表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/27

ありふれた話の左隣のお話

綺麗な子よりはふわふわして、可愛いものや甘いものが好きな女の子が良い。

作ってるってわかってるけど、それでも上目遣いされればどきっとするし、

胸を押し当てられればむらむらする。

女の子が女の子を武器にして何が悪いっての。

ぶりっ子嫌いとかいう女なんて、ただの僻みじゃないかってそう思ってた。





6月になって日差しが強くなった。海行きたい。

「合コンしよー」

「今度はどこの子?」

大学生活最高。

考えることはどうやって講義サボって、誰と何して遊ぶかだけ。

彼女はいないけど、合コンで会った子と遊びにいくだけでも十分、束縛、面倒。

嫌でも社会人になったら責任とかいろいろ押し付けられて、

社畜とかいってアクセク働かなきゃならなくなるんだし。

最低だとか、頭軽いとか言われても何とも思わない。

今だって男ばっか喫煙所にたむろしてだべってる恒例行事のまっただ中だ。

ふと、黒髪のキレイな子に目がいった。

もくもくと立ち上る煙の間から見えるその子。

自分みたいに適当とかじゃなくて、目標とかもあってきっちりしてる感じ。

キレイな子は清純で高嶺の花っぽくてあんまり好きじゃないけど、

なんでだか自然と引き付けられるオーラがあった。

「あ、あの子マジかわいー」

隣にいる奴も目ざとく気づき、その声にどれどれと周りの奴も視線をそちらへ向ける。

「えー俺、黒髪だめだわ」

各々に趣味を口にして頭軽い集団だなーとか、絶対柄悪く見られてるわとか、

頭に浮かんだけど、とりあえず楽しいから何でも良い。

「俺、キレイ系ダメだわ」

ふとシュンから発せられた冷めたその言葉に違和感を覚える。

大学に入ってできた男友達のシュンはイケメンの類で、

キレイな子からもカワイイ子からも入れ食いなのに

合コンでいつもお持ち帰りするのはキレイな子ばっかりだ。

こっちとしては趣味が被らなくて有りがたい限りだけど、

そんな面白くも実にもならない嘘をつくなんて珍しい。

だからといって自分に関係無い話どうでもいいから、適当に流した。




「いらっしゃいませー」

何が悲しいかなってか、遊ぶ金欲しさに居酒屋のバイトまっただ中。

可愛い子が後輩で入っていきたと思ったらすでに彼氏持ちとか、このバイトに望みはない。

淡々とバイトをこなして週末の合コンに備えるのみだ。

お客さんが入ってきたら淡々とおしぼりとお通し渡して注文取るだけ。

おっさんはともかく、可愛い女の子が来た時は冗談半分ナンパ目当てで、

商品のオススメしてたら、真面目だと勘違いされて社員に褒められて笑えた。


何度も繰り返し聞いたピンポーンという間の抜けたチャイムがなり、入口に向かう。

ずっと室内にいて気づかなかったが、外は雨が降っているのか、

水滴に濡れた赤い傘がすっと人よりも先に入ってきた。

「何名様ですか?って…」

思わず余計なことを口に出そうとして、言葉を飲み込んだ。

相手は訝しげに首をかしげたがさして気に留める様子もなかった。

「2名です。」

見た目も美人なら声も綺麗とか。

「こちらへご案内致します。」

何事もなく交わしたけれど、束の間ひどく驚かされた。

昼間に見かけた黒髪美人の連れ、どこかで見かけたことあるって思っていたら、

「タカちゃんじゃん!?」

なんてことだ、黒髪美人の連れが同じクラスの森ガールだった。

マジ異種格闘技、とか内心思ってたら悟られたらしい。

「片桐さんっていうの、シュン君の幼馴染なんだよ」


あ い つ。 シ ュ ン の や ろ う。


喫煙所にいた時は他人のフリしてたくせに、こんな美人タイプじゃなくても

