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(あ、有った)





喉元過ぎれば熱さも過ぎる、なんて言うけれど、

受験勉強に決して楽しい記憶はなかったが、終わってしまえばあっけない。






第一志望の大学にも無事受かり、新歓やらなんやらに顔を出しまくって早2ヶ月。

つるむ仲間も大体決まり、程ほど学校に行ったりバイトをしたりと

いかにも大学生らしい生活を送っている。

別に大学生に期待というものを持っていなかったせいもあるのか、

高校時代とそれほどはっきりとした差を感じなかった。

そもそも、大学になって自由でなんて想像をするのは高校時代に

門限が厳しいとか勉強を頑張っていたとかいうなにかしらの拘束があるからであって

自分にははなからそんなものがなかったのだから当然と言えば当然である。

「合コンしよー」

集まった時の決まり文句のように誰かがそれを口にする。

S女子大のK大だのよくもまぁそんなにツテがあるもんだというくらいに合コン合コン。

この2ヶ月であった人数は何人だか正直思い出せないくらいだ。

「今度はどこの子?」

別のヤローが言葉を返す。

溜まる場所はいつも喫煙所で、ユリ曰く傍から見ると素行が悪そうで迷惑な集団だそうで。

確かに50センチ四方の灰皿を男6人で固まっていれば、

いい気のする人の方が少ないだろう。


「あ、あの子マジかわいー」

「えー俺、黒髪だめだわ」

黒髪といって真っ先にユリが浮かぶ自分は重症なのだろう、

もはや流行はずれとなったが、ちょっと前までは黒髪が流行っていたわけで、

今でもその名残で暗い髪色をしている子は割といるのだ。

自分にそう言い聞かせたものの、確信めいたいものが考えの隅にあって、

なるべくダチが話す女の子の視線を方に目をやるまいとしていたが、

シュンはどう思う、という言葉をふられて、見ないわけにも行かなくなり、

鼻先で風に流されていく煙草の煙からその女の子のいる右斜め前に視線を投げかける。

(やっぱりユリか)

思うのはそれだけだ、目立つ奴はどこにいっても目立つ。

服装が目立つとか化粧が濃いとか外見的要因ではなく、

嘘っぽいけれど人にはオーラみたいなものがあってそれに惹かれるのだと

ユリをみているとつくづく思う。

元々顔立ちが整っているのは周知の事実であるが、

ユリはそれだけじゃない何かがある。

「俺、キレイ系ダメだわ」

嘘をつく。

嘘ではないのかもしれない。

実際にカホもキレイというよりは可愛い系だったし、

その前の彼女もキレイという言葉の硬質さに酷く不似合いな子だった。

多分、ユリのような人間と関係を持ち続けている反動だったのだろう。

なるべく動物的で自分に都合のいい、扱い易い存在を求めていたのだ。

恋愛なんてそんなもので良い。

昔は多少幻想を抱いた時期もったのかもしれないけれど、

そんなの1年も経てば薄れてしまうもので、

それなりに楽しくて気楽であればいい。

極論、イベントの日に独り身という哀れな境遇さえ避けられれば良い。

その程度のものに過ぎないのが彼女だ。



ふと、ユリがこちらに気付いたらしく数秒こちらの方を眺めては、

ふっと目を細めて少し人を嘲笑うかのように口元を緩めた。

(性格悪っ)

中学生の頃はそんなユリに振り回されて、高校に入って抵抗する手段を知り、

後は段々とユリのなされることにささやかな不満を感じつつも

抗いがたい強制力に心地良さを覚えていた。

女っていう生き物は不思議なものだと思う。

自分に都合の良い存在じゃないと煩わしいと感じるのに、

我が侭に自尊的に振る舞う女程こちらから離れがたいものを抱かせる。

ユリはまさにそんな感じなのだろう。







「シュン、今日こっち見てた?」

ヤってる最中に何分かりきった事言って余裕すかしているんだと思ったが、

ユリの湿って生暖かい舌先が、俺の一番熱を持った部分に触れるたびに

このまま流されてしまいたいという欲求に駆られた。

それはそれで今更プライドも何もないようなものなのかもしれないが。

「別に、っ」

敏感な部分を下から上へと舐められ上げて思わず上擦った声が出る。

ユリはしてやったりというように猫のような目元だけうっそりと細めて

また、柔らかい口腔でもって包むように咥え込んだ。

俺は悔しいやら恥ずかしいやらで赤くなっているだろう自分の顔を隠すように押さえた。

「気持ち良い?」

何でこういう時だけ普通の女なんだろう。

と思って愚問だ、と思った。

あの日あれだけユリが女だと知らされたのだ、当然と言えば当然なのだ。

それも有る意味凄く従順な女なのだ。

自分が振り回すその行為でさえ男を喜ばせるということを知っている。

そして女としての本能において従順であるべきだと察知した瞬間、

一種の言葉では尽くしがたい献身的態度に出る。

それは「普通のおんなのこ」が持ち得ない独特のものだ。

俺の視線に気付いたユリは下腹部に向けていた視線をこちらに向けて、

で、どうなの?とお決まりの意地悪げな目で問う。

ユリの表情にぞくりとしたものが背筋を走る。

俺はユリの顔をしっかりと見るために俺の下腹部に垂れ下がる黒く濡れた髪の毛を

形の良く白い耳にかきあげた。







女の嘘っぽい嬌声が、ラブホっぽさを盛り立てた。

合コンの終わりの方で声をかけてきた女の子をなんとなく引っ張りこんでみた。

(ユリの方が気持ちいい)

声の煩い女はどこか嘘っぽくて萎える。

ユリは声を出すけれど、途中で声さえも出すのがつらいと言うように

ほぼ呼吸音のような声を出す。

俺は余裕のなさそうなその音を聞くたびにちゃんと気持ちよくなってくれているのだと

妙な安堵感を得られる。

今ヤっている女の子が本当に気持ちよがっていたとしても、

俺にはユリだけが本当に見える。


途切れ途切れに名前を呼ばれる。

何?と聞けば、絶対に困惑するだろうことが目に浮かぶようだ。

ユリは何も言わない。

気持ち良い?と聞けば、漏れる声と共に途切れた音で気持ち良いと返す以外には

動物的な唸り声をあげているだけで、その押し殺したような呻き声がたまらなく興奮する。

普段の悪戯好きそうな笑みがなりを潜めるように

苦しげに眉根を寄せながら額に汗を滲ませる。

シーツに広がる長く黒い髪や熱気でどことなく潤む睫毛、

少しつり上がって黒目がちな目は強く閉じられて、

血色の良い唇や色白な頬更にその赤みをます。

これら全てに触れて心酔し、深海に沈んでいくように

そのままユリ以外のことを考えないようにしたいという思いに駆られる。






(なんか、虚しい)





もう、飽きた。

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