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理想郷には遥か遠く  作者: 小犬
第一章 瓦解する世界と泉の少女
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第十四話 右手の違和感


 ゴブリンに追いかけ回された翌日。

 俺とリザは居間で反省会及び作戦会議を行っていた。



 内容は当然あのゴブリンとどう戦っていくのかという話だ。



 レベル2や3のスライムとばかり闘っていた俺にとってレベル8のゴブリンというのはかなりステップアップした敵といえる。

 無計画で挑むには分が悪い敵だったというわけだ。



 そういうわけで俺はリザにある戦い方というのを提案している。

 その戦い方というのが、



 「つまり……私がレベル吸収(ドレイン)を使ってレベルが4まで落ちたゴブリンを陽太くんが倒すと。 そういうわけですね?」


 「はい。 すっごくシンプルな作戦ですし女性であるリザさんを戦いに巻き込むのは忍びないですが、現状スキルの使えない俺よりも実力は上でしょうから」


 「それは確かに……」



 自分で言っておいてなんだが確かに……と言われてしまうのは割と辛いものがあるな。

 だが無能な俺に対してリザのスキルは本当に頼りになる。

 レベルが上がらないというデメリットを含めても十分に強いと言える。



 ではこの作戦でレベル差を埋められれば俺でも確実に勝てるのか、というと実はそうとも言い切れない。

 俺はリザにあることを確認する。



 「流石にスキルによって1レベル上回っている俺が負けるというのはないでしょう……と言いたいところなんですが一つ聞いてもいいですか?」


 「なんでしょうか?」


 「例えばレベル1の俺とレベル1の熊がいたとして――」


 「クマ……ですか?」


 「あー、熊はこの世界にいないのか。 だったらそうだな……ドラゴンとか」


 「レベル1の陽太くんとレベル1のドラゴン――なるほど。 おっしゃいたいことがわかりました!」


 「話が早いですね」



 俺の意図を汲んでくれたらしいリザが嬉しそうにこちらを見る。

 こうした姿にもしかしなくともリザは昔から礼儀正しい善良な子だったのではないかと考えることがある。



 そう感じさせる一つの要因がこれ。

 人と目を合わせて話すということだ。



 いつだってリザは俺と目を離すことなく喋ってくれる。

 その綺麗な眼差しに慣れない俺は未だにこうして目を逸らしてしまうのだが、その実直さは今は失くしてしまった過去の記憶の残滓とも言えるんじゃないかと、そういうことを時折思う。



 「レベルというのは種族が違っていたとしても等しく個体としての力を表す指標になっています。 ですから基本的にドラゴンというのはレベル1で生まれてくることはありません。 生まれたてのドラゴンでも人間よりは強いですから、大体50レベルとかで生まれてきますね」



 リザの瞳に思考が此処ではない何処かへ向かいかけている最中、先程の俺の問いにリザが答えてくれた。

 厳密には俺が問わずともリザが勝手に理解してくれて説明してくれているわけだが。



 「ということは人も生まれた時からレベルは1じゃなかったりするんですか?」


 「人によっては稀に2だったりすることはありますが3は聞いたことがあまりないですね」



 ということらしい。

 今回の作戦で俺が気になっていたのは要は個体値の有無だ。

 簡単な話、さっきの例えと同じでレベル1の人間とレベル1のドラゴンとでは実力は同じなのかという疑問。



 もし同じレベル1にも力の差が存在するのなら俺がめちゃくちゃレベルを上げて100レベルになったとしても俺自身の個体値が低いという理由でレベル1のドラゴンにさえ負けてしまうということが有り得る。



 つまり今回のようにレベル吸収によってレベル4にまで弱体化したゴブリンにレベル5の俺がぼこぼこにされる可能性があったのだ。



 しかしリザの話を聞くにレベルは種族とは関係なしに共通の指標であるという。

 ということは俺がゴブリンに大敗を喫するという展開は考えにくいと言えるわけだ。



 だがそれを聞いたからこそ俺には拭いきれぬ疑問が残ってしまった。



 それはなんなのか。

 簡単なことだ。

 それは卑劣なゴブリンに拳を振るった時のこと。



 力いっぱい顔面に打ち込んだはずのパンチ。

 それでも拳を受けたゴブリンは何が起きたのかわからないとでも言いたげな顔でこちらを見ていた。



 レベル差を考えればそんなこともあるんじゃないかと感じる者もいるかもしれない。

 だけど俺は本当に全力で殴ったはずなのだ。

 しかしぼすっという音だけで見るからにゴブリンにダメージはなかった。

 たった3レベルしか違わないはずなのに少しも痛みを感じないなんてことあるのだろうか?



 そこで考えたのが個体としての違いだ。

 人間という種族としてのレベル5とゴブリンとしてのレベル5.

 それ自体に開きがあるのなら今回のようなこともあり得たのだろう。



 だがリザはそういった差はないと言った。

 レベルというのは種族全体の指標だと。



 であればやはりたった3レベルの差がそこまで大きなものだったということなのだろうか?

 たった3レベル違うだけで全力のパンチはあれほどまでに無力になってしまうものなのだろうか?



 右の拳を見る。

 この世界に来た時から感じていた馬鹿馬鹿しい違和感。

 それが今になって心にわだかまりを作る。



 右手を閉じて、開いて、自分の思い通りに動いていることを確認する。

 これまで大きな怪我一つしなかった綺麗な手のはずだ。



 それなのにどうして何ともないことに違和感を感じているのだろう。

 どうしてただ普通に動く右手に疑問を抱くのだろう。



 わからない。



 だけど昨日ゴブリンに振るったはずの拳に力が入っていなかっただけだったら、疑問は解決する。

 誰かを殴ることに抵抗があったのか、単にゴブリンの見た目にビビっていただけなのか。



 特に根拠もないがどちらも違う気がしていた。

 これは多分、気持ちの問題だ。



 リザと話し合った結果ゴブリン退治の決行は明日。

 果たして俺はまともに戦えるのだろうか。


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