知り合いだなんて憎さ1000倍、紹介しろ。

「下の名前なんて言うの?」

「ユリよ」

美人にありがちないかにもゴージャスっぽい花の名前。

なにはともあれ話を聞いていくと、二人の出会いはタカちゃんのナンパ(?)から始まって、

しかも連絡先ゲットだとか森ガールの猛者っぷり半端じゃない。

黒髪美人も美人でちょっと変わってるらしい。

結構人見知りするタカちゃんが自然な感じで話してるところとか

酒の飲みっぷりとか食べっぷりとか(ビール20杯体のどこに消えたよ)。

それはそれで着飾ってない感じが結構楽で、シュンとか含めて4人で飲めたら楽しいなとか

ひとりで妄想してたら、口に出してたみたいで。

「面白そう」

絶対腹黒いだろ、ユリちゃんの笑みが悪代官みたいに見えた。

美人って企んでる顔も綺麗だけど、おっかない。

今はこの場にいないシュンに向かって心の中でご愁傷さまと唱えた。(自分のせいなのに)



ということで、放課後偶然を装って4人で鉢合わせて驚かせてやろうと

作戦を立てて実行してみたのだが。

「 な、」

タカちゃんの隣に立つユリちゃんを見て固まるシュンの顔、イケメン台無し。

びっくり大成功。

はめられたことに気づいて思い切りこっちを睨んできたシュンの顔マジ怖。

「とりあえず飲もうぜ!」



飲みも一段落して河川敷で花火することになった。

酒も入ってテンションあがってるからわけわかんないノリ。

じゃんけんして負けた2人がコンビニで飲み物買ってくるとかべたなルール決めて、

シュンとタカちゃん、上手いことお遣いカップル成立。

当然のごとく残された俺とユリちゃんで残りの花火を消化する。

最初のうちは盛り上げようと俺が一方的にバカ話を繰り広げていたが、

ユリちゃんの暑さを失った夜に溶け込むような静かな笑い声や振る舞い、夏虫の声色に

忙しなく動き続ける口は自然と閉ざされた。

暗がりに浮かび上がる白く整った顔、大きな瞳の中で瞬く色とりどりの花火がちかちかして

酔っ払った頭がぼーっとして目が離せない。

視線に気づいたのか、ユリちゃんは手元の花火に向けていた視線を上げて俺を見返すと、

うっそりと猫のようにその大きな瞳を細めた。

その瞬間、バチバチと飛び散る花火が頭の中で警鐘を鳴った。


「買ってきたぞ」


はっとして後ろを振り返ると買い出しに行っていたシュンとタカちゃんがいて、

俺は思わずほっと安堵の息を吐いた。

一方のユリちゃんと言えば、当然だが何事もなかったかのように、渡された飲み物を受け取った。

いつもうるさい俺が変に静かなのに気付いたのか、シュンが訝しげな視線を俺に向ける。

何に対する気まずさなのか分からないが視線から逃げるように首を傾げると、

先ほどまで見つめていたユリちゃんの姿をまた捉える破目となり。

飲み物をあおる際、上を向いたとき黒く長い髪がさらさらと後ろに流れて、

白い喉元が嚥下の動きに伴って上下したのを見て更に居た堪れない気持ちになった。





やばい、柄にもない。

綺麗な子よりはふわふわして、可愛いものや甘いものが好きな女の子が良い。

そう思ってたはずなのに。


「ユリのことやらないよ」


俺にしか聞こえないくらいに小さく囁かれた言葉。

思わず、振り返るとまっすぐに俺をみるシュンの瞳にぶちあたる。

舞い上がっていたところに冷や水をぶっかけられた気分。

自分の浅はかな部分を見透かされたような羞恥心に頭がかっとした。

言い返そうとしたが、喉が詰まって言葉が出ず、代わりに拳をぎゅっと握りしめる。




最初から言えよ、畜生。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