2 :ビート
中年の返り血で色が変わってしまった服を着て家まで歩く。
服がこすれるたびに何の物質かわからないが粉のようなものが零れ落ちる。
水分を帯びた血は歩いて帰る帰路の途中で固まり、より一層異質なにおいを醸し出している。
メトロノームのように足を一歩一歩規則的に動かすが心は複雑に動き続けている。
俺が逆の立場だったら――。
意味のないことを繰り返し思考する。結局行きつくのは自責でだ。
奴には家族がいると言っていた。中年の存在を何故か自分に置き換えて想像してしまう。
侵入者を殺してしまうといつもこういう気持ちにかられる。
そして、聞く必要もないのに侵入した理由を問いただしてしまう。
――探しているのだ。悪魔のような動機を。
むしゃくしゃしてやった、死にたかった、そんな言葉を聞きたいからだ。
むしゃくしゃしてやったというならば、ふざけるな死ねと。
死にたかったというならば、一人で死ねと。
心の底から憎み続け、何の気なしに命を絶たせることができる。
だがそんな奴は一人も見たことはない。
それに敵の動機はいつも自分以外だ。家族、恋人、仲間、温かい環境を守るために戦っている。
侵入者を殺すと、その繋がっている人たちの人生までも殺めている気がしてならない。
たとえ侵入者が俺らの仲間を何人も殺めていたとしても。
温いと言われてしまえばその通りだ。自業自得であるし、むしろ当然だという考えも理解ができる。
この世界にはあらかじめ幸福の容量が決まっているのだろうか。俺たちが生きるためには動物を殺し、植物を殺したうえで、更に火で焼いたり、水に浸したり、太陽にさらしたりもする。だがそうしないと生きることができない。
鳥を生で食べれば最後の悪あがきのように自身の命にくちばしを突き立てるし、熟知しない植物を食べればあっさりと死んでしまったりする。
他の者の幸せを奪い、かみ砕き、自身の者とする。その幸せしか得ることができないかのように。
俺はこれからまたこの村を守るために人を殺せばいいのだろうか?
先が見えない地獄の続きを延々と見せられているような錯覚に陥った。
「お“え”ぇ」
えづいてしまう。中年を殺した非日常感から解放され、胃の中に収容されている酸を林にぶちまける。
予想以上に精神が侵食されている。
「おい!グレンが吐いてんぞ!しかもなんだその血!あのクソどものか!?」
街の仲間が俺を目撃した。やっぱり俺より勇敢だ。何度街や人間を滅せられてもめげずに立ち直し、励ましあってきたこいつらは俺の生きる教えだ。
「うん、大丈夫、それより街の人数をもう一回調べなおしてって上に言っておいてくれないか?少し休みたい」
「あぁ、任せろ。お前、その服じゃ嫁さんにびっくりされちまうしなにより嫁さんの気遣いがパーになっちまうぞ。俺の服貸してやるから、ちょっと待ってろ」
友人は急いで自分の家へ駆けこむ。自分のことより大事なように。抉られた心に染み込む友人の優しさは、やはり俺の感情を強く締め付けた。
言い遅れた、今の友人の名前はビート。身に着けたTシャツは彼の筋肉によって押されるほどの容量を携えている。荒々しい顔立ちをしているが、聡明で人の心を先読みしたような行動をとる。ギャップが強く、気を抜いてしまうと男でありながら惚れそうになってしまう。
だがビートには妻がいない。だが俺は彼に限ってはそれでも良いと思える。彼はみんなの複雑な感情を理解して行動してしまっていて、それが彼をこう判断させたのかもしれない。
『ただのいい奴』
飲みの席では必ず呼ばれ、コンパでも合コンでも人数が空いていなかったとしても呼ばれる良い奴だ。
しかし恋人ができない。みんな理解しているんだ。こいつはどこまでいっても人のために生きているんだって、そんな貴重で大事な人間を果たして一人で奪ってしまっていいのか――と。
「とってきたぞーグレン、お疲れ様だ」
「うおっ、ありがと、ほんと助かるよ・・・」
「お互い様だろうが、気にすんな。さっさと嫁さんのとこまで行って安心させてやれ」
ビートは俺の心身共にある疲れを案じる。惚れそう。
もうとっくに落ちてるのかもしれないけど。
「あぁ、わかってるさ」
元気をくれたせいか、俺は足取りが早くなっていた。
早めに更新したいと思います。




