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ありふれた話の外側のお話2

とびっきり美人なランチ仲間ができました。








シュン君との関係を問いただすべく、声をかけたあの日、

なぜか私はちゃっかり片瀬さんとメアドを交換したのだった。

しかも、何を思ったのかメアド交換を切り出してきたのは片瀬さんの方だった。

頭の良い人の考えていることは分からないとよく言うが、

今の私にとってみれば、美人な人の考えることの方が分からないのだった。

「松野さんはお弁当?」

「うん、実家暮らしだから」

もうすっかりタメ語も慣れたものだ。

美人に対してやたらと緊張する人間だったが、こうも変わった美人だと

逆に普通の人以上に接しやすいというものだ。

「片瀬さん、はラーメン?」

美人にラーメン、想像しにくいが現実目の前にある。

今日の片瀬さんは綺麗めなOLさん風ないでたちで、

レモン色のキャミにカーディガン、白い膝少し上のひらっとしたスカートを着ている。

胸元にはシルバーのネックレスが女の子らしさを強調しており、

そんなエビちゃん系女子大生はお洒落なパスタという勝手な想像があったが、

ものも見事にハンマーで叩き崩された。

「好きだけど、だめ?」

「滅相もない」

むしろ、親近感がわくものですと一人で納得していると

「やっぱり松野さんって面白いのね」

といって、豚骨ラーメンを啜った。

ちょぼちょぼと蓮華にとって食べるものかと思っていたら、

意外にも男らしい食べっぷりだった。

そんな片瀬さんの方がよっぽど面白いっていうか変わってますよと、

から揚げをほおばりながら内心思った。

「片瀬さんは1人暮らし」

「そうよ」

「ご飯はどうしてるの?」

「シュンが作ってくれるの、あの子器用だから」

話を聞いている限りでは明らかにカップルなのだが、

彼女自身から仕入れた情報を統合させるとやっぱり幼馴染なのかなと

しぶしぶ認めざるを得ないような気もしないではなかった。

「今度来る?」

「え」

「3人で話してみたいなって」

なんて恐れ多い申し出だろうか、断るはずもなく首を縦に振った。



「あれタカちゃんに、え、ユリ?」

振り向くと私の意中の人、シュン君が同じクラスの人たちと立っていた。

今日はオニイ系の格好らしく、長身のシュン君にとても似合っている。

やっぱりカッコいいなぁと思っている目の前のシュン君は動揺しているようだった。

「珍しい組み合わせ、だよね」

「ごもっともです」

以前の私もそうなのであったが、多分片瀬さんとシュン君が知り合いなのを知っている人は

ごく限られているのではないだろうか。

しかも言ったとしても身近にいる、たとえばシュン君の後ろに立っている人たちだけだろう。

少なくとも女の子には言える関係ではないはずだ。

そんな人間が片瀬さんと一緒にいればそれは驚くだろうと、

大して回転の速いわけではない私には珍しく、瞬時に現状を思い巡らした。

「私がナンパしたの」

「は?」

「可愛いなぁって思ったから」

何をおっしゃるんだろうと視線を片瀬さんの方に戻すと、

悪戯が3度の飯より大好き、くらいな笑顔を浮かべていた。

「あのなぁ」

呆れたように溜息をつく彼がいつもと違って、

全然、ジェントルマンとかいう風でもなくこっちが地なのかと思ったが、

それはそれでカッコいいなぁと我ながら呆れるほど能天気だった。




先にご飯を買いに行った他の男の子たちがシュン君の名前を呼ぶ。

「今行くー」

と返事すると、片瀬さんの方に振り向いて「じゃ、また連絡して」と短い言葉に

分かったと小さく微笑む片瀬さんがまた綺麗だった。

まさに目の保養といった風景だった。

「タカちゃんも、今晩」

と言って手を振ってたちさって行く。

私は振り替えしながら、今晩にクラスの飲み会があることを思い出した。

(根掘り葉掘り聞いてしまうんだろうな)













部屋を出たシュン君を追いかけると、

飲み屋の近くにある自販機から煙草を取り出そうとしているのを見付けた。

「あのー」

恐る恐る声をかけると、あれ、っとシュン君はいつも通りのリアクションをした。

「どうしたの?」

「いや、ちょっとお話をしようかと」

率先して話をふるタイプでない私から、

シュン君のようなクラスの中心グループの人に声をかけることは滅多にない。

世間的にもそういった認識がもたれており、シュン君も同様だったらしく

少し驚いたような表情をしたが、昼間の片瀬さんとのことをすぐに思い出したのか

皮肉とも呆れともつかないような笑いを口の端に浮かべて、

「じゃ、コンビニ行く?俺も聞きたいことあるし」

と、私を歓楽街の中でやたらと蛍光灯の眩しいコンビニエンスストアの方向へうながした。

歩き煙草をあまり好ましく思ってないための行動だろう、

吸おうと手に持っていた煙草をさっと箱の中にしまうのを見て、

感動のあまり拍手をすると「高校の時にユリに怒られたから」と言って小さく笑った。

シュン君が煙草を吸うのは元々知っていたし、その姿は大学内で何度も見たことがある。

しかしながら、彼が喫煙所以外で煙草を吸っているのを見たことがないし、

女の子の同席するような飲み会で、灰皿が有ってもわざわざ外に行って吸っている。

煙草があまり好きでない女の子を何気なく気を遣っているのだ。

昼間、片瀬さんが「シュンは結構紳士なのよ」と笑いながら言ったのを思い出した。





「ユリとは知り合い?」

「知り合いといえば知り合いだし」

私はわけもなくペットボトルの中でシュワシュワと弾ける炭酸の泡が

上昇しては消えていくのを目で追った。

特に炭酸飲料が飲みたかったという程でもないが、

コンビニにきた手前なにか買うのが一般的な流れであり、

そんな建前以上に、色々な理由と緊張のせいで目を見て話せる自信が全くなかった。

どんな些細なものでも良いから視線をそらせるものをといって選んだのがそれで、

全くもって自分の小心さには情けなさがこみ上げる。

「いつから?」

「昨日」

昨日!?と驚きのあまり、シュン君は煙を変な風に吸ったようで咽せていた。

とても当たり前の反応だった。

「え、何で?」

「いやー大変申し訳ないんですが、キスしてるのうっかり目撃しちゃって、つい声を」

大概、私も小心ものの癖してこういうところはかなり図太い神経をしている。

普通はそんなこと素直にあっさりと言わないだろう。

てへっと冗談めかせようとしたが、シュン君は見事にこっちを見たままフリーズしていた。

どうしようと困っていると突然噴出して大笑いを始めたので、

何故笑っているのかも分からなかったがとりあえず、笑ってみた。



「片瀬さんとは俗にいうセフレという奴ですか?」

「まあ、そうなるのかな」

「あ、てか、こんなに質問しちゃ悪いですよね」

「良いよ、ユリが自分から喋るなら俺が隠すことでもないし」

「彼女とかは・・・」

「昨日別れた」

「あーえ、じゃあ・・・浮気モノですか?」

「否定できないかも」






ふともの思いに沈み込むように黙ってから発された一言。

「言い訳みたいに聞こえるかもだけど、幼馴染以外の全部に当てはめられないんだよね」

意味わからないよねとシュン君は付け足したけれど、少しだけ分かるような気がした。

彼の、眉を少しだけ下げて困ったような笑顔に、片瀬さんに抱く思いの複雑さが見えた。



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