魔鋼騎戦記フェアリア第2章エレニア大戦車戦Ep3エレニア平原Act21第2次攻撃開始
重砲の弾幕が張られる中、突撃開始を待つリーン達第97小隊。
やがて時間が訪れる。
死への入り口である戦闘開始時間が・・・
遠雷が轟く。
遠く近く・・・墜ちた場所に砂塵が舞う。
飛び交う弾の音だけが戦場を支配していた。
((グオオオーン ドドーン))
双方の弾幕が弾け、爆煙が流れて行く。
「間も無く突撃開始よ。みんなっ気を引き締めてね!」
マイクロフォンを押えて言うリーンが、双眼鏡を司令部に向ける。
((ヒュルルルー))
青い煙を引いた発煙弾が本隊から上がる。
「よしっ!作戦開始。戦車前へ!」
リーンの命令一下、ラミルがギアを入れて新車両を進める。
「目標、本隊前面の敵部隊。全速前進!」
ラミルが増速しつつ進路を右側中央寄りへ向ける。
キューポラから半身を乗り出し双眼鏡を構えるリーンが振り返ると、
斜め後方に続く同型の3両が一糸乱れぬ隊形を維持して付いて来る。
「さすがバスクッチの小隊ね、大したものだわ」
3両でパンツァーカイル隊形を組む小隊の足並みに感心して、
先頭車両で指揮を執るバスクッチに視線を向けた。
「あ、いけない。戦闘中だった。前方を警戒しなくっちゃ・・・」
見詰めたバスクッチに手で合図を送られて、慌てて前方警戒に戻るリーン。
「また教官に怒られるかな。戦闘中よそ見するなって」
リーンの記憶に居る懐かしい男。
任官して配属された時からずっと軍のイロハを教えてくれた頼りになる兄とも呼べる存在。
今、彼が傍に居てくれると思うだけで力強く感じてしまう。
手を胸のネックレスに当てて秘かに心を熱くするリーン。
((チョンチョン))
足をミハルにコツかれている。
「?」
ミハルを覗くと・・・
「ニッ!」
にこっと笑うミハルの顔が見える。
ー ああ、そうか。
ミハルもみんなも同じなんだ。
バスクッチが居てくれるのがやっぱり心強いんだな・・・
「みんな、一コト言っていい?あげないからね、ウォーリアは」
キャミーがブスリと呟く。
「あはは、ケチ!」
ラミルが大笑いして冷やかした。
ー これが今から死闘を始める車内の中なのだろうか。
頼りになる人が傍に居てくれるというだけで、
こんなにも力強く感じられるなんて!
リーンがバスクッチに心の中で感謝する。
「私、もっと強くならなきゃ。みんなから頼られる存在にならなきゃ!」
ポツリと呟いて前方を見据えるリーンの瞳に砲煙が映る。
その煙の向こうに胡麻粒程の車両が現れた。
「敵戦車確認!
右舷前方1時、軽戦車らしき物約30両。後方に別の部隊がいるわ!」
リーンが双眼鏡の倍率を更に上げて観測を続ける。
「砲撃準備、目標右舷前方距離5000。
徹甲弾装填っ!ミリア、ミハル当てなくてもいいから奴等に回避運動をさせて。
あの数で突っ込まれたらこっちが掻き回されてしまうわ!」
真っ直ぐ突撃してくる敵軽戦車部隊に牽制の射撃命令を下すリーンに応じて、
「了解!先輩徹甲弾装填完了!」
ミリアが直ぐ様弾を込めて射撃準備を進める。
「よしっ、先ずは砲の性能を確かめる為に一発撃ってみるからっ!」
ミハルは射撃諸元を合わせ、照準器を睨む。
ー 距離4000で一発撃とう。それでこの砲の癖を調べてみよう・・・
照準器の中で揺れる敵部隊に砲を旋回させる。
((ギュルルッ))
かなりの速さで砲塔が旋回したので、目標を捉え損ねたミハルは慌てて調整する。
ー 早い!前のマチハの数倍の旋回性能だ。
これなら近寄られても対応可能だし、
以前の魔鋼騎状態と何ら変わらない。凄い車体だな!
