろう。



 これから戦うことになるのは予定通りオーガなのであって、そのオーガ自体に何か変化があるようには見えない。

 これがめちゃくちゃにパワーアップしたオーガで体色も体型も違うとなれば話は別だろうが、見たところそのような変化は見受けられない。

 ただ突然現れて面食らったというだけで先手を取られたというわけでもないのだ。



 「オーガのレベルは30ちょうどです。 いつも通りのやり方で戦うことが出来ればきっと……!」



 目を凝らしたリザは俺に聞かれるより先にオーガのレベルを覗いていたようだ。

 本当に頼りになるパートナーである。



 オーガのレベルが報告通り30レベルだったのであればリザがレベルを吸って実質15レベル。

 そして吸われた15レベルはリザへと移りリザはこの戦闘中16レベルになるということで。

 予定通りこの戦いでリザは――。



 「作戦通りです。 いけますよ陽太君」



 考えていたことは一緒だったのかリザは自信に溢れた強い眼差しでこちらを見やる。

 その自信を曇らせるわけにもいかない。



 「あぁ。 でも油断するなよリザ――くそ弱い俺が言えたもんでもないけど」


 「もうっ……! 戦う前にそんなに卑屈にならないでください……!」



 言っててお前が言うなよと恥ずかしくなったので茶化すとリザに小声で叱られてしまう。

 が、それが案外心地よかった。



 リザになら叱られるのも悪くないかもしれない、と変な趣味に目覚めそうになる前に俺は逃れるようにリザへ目配せをする。

 未だに何かを探しているのかキョロキョロと周りを見回しているオーガに対し先制でレベル吸収を使う合図だ。



 「行くぞ!」


 「レベル吸収!」



 茂みで隠れていた俺たちはオーガが背を向けた格好のタイミングで飛び出した。

 瞬間、物音に驚いたオーガは体ごとぐるりとこちらを振り返ったが、時既に遅し。



 「グぎッ!?」



 一瞬怯えたような眼をしたオーガのことが気にかかるが既にリザのスキルは発動している。



 すぐにオーガから抜け出したピンク色のオーブはリザのもとへと吸われていき、そのまま身体へと溶け込んでいった。

 突然の出来事にオーガは抵抗する術を持たない。



 「グゴアアアアア!!」



 森中に響くほどの野太い叫び声が空気中を満たす。

 急に現れたよくわからない相手に力を吸われたことに怒っているのか先程の怯えた目つきからは一転、オーガはどしんどしんと激しく足踏みをして感情を露わにしている。



 だがそれに構ってやる暇はない。

 俺たちには確認しなければならないことがあった。



 「リザ、どうだ!?」


 「はい! 成功です! これで私も支援できます!」



 レベル16になったリザの力。

 レベルが10を超えたことで魔法を行使できるようになったリザの力を。


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