魔鋼騎戦記フェアリア第2章エレニア大戦車戦Ep3エレニア平原Act27危険な影
13対4の戦いに勝利を収めたフェアリアの魔鋼騎達。
生き残った2両は補給を受ける為に後退する事に決めた・・・
両軍は一時的に膠着状態と化した。
ー よく無事で居られたものね。
一発喰らった時にはどうなるかと思ったけど・・・
車体のどの部分に命中弾を喰らったのかを探すリーンの眼に、
砲塔前面上部が黒く煤けているのが写った。
ー そうか。あの一発は榴弾だったのか。
道理で衝撃が強かった訳だ。
もし、徹甲弾を喰らっていたら貫通されていたかもしれない。
危ない所だった・・・
改めて運が良かったと思い、冷や汗をかくリーンの瞳にバスクッチの車両が見えた。
ー あ、バスクッチの車両も無傷だと思っていたけど何発か喰らっていたのか
砲塔側面や車体斜め前方に黒く煤けた弾痕が着いている。
マイクロフォンを押してキャミーに損傷具合を訊ねるように命じる。
「キャミー、バスクッチに損傷具合を訊いて。
小隊の生存者を助けて砲弾の補給を受けに一度後退する様に伝えて」
リーンの命令にキャミーが直ぐに連絡を取る。
「了解!」
バスクッチ車のキューポラから少尉が身体を出し、車体の損傷箇所を確認している様子が見えた。
「リーン中尉、敵は見えませんか?
敵重戦車隊の後方に別の部隊が付いて来てませんか?」
ミハルがキューポラのリーンに索敵を頼む。
双眼鏡を眼に当てて、市街地の方を探るリーンの瞳には
これといって射程内に居る敵は見当たらなかった。
「居ないわね。
市街地の奥は解らないけど、左右に行った敵以外にこれといった部隊は見えない」
リーンは左右に目を向けて他の部隊を確認して言った。
「車長!味方戦車部隊が突入を開始します。
我々には現地点より後退せよと言って来ていますが?」
ヘッドフォンからキャミーの声が聞こえた。
「うん了解。一時後退して弾の補給を受けましょう」
命令を聴いてリーンが後退する判断を下す。
「ミリア、魔鋼弾の残弾数は?」
補給を受ける時の為に残数を訊くリーンに、
「はい。24発中18発消費。
残り6発です。良く撃ちましたね。
補給を受けた方が善いなと思っていた所です」
ミリアも残弾を確認しながら頷いた。
「どうもおかしいですね。どうして中央がこんなにがら空きなんでしょう?
まるで誘い込もうとしているかのように・・・」
ミハルが一人不思議そうに首を捻って考えた。
その瞳は照準器に向けられたまま市街地を見詰める。
「まあ、あの重戦車隊がどうして突っ込んで来たのかが謎のままだからな」
ラミルもペリスコープを見詰めてミハルと同じ様に探る。
ー あの市街地に何かが潜んでいるのか。それとも私の思い過ごしなのかな?
遠く煙に霞む市街地を見詰めるラミル達には見えなかった。
破壊された重戦車に砲口を向けている巨大な砲身に・・・
「小隊長、幸い戦死者は出ませんでした。
バックボーン車もライヒ車も軽傷者のみで、全員脱出に成功したようです」
双眼鏡で観測を続けるバスクッチにアルミーアが砲手席から報告を入れる。
「よし、負傷者を優先させろ。
本車は今より陣地へ戻る。後部へ移乗させるんだ、急げ!」
小隊の2両が撃破された為に、
脱出者をバスクッチ車へ移乗させて連れて帰ろうと命じた少尉に。
「小隊長すみません。迂闊に残弾数を数え忘れておりました。申し訳有りません」
アルミーアが砲手として少尉に謝る。
「まあな、13対4だったからな。仕方あるまいよ」
バスクッチが謝るアルミーアを許して宥める。
少尉の声が何かを気にする様に堅いままなのに気付いたアルミーアが訊く。
「小隊長、何か心配事でも有るのですか?」
キューポラを見上げて訊くアルミーアに少尉がこたえる。
「ああ、奴等の攻撃方法が余りに自殺的だったのが気になってな」
そう言われたアルミーアは砲側卒距儀を高倍率に上げて、市街地方向を観測した。
ー 砲煙で良く見えないけど・・・
小隊長が言われる通りなら、あの霞む市街地に何かが居るのかも知れない。
注意していないと不意を衝かれる恐れがある・・・
バスクッチもアルミーアも敵情観測を続ける事を止めなかった。
「脱出者の移乗完了。後退します」
ゆっくりとバックで後退を始めるバスクッチ車と歩調を合わせるようにリーンもラミルに命じる。
「ラミル、後退しよう。バスクッチ車の前に出て、彼の車体をカバー出きる様に」
命令を受けてラミルは斜め後方で後退するバスクッチ車の前に車体を持って行く。
「リーン中尉、右舷500メートル程の所を味方4号が前進して行きます」
ミリアが観測報告を入れる。
「うん、了解。私は前方を見ておくからミリアとミハルは両舷の索敵を頼むわよ」
リーンに言われてミハルは砲手席側面のスリットに取り付いて観測を始めた。
ー 右舷側遠くにM4中戦車部隊が展開している。
まるで何かのタイミングを測っているかのように、攻撃を控えているみたい・・・
ミハルの眼に写る敵部隊は射撃不可能なまで遠く離れてしまっていた。
右舷側に居る味方部隊にも砲撃してくる様子も無く、
ただ包囲するかのように遠く砂煙を上げて進んでいくだけだった。
ー 昨日と作戦を変えたのかな?私達と同じ様に作戦自体を変えたのだろうか?