目標の軽戦車部隊に照準を合わせてから、
「距離4000で射撃します。目標、中央に居るM3シュチュアート!」
ミハルが射撃準備を終え、リーンに目標を伝える。
「よし、攻撃始め。キャミー、バスクッチに牽制の射撃を行うと伝えて!」
命令を受けてミハルは照準器を睨む。
ー 牽制とはいえ、砲の性能を調べたい。
真っ直ぐ此方に向って来ているから直接照準で・・・
頭上を通過させない様に注意して。やや前を狙って・・・
8倍望遠の照準器に突出しているM3軽戦車を捉え続ける。
「よし、停車!射撃開始!
目標M3軽戦車、徹甲弾射撃。距離4000、直接照準、撃てっ!」
((チッ))
停車し、揺れが収まるのを待ってミハルはトリガーを引く。
((グオオオーンッ ガシャッ))
射撃音が轟き、弾が飛ぶ。
照準器の中で弾を追うミハルの目が着弾点を確認すると、目標の軽戦車の左側に砂煙が上がった。
ー 狙いより僅かに左へ流れた・・・
照準器から目を離さず微調整する為、右側のダイヤルを少しだけ動かして十字線の位置をずらした。
ー それにしてもこの砲はいいな。
まるで前の魔鋼騎状態となんら変わらない。
これなら徹甲弾だけでも十分闘えるかもしれないな・・・
「ミハル、どう砲の調子は?」
リーンが調整を行っているミハルに訊いた。
「うん、いいよ凄く良い。気に入ったよ!」
照準器を睨みながら答えるミハルの姿にほっとしたリーンが答える。
「そっか、ミハルがそう言うなら安心したわ!」
((ズッドーンッズドーン ズドーン))
間近で砲声が3発起こり、赤い曳光弾が敵に向って飛んで行った。
「バスクッチ小隊、発砲!」
ラミルの声でリーンは前方の軽戦車を見る。
赤い曳光弾が敵部隊に吸い込まれ・・・
「あっ!この距離で!?一両撃破!」
4000メートルもの距離から足の速い軽戦車に見事命中させたのは。
「アルミーア、やるじゃない!」
リーンがバスクッチ少尉の車体を見て唸った。
ー やるね。さすがアルミーア!
ふっと息を吐き心の中で友を褒めるミハルが、
照準器の中で散開する敵部隊を確認すると。
「リーン中尉、次発はどうします?まだ軽戦車を撃ちますか?」
ミハルが射撃目標の確認を訊ねる。
「いいえ。私達の目標が近付いて来ているわ!」
リーンの鋭い声に照準器の中を確認する。
軽戦車の奥から現れた車体。
「これからが勝負よ。中戦車の相手は中戦車。目標敵M4。戦車前へ!」
リーンの命令を受けてラミルがアクセルを踏み込む。
「敵軽戦車隊に味方軽戦車隊が突入!」
側面スリットから観測報告を入れるミリアが叫ぶ。
「軽戦車隊が攻撃開始!撃ち合いが始まりましたっ!」
双方の部隊が再び相まみえ、戦闘の第2ラウンドの幕が切って落とされた。
200対130の闘いが・・・
ー 昨日までとは違う。
そう、昨日までの私じゃない。
今日からは何も畏れるものはないもの。
ミハルに教えて貰ったから。そして約束したから。
絶対に護ってみせるよミハル。あなたを・・・
アルミーアは近付いて来る敵を睨みながらそう考える。
ー 今日は今迄と違う。
だって仲間が一緒だもの。
大切な人達が一緒に闘ってくれるんだもの。
私達だけじゃないって教えてくれて、私達と同じ魔鋼騎で闘ってくれるのはあなた。
そうだよねアルミーア。
一緒に護ろうね、みんなを。大切な約束を!
ミハルの瞳に闘う意思が宿る。
今迄一人で苦しんで来た闘いの辛さ悲しさに、友と共に打ち勝つ。
その新たな闘志がミハルの心に宿った・・・
自分達の相手は敵中戦車部隊だと決めていたリーン達の前に現れたM4型中戦車。
そして、彼らの後ろから現れるのは・・・
次回 目標敵中戦車M4
君は自ら死地へ飛び込む勇気が有りますか?





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