魔鋼騎戦記フェアリア第2章エレニア大戦車戦Ep3エレニア平原Act20出撃!戦車前へ
車両に近づくと傍にはミリアが羨ましげな顔で突っ立っている。
「いいなあ。キャミーさんは、我が小隊で唯一のお嫁さんになるんですねぇ」
ミリアが本気で羨ましがって呟いていると、
「ほらほら、突っ立っていないで乗車しなさい。各部のチェックに掛かるわよ!」
リーンが始動前点検を命じる。
「初搭乗になるんだから、入念にチェックする事。特に75ミリ砲弾の扱いに注意しなさい!」
ミリアに注意し、自分もキューポラに入る。
一足先に乗り込んで砲と照準器のチェックをしているミハルに呼びかけた。
「どう?何か不具合はあった?」
覗き込んで声を掛けて来たリーンに、
「いいえ。不具合どころか。
これって昨日までの変形後のマチハと同じなので・・・ビックリしてます」
見上げるミハルは驚いていた。
「そうね。外観はどうか解らないけど、各部が殆ど変わらないわね」
リーンがヘッドフォンとマイクロフォンを着けながら車内を見回す。
「はい。操縦装置も全く同じです!」
ラミルも何ら不自然じゃない感じを受けている。
「でも、ミハル先輩。これで魔鋼騎に変化したらどうなるのでしょうか?」
ミハルに質問するミリアが魔鋼機械作動ボタンが付いているのを確認して訊いた。
「うーん。どうだろう?やってみないと解らないけど、前よりは性能が上がればいいね」
ミハルが小首を傾げて肩をすぼめて応える。
「あのアルミーア軍曹でさえ、昨日みたいな車両になれたんですから。
もっと凄い変化があるのではないでしょうか?」
ミリアが昨日助けてくれた魔鋼騎状態のバスクッチ少尉の乗る車両を思い出してリーンとミハルに言う。
「どうかな?そうであればいいけどねミリア」
リーンが期待するなとミリアに注意する。
「それよりミリア。75ミリ弾の装填を頼むよ。
これからはずっと75ミリになるんだからね。疲れてヘバらないようにね」
相当に激しい闘いになる事を予想してミハルが心配して言う。
「はい、頑張ります。私も全力で勤めますので、どんどん撃って下さいっ!」
ミハルの優しい心使いに感動して、瞳を大きく見開いて頷くミリアに横槍が入る。
「おーい、ミリア。皇国一の装填手になるんだろ。それ位でヘバれないよな?」
ラミルが笑って茶々を入れる。
「はいっ当然です!この車両の全弾を撃ち尽くしたってへっちゃらです!」
ガッツポーズを決めてミリアが応じた。
「ははは。全弾って。何発撃たせるつもりよ?」
ミハルが苦笑いして訊くと、砲弾数が書かれたメモを取り出すと、
「えっと、今回搭載してあるのが徹甲弾32発と、
魔鋼弾24発に榴弾が4発・・・合わせて60発ですね!」
ミリアがメモを調べて答える。
「・・・ミリア、私を殺す気?」
ミハルがとても全弾なんて撃てないと呆れる。
「いいえ!先輩なら全弾を撃ち尽くすと、心の準備は怠りませんから!」
「・・・ミリア、還ったらお仕置きするからね・・・」
ミハルが振り返ってミリアをジト目で見て言った。
そこで漸くキャミーが無線手席に入って来てくると。
「遅れてすみません。
司令部からの伝令に手間取りました。中尉、秘密命令ですよ・・・これを!」
キャミーがメモを手渡しでリーンに回す。
ミリアの手を介して受け取り、メモを読んだリーンの顔がパッと明るくなった。
「リーン中尉、なんて書いてあるのですか?」
ミハルが明るい表情のリーンに訊く。
「うん。この戦闘を終えると休暇が貰えるって!」
リーンがメモを見詰めながら答える。
「は?休暇・・・ですか?」
皆があっけに取られて聞き返す。
「はははっ。それは単なる前振りよ。
本文にはね、
<<本師団は無電の故障により中央軍司令部の命令を受けられず。
独自の判断にて攻撃す>>
これより我が師団は・・・
[エレニア前方の敵戦車部隊と決戦を挑み、これを撃破せんとす!]
