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街の施設

 俺とフルミネはバイクについてのレポートを書き終えると、街を歩き回ることになった。

 バイクを乗るために街の外に出た時、街の中をほぼほぼスルーしていたからだ。

 とにかく、田舎町って印象しかないので、どこで何が手に入るかもさっぱり分からない状態だった。

 っていうのは建前。

 実際は、フルミネのごり押しだった。


「街案内は私に任せて。ほら、一緒に行こう。今日の晩ご飯の買い出しもしないといけないし、食べたいものがあったら何でも言ってね」


 ようは荷物持ちが欲しいと言うことだろう。

 そんな理由で俺は田舎町を歩き回り、中央市場に並ぶ八百屋、肉屋、魚屋の屋台を見て、近くにあるパン屋、鍛冶屋など買い物が出来る所を訪問していく。ちなみにルチルがモノを運んできたおかげか、食糧の並ぶ市場は大盛況だった。

 そして、お店に入る度に、フルミネは声をかけられて、いろいろオマケをつけてもらっていた。


「フルミネは人気者なんだな」

「えへへ、そんなことないよ。召喚士は少ないから、みんな覚えてくれているだけだよ」

「ん? 召喚士って少ないのか?」

「そうだね。村に一人いるかいないかくらいだよ。この村だと、私と教会のお姉さんだけだしね」

「あれ? さっきのルチルは? 随分仲が良さそうだったけど、この村の人じゃないの?」

「ルチルちゃんは別の村の召喚士だよ。召魂の儀はこの村にある聖域じゃないと安定しなくて、ルチルちゃんが儀式を受けに来た時、仲良くなったんだ」


 フルミネが言うには、異世界との境界線が緩みやすい場所が聖域と呼ばれているらしい。

 時折、世界の境界が緩んで、召喚術を使っていないのに変なモノや人がぽこっと出てくるらしい。

 そして、召喚術自体が世界の境界の緩みを擬似的に再現する術らしく、元々境界が緩んでいる聖域は召喚術の効果が上がるのだとか。

 ある意味危険な場所なので、そういう場所は教会が聖域として管理しているらしい。

 この世界の召喚術の根幹が、そんなに近くにあるというのなら――。


「その聖域って俺も見に行っていいの? 興味あるかも」

「うん、大丈夫だよ。一般人は近づいちゃいけないけど、セージさんは私の召魂獣だから」


 食材の入った紙袋を抱えて、俺はこの世界の教会に入る。

 けれど、俺はここでまたこの世界の非常識に遭遇して、紙袋をたまらず落っことした。


「うおっ!? 白化死体!?」

「カカカ、良いねぇ。その反応。新鮮だ。って、なんだ、フルミネと召魂獣の小僧じゃないか」


 俺たちを出迎えたのは、法衣を着た骸骨だった。

 何というか神様を祭る教会に、一番似合わない存在じゃなかろうか。

 と思ったらさらに信じられないことを言ってくる。


「ワシはこの教会の司祭代理ワイズルだ。同じ召魂獣同士仲良くしようじゃないか小僧」


 シュールだ……。

 骸骨のワイズがカラカラと音を立てて笑う姿も、それが教会のど真ん中にいる光景も脈絡のない夢みたいな景色だ。


「神様に真っ先に滅ぼされそうな見た目してるんだけど……」

「カカカ、確かに元の世界ではワシのようなアンデットは魔物扱いだったしな」

「こっちの世界では違うと?」

「そうなんだよ。何せワシは一度死んでるだろ? だから色々聞かれてなぁ。死んだらどうなるの? とか、先月亡くなった母は向こうで元気にしているか? とか、そういう人の生死にかかわる悩みの相談を受ける受ける。まさに頼れる老骨と言った所だな。骨だけに! カカカ!」