私の考え過ぎなのだろうか・・・
リーンは敵の不可解な行動に考えを廻らせる。
「味方4号信号弾を打ち上げましたっ!突撃開始しますっ!」
キャミーが振り返って叫ぶ。
ー まさか!?
市街地へ突入する気なの?敵戦車との決戦はどうする気なのよっ!
リーンは作戦が変更された話など聞かされていないので突入を企てる指揮官の判断を疑って、
「馬鹿っ!何を血迷っているのよ。
折角師団長が目標を敵戦車隊に絞ってくれたというのに。
何故市街地へ行くのっ?」
大声で右前方を進む中戦車隊指揮官を罵って、
「キャミー!味方に連絡っ、目標は敵戦車隊、市街地突入に非ずっ。
急いでっ、先走る味方を止めないと大変な事になってしまうわ!」
リーンがキューポラから命じてこれからの行動をどうしようか迷って、
思わず後方のバスクッチ車に目を向けると、
ー え!?
そこには味方突撃部隊の方に砲塔を旋回させたバスクッチ車が。
((ズッドオオオーンッ))
75ミリ砲を味方前方に向けて放った。
「わっ!味方を撃ったの?」
思わず首を竦めて驚くリーンに、
「車長!?敵ですか?バスクッチ車が発砲したみたいですが?」
ミリアが砲撃の準備の為に訊いて来る。
「違うわ。バスクッチが味方に向けて撃ったのよ」
後ろを振り向いたリーンが答えた。
「えっ?何故?」
ミリアが訳を知りたがる。
「頭に来たんじゃないの。折角自分達が重戦車を倒して戦車戦に道を開いたのに、
市街戦を挑もうとする馬鹿野郎に」
リーンは肩を竦めてバスクッチの行動を容認した。
「ははは。リーン中尉も同じ思いみたいですね」
ラミルの声がヘッドフォンから流れた。
「成る程、納得です!」
ミリアも了承して持ちかけていた砲弾を置く。
双眼鏡を構えて着弾点を見詰めていたバスクッチが4号戦車の数メートル前で榴弾が炸裂し、
中戦車隊のスピードが落ちたのを確認すると、
振り返っていたリーンに手先信号を送って来た。
ー ん?何々。
自分は急いで補給に戻るから味方の先走りに注意していてくれって・・・
まあ、しょうがないかな・・・
了解の手先信号を送って、
「ラミル停車。キャミー師団司令部に報告。
味方に市街地へ突入させない様、釘を差すように念を押せって伝えて。
私達の目標は敵戦車部隊なんだから!」
マイクロフォンを押して報告を命じ、
「ミハルっ、まだ味方が市街地へ向うようなら構わないから脅かしてやってよ」
最後は笑いかける様にミハルに指示を下し、
「私達の敵は左右に展開した敵戦車なんだから!」
もう一度自分達の目標をみんなに伝える。
キャミーが無電のキィを叩いている間に、突入を企てた中戦車隊が進路を変え始めた。
ー それでよし、漸く判ったか馬鹿な指揮官
進路を右側に展開する敵部隊へ向け始めた4号戦車隊を見て、
「ラミル、どうやら解ったらしいわ。
私達も補給に戻りましょう。全速後退、陣地へ戻るわよ」
「了解です!」
ラミルは進路を陣地へ向ける為に方向転換をする。
「ミハルっ、合戦用意用具納め、魔鋼騎状態を終了して。
ミリア魔鋼機械停止、戦闘を終えるわ」
リーンの命令を受けてミリアが赤いボタンを押し、魔鋼機械の作動を停めた。
2両を見詰める妖しい影に気付かず後退して陣地へ戻ったミハル達は一時の休息を与えられた。
砲手の2人はお互いの健闘を称え合った。
次回 砲手の2人は友情と共に
君は生き残れた友と何を話す?何を告げる?





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