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ありふれた話の身近なお話

華の女子大生真っ盛りだというのに、思ったことは





若い。





世間的にそれほどずれて生きてきたつもりもなかった。

それなりに女の子のグループに所属して、

中学では今と比べれば安くて粗悪なものだけれど、化粧もしていた。

あまり多くないお小遣いからファッション雑誌と遊び代を拠出。

目をつけた服は母親に強請れるだけ強請った。

時々なら楽しいけれど、今思うとお金の無駄だと思うのはプリクラかもしれない。

1回に何枚もとって交換した。

女友達と撮る変顔に、彼氏ととるキメ顔。

今にしてみれば、どうでも良いようなそんなことも一応は面白かった記憶がある。

モテる先輩の話とか、とりあえず恋愛ネタは中学も高校も尽きることはなかった。

高校は女子高で派手なこと地味なこで完全に二極化。

私は幸運なことなのか、一応派手な方に部類していた。

夜遊びもそこそこに親に怒られてばかりだった。

合コンとかして馬鹿騒ぎ、とりあえず付き合ってみてはすぐに別れた。

そんなことの繰り返しだったけれど、運よく大学に受かり、

神様は何を思ったのだろう、私を現在の彼氏と引き合わせたのだった。



今の彼氏とは長い。

お付き合い最短2週間の、割と最低に出来上がった私ともう1年以上も続いている。

相手の性格は割と淡白なのだろう、会うのも週1というところだ。

連絡も自分の周りにいる女の子たちに比べれば少ない。

とりあえずで買った2台目携帯も、買った当初はそれなりに利用していたが

今は「ないよりはあった方がちょっとお徳」という程度だ。

だからと言って仲が悪いというわけでもなかった。

話せばやっぱり面白いと思うし、何よりも一緒にいることが楽だった。

自由奔放に振舞ったところで特に口出しもされず、こちらもしなかった。

好きだという感情もある。

一応カッコいいと思って付き合ったから、ごく稀にときめくこともあるけど、

やっぱり何より楽だった。

ずっと一緒にいなくて良いし、一緒にいればそれはそれで他の人といるのと別の魅力がある。

そういうスタンスに変わってしまって以来、

自分の恋愛の話をするのはほとんどなくなった。

元々恋愛体質ではなかったのだろう。

彼氏から連絡がこなくて、いきなり「寂しい」とメールを打ってしまうような女の子には

到底理解のできない人種この上ないに違いない。






弟が1人いる、割と今時の高校生だ。

わが弟ながらなかなかの下僕体質だと思う。

それは私が使いぱしりをさせるような酷い姉であるのも確かであるし、

何よりも隣の幼馴染のユリちゃんの影響が大きいだろう。

ユリちゃんの見た目は清楚系の可愛い子だ。

今時珍しい黒髪の高校生で(一時期流行っていたけどもう廃れたのでは)、

母親の話によると何でもできる子らしい。

色んな意味で残念な子には見事なまでにやっかみの対象だろうが、

彼女は歯牙にもかけないという風体なのだろう。

猛者以外の何者でもない。

弟は童貞でもないのに、ユリちゃんに対する恋心を自覚していないようだ。

強いて言わなくても馬鹿、あんまりだから一応憐憫。

ユリちゃんがいなければこの子も人並みに幸せだったのだろうが、

面白いので放っておく。





嫌がる弟から無理矢理プリクラを奪う。

プリクラにはサホと女の子らしい丸文字で書かれている。

見た目は可愛い、いかにも今時のギャルだった。

ユリちゃんよりは確実に昔の私に近いと思う、というかこんな友達いた気がする。

そんなサホちゃんとクリスマスを過ごすと思っていた弟が早々に帰宅だ。

手には完全に渡しそびれただろうプレゼントが握られている。

「フラれたの?」

我ながら、なかなかの鬼姉っぷりだと自画自賛してあげたい。

弟はさすがに気まずそうな表情を見せたが思ったよりも元気そうだ。

「でかけないの?」

「今から準備するのよ」

あまり外でデートというものをしない。

久しぶりの遠出といえば遠出だった。





穴は埋めるために存在するのだと思う。

唇は唇で、耳は音で、目は彼の裸で、穴は杭で隙間と言う隙間を埋め込む。

少しくらいむりやりに広げられても、内壁の収縮と拡張を繰り返して最終的にフィットする。

折角の化粧も台無しだ、さっきからシーツや彼の肩口に擦り付けてばかりいるのだから。

「 、 、  」

動きが止むと、私は体一杯に酸素を取り込むようにぜいぜいと呼吸する。

呼吸をしているその時は、彼の腰骨が太ももに食い込んで痛いだとか思っているのに

いざ思い返した時にスモッグがかかったように酷く不鮮明だ。

酸素を吸って二酸化炭素を吐き出すという行動にひたすら一生懸命になのだろう。

一通り、ヘモグロビンが私の体の中に酸素を一巡させると

今度は虚脱感を伴うひどい疲労感と眠気に襲われる。

私は、馬乗りになっていた彼の体の上にばさりと覆い被さった。

上に乗っているのに、温かい毛布をかけられているような気がするから不思議だ。



高校の頃はセックスという言葉が日常会話の世界に生きていた。

経験は人並みにこなしていたし、濡れるものは濡れていた。

けれど、はまり込むほどの快感というものには出会ったことがなかった。



「弟がね、彼女にフラれたみたい」

「お気の毒に」

今にも寝てしまいそうな声だった。

彼はお気に入りの抱き枕を抱えるように私を腕の中にひっぱりこんだ。

男の癖にすべすべとしている皮膚や、痩せ型ながら筋肉質な体つきが好きだった。

何よりも温かい。

一緒に眠っていると冬場でも汗をかきそうになるくらいに、熱を持っている。

夏場は些か不快であるが、今は心地良い眠りを誘うだけだ。

(本当にかわいそうな弟だ)

化粧を落とさずに寝ても平気な年ではなくなったように思われる。

こんなことを30代の人が聞いたら怒るかもしれない。

ああ、でも、できることなら割とちやほやされていたいなと、

徐々に回らなくなる頭でつらつらと考えた。

頭の上の方から彼の気持ち良さそうな寝息が聞こえ始めた。

私はその寝息に促されるままにそっと、目を閉じた。

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