 ワイズルはそう言うとまた骨をカラカラと鳴らしながら笑う。

 俺を小僧扱いするだけあって、多分何百年と生きてきたんだろう。

 そんな不死者に死んだらどうなるか相談するっていうのも、何か極めてシュールな光景だなぁ。真っ先に殺されると思ってしまうような相手だろうに。

 でも、案外、世界の情勢が違えばこんなにも変わるモノなのかもしれないな。

 人は見かけによらないと言うけれど、この世界では種族も案外見かけによらないのだろう。

 不死者が怖いというのも、俺の先入観であって、全く先入観なしで面白いことを喋る骸骨と出会ったとしたら、意外とすんなり受け入れられるのかも知れない。

 そういう意味では、この世界はとても平和なのだろう。


 俺がそんなことに感心していると、フルミネは当初の目的を切りだした。


「ところでワイズルさん、クレアさんはいますか? セージさんに聖域を見せてあげようと思ったんですけど」

「我が主なら、午前中はぐったりして寝込んでおったが、そろそろ部屋から動き出す頃だと思うぞ」

「またかー。クレアさん弱いもんね」

「うむ、我が主に弱点があるとすれば、あの身体の性質だな」


 クレアを良く知る二人は困ったようにため息をついていた。

 話を聞いている限り、クレアという人は身体の弱い人のように聞こえる。

 体調を崩しているのなら、日を改めた方が良さそうだな。


「クレアさんの体調が悪いのなら、また今度来ますよ。どうかお大事にとお伝え下さい」


 俺がそう伝えると、ワイズルさんは気にするなと首を横に振った。


「遠慮せずともよい。我が主は酒に弱いくせに、沢山飲むわ、ちゃんぽんするわでな。おかげで二日酔いで寝込むのはよくある――」

「ワイズル! ちょっーっと待ったー!」


 同時にワイズルさんの首が女性の叫び声とともに吹き飛んだ。

 それはもう黒髭危機一髪みたいに綺麗に真上に飛んだ。

 代わりに現れたのは、格闘ゲームのキャラみたいな美しい跳び蹴りを放つ金髪の修道女シスターだった。なんというダイナミックエントリーだよ。

 俺の方がちょっと待ったと叫びたいって。


「良く来たわね! 私がこの教会の中で一番偉い人! クレアよ! 素敵なお兄さん!」

「……こ、こんにちは」


 しかも、何かぐいぐい来るし、近い! 目が血走ってて怖い!

 顔自体はとても綺麗なのに、殺されるんじゃないかっていうくらい迫力がある!


「ワイズル、あなたまた人を怖がらせることをしたのね?」

「我が主よ。人の首を飛ばしておいて、その言い草はなかろうて」

「だ、だって、初対面なのに怯えられてるのよ!?」

「人の頭を蹴って吹き飛ばす女を見れば、男なら誰だって縮み上がるだろ――って、ワシの頭を投げるな! 目が回るんだぞ! 目ついてないけど!」


 せっかくはめなおしたワイズルの頭がもう一度宙を舞う。

 何というか割ととんでもない光景なのに、フルミネは特に気にしている様子もない。

 これがいつもの光景ということなのだろうか。

 ワイワイ騒ぐ司祭の骨とシスターのクレアを放置して、どんな人なのか紹介してくれた。


「セージさん、紹介するね。このお姉さんはクレアさん。守護召喚士の人だよ」

「守護召喚士? また新しい召喚士の職業が出てきたな」

「聖域を守る召喚士でね。召喚獣も自分自身も戦いが強い人がなるんだ」

「なるほど。聖域は他の世界から遺物が転がり込んで来る場所だから、この世界にとって害を為す物もある。そんな害のある召喚物からみんなを守る職業ってところか?」

「おー、セージさんすごいね。その通りだよ」

「おぉ、当たってたか。でも、それならクレアさんの腕っ節の強さも納得だ」


 あのダイナミックエントリーも五メートルは軽く飛んでいたしなぁ。もしかしたら、何か身体の方にも秘密があるのかもしれない。

 失礼だとは思いつつ、クレアさんの身体を見ていると、クレアさんは慌てたように手をぱたぱたと振り始めた。


「う、腕っぷしが強い……。そ、そんなことないわよ!? クレアお姉さんは、まだまだか弱い女の子だよ!? お兄さんみたいな頼れる男性に頼りたいお年頃なんだよ!?」

「気にするな小僧。我が主は必死に乙女の振りをしておるが、その実、婚期を逃してしまって今更誰でも良いから結婚したいと必死に――だから、話の途中で首を飛ばさないでくれるか!?」

「今のはワイズルが悪い! 人の恋路を邪魔して楽しいの!? 実家に帰る度に爺様、婆様、お母さんとお父さんに、良い出会いはあったか? って聞かれる辛さが分かる!?」


 あぁ、あるある。あれ、すっげー気まずいんだよなぁ。


「歳下の妹たちが全員結婚して一人取り残された私の苦しみが分かる!? お姉ちゃん、赤ちゃん落とさないでよ? 何か目が怖いよ? って念押しされるのはどういう意味なのか分かる!?」


 うわぁ……。まぁ、この中世っぽい文明だと、結婚も早そうだしなぁ……。

 そういうこともあるよね……。いや、妹に嫉妬で赤ん坊を殺されると思われる姉ってどうなんだ……?