・・・だって!」
リーンがメモを読み終えると皆の顔がパッと華やいだ。
「やった!これで犬死は無くなった。
無駄に市街地へ突入する必要がなくなったんだ!」
ラミルが小躍りして喜んだ。
「やりましたね先輩。これで生きて還れる公算が立ちましたよ。万歳っ!」
ミリアがミハルに満面の笑みを浮かべて手を上げる。
「良かったね。師団長閣下も決断してくれたんだね。やっぱり部下が可愛いんだよね!」
ミハルが嬉し涙を浮かべて喜んだ。
「キャミー、ありがとう。良く伝えてくれました」
リーンがキャミーに労いの言葉を掛ける。
「いえ。あたしは伝令の言葉をメモした位ですから。
無線を使わず口頭で伝えて廻ってくれた司令部付きの伝令に言ってやってください。
それと、マルコ少将閣下に・・・全責任を被られる覚悟の師団長閣下に」
何時に無く毅然とした態度のキャミーが答えた。
ー キャミーさん、バスクッチ少尉と結婚すると決まって責任感が増したのかな。
それともこんな戦いを早く終えて結婚式を迎えたいのかな・・・いいなぁ・・・
何時に無くキリッとしたキャミーにミハルは微笑ましく思えてリーンに振り返ると。
「中尉、この闘いを乗り越えて、必ず還りましょう!」
決意を胸に、新たに誓った。
「うん。必ず生きて帰る。私達の想いは同じだから」
リーンが胸のネックレスに手を当てて応えた。
腕時計を見たリーンが、
「よし、時間よ。行こう・・・戦車前へ!」
時刻は5:50を指していた。戦闘開始は6:30。
ちょうど朝日が昇り始める頃。
まだ辺りは薄暗い中、ディーゼルエンジンの音だけが響き渡っている。
味方の4号と連れ立って配備点へと向う。
その中でリーン達の乗るMMT-6は、一際大きく目立つ車両だった。
師団本隊から離れた配備点に到着し、横一列に並んだ4両に他の車両からの視線が集まる。
「みんな見てますね。羨ましいのかな?」
ミリアがマイクロフォンを押えてミハルに訊く。
「どうかな。目立つって事は敵からも目立つ訳だから、案外可哀想って思われてるのかもよ?」
ミハルは砲手席で各ゲージの調整を行いながら答えた。
「おい、ミハル。アルミーア軍曹が何か言ってるぞ」
ラミルが左舷側に居るバスクッチ少尉の車両の砲手ハッチ上に居るアルミーアに気付いて声を掛けた。
なんだろうと思ったミハルも装填手ハッチを開いて上半身を出すと、
隣のハッチ上で此方を見ているアルミーアに訊いた。
「何かな?アルミーア!」
エンジン音に負けない様に大声で訊く。
「ミハルっ、今日はどっちが腕が上かの勝負よ。いい?」
アルミーアも大声で話し掛けて来る。
「勝負って・・・。そんな事どうやって測るの?
撃破数だ・・・なんて言わないでよね。
そんなので焦ったりしちゃあみんなに迷惑掛けるんだから」
ミハルが困って止めようとしたが、アルミーアは首を振ってから。
「あははっ、誰もそんな事言わないわよ。
私が言いたいのは、必ず皆を護って生きて還るって事よ。
誰も傷付かずに帰れた方が勝ち。
搭乗員全員が怪我もせずに帰れた方がこの勝負の勝者。いい?」
笑い掛けて生きて還る事を約束させようとするアルミーアにミハルの顔が微笑みを浮かべる。
「よーし、解った。この勝負受けて立つよ。
必ず守って見せるから。アルミーアも必ず護り切って帰って来てね!」
ミハルが手を振り約束する。
「ああ、必ず。必ず守るからミハルとの約束を!」
アルミーアも笑顔で手を振り別れを惜しんだ。
キューポラでミハルが車内へ戻るのを待っていたリーンも微笑んだ。
「さて、ミハル。旧友との勝負、絶対勝つわよ、引き分けも含んでね」
ウインクを投げ掛けて、ミハルに宣言した。
「ええ、勿論ですっ!みんなの力で!」
微笑むリーンに思いっきりの笑顔で応えるミハルに、ラミルもキャミーもミリアも頷いた。
双方の重砲が弾幕を展開する。
そして始まる。第2次攻撃・・・
今日の戦闘には恩師が一緒だと思うだけで心強かった。
次回 第2次攻撃開始
君はこの闘いに生き残る事が出来るか・・・





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