「何を言うておる。ワシは我が主が真の愛を手に入れられるように応援しとるというのに」

「真の愛?」

「我が主の欠点を見ても、愛を注いでくれる人と一緒になるべきだろう? 良いか我が主よ。人の弱さを愛せる相手を見つけるのだ。さすれば、我が主の恋はきっと良きモノと鳴る」

「ワイズル……ありがとう。おかげで目が覚めたわ。私、間違ってたわね」

「うむ、それで良い。我が主よ。ワシはそなたの恋路を応援しておる」


 あれ? 今度は一転、何か言い空気になったぞ。

 なるほど。こうなるのが分かっているから、フルミネは動じなかったんだな。

 それにしても結婚かぁ。どこの世界に行っても変わらないんだな。


「クレアさんって何歳なの?」

「……二十歳」

「嘘をつくな我が主。二十一になっただろ」

「むきいいい! 二十と二十一の壁が骸骨のあなたには見えないのかしら!? そうよね! その骸骨の頭、目玉取れてますもんね! 空洞ですもんね!」

「千年も生きていれば、二十も二十一もケツの青い子供だ。歳を語りたければ五百年は生きてからにしてほしいな我が主よ」

「五百年も経ったら骨すら残らないわよ!」

「だから、頭を投げ飛ばすな我が主!」


 なんというか、本当に仲が良いなぁこの二人……。

 俺は今、フルミネの生暖かく二人を見守る目と同じ目をしている自信がある。


「てっきりもっと歳を取ってるのかと思ったけど、クレアさんまだまだ若いよ。これからだって」

「え? 今なんて?」

「てっきりもっと歳をとっているのかと思った」

「そっちじゃなくて! 私ってまだまだ若いの? 二十一だよ? もうおばさんだよ?」

「え? 俺の住んでいた世界だとその歳で結婚してない人の方が多いよ? むしろ、結婚してくれって言われたら喜んで結婚してくれる人多いんじゃないかな」

「そ、その、私でも、そう思われるのかな?」

「うん。クレアさん美人だし」

「っ!?」


 クレアは真っ赤な顔でしゃっくりみたいな音を出すと、ぷるぷる震えながらワイズルの頭をワイズルの上に乗せた。


「ごめんね。ワイズル。やっぱり私が間違っていたみたい。そうね。年齢なんて関係ないわ。私、視野が狭かったみたい」

「そうか。ついに分かってくれたか。我が主」

「うん。今日から、ううん、今から私生まれ変わるわ」

「カカカ、我が主に先を越されたか。ワシは骨になったが生まれ変わってはおらぬのでな」


 ……この二人はホントなんなんだろう。


「セージさん、あなたのおかげで私は真の愛に気がつきました。セージさんにとって、愛に年齢は関係ないんですね」

「あぁ、うん、そうだと思うよ。それに俺もいい歳になっちゃったし」

「ありがとう。おかげで自信が付きました。結婚してください」

「それはよかっ――え?」

「この紙に名前を書いて下さい。そうすれば教会の方で入籍したと認めてくれます」

「ちょっと待って!?」

「私、子供は三人ほしいな!」


 本当にこの人たちは一体なんなんだ!?


「頭の理解が追いつかないんだけど!? どういうことなの?」

「私、セージさんと結婚する! 二十過ぎても大丈夫って言ってくれたセージさんとなら幸せな家庭を築ける!」

「ちょっ!? 何でボタンに手をかけて!? えっ!? アッー!?」


 その後、クレアさんをフルミネとワイズルさんが取り押さえてくれたけど、俺はパンツ一枚になるまで剥かれた。


「我が主! 何か盛大な誤解をしているぞ!」

「クレアさんが獣みたいになってる!? セージさん逃げてええええ!」


 本当にどうしてこうなったんだろう。

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