魔鋼騎戦記フェアリア第2章エレニア大戦車戦Ep3エレニア平原Act18作戦会議
3人娘達が仲を温め合っていると、バスクッチ少尉が声を掛けて来た。
3人に呼びかけてくる声が。
「おいっ、もういいかな、3人共?」
振り返ると、バスクッチ少尉を始め皆が3人を見ていた。
「リーン中尉、明日の戦闘の打ち合わせがしたいのですが、宜しいでしょうか?」
バスクッチ少尉が笑いながらリーンに言った。
「ええ、判ったわ、行きましょう」
リーンが頷いて歩み寄ると後ろに控えている二人にも。
「ミハル、アミーも一緒に来てくれ」
バスクッチは手招きした。
ミハルはそっとアルミーアの手を繋いで微笑み掛ける。
その微笑に頷いて2人は暫くの間、お互いの手の温もりを感じ合っていた。
バスクッチ少尉が率いる特別小隊3両が陣取る野営テントの中へ皆が集まる。
「明日の作戦計画を話す。中尉、この作戦に御意見があれば後でお話下さい」
そう切り出したバスクッチが机上の地図を指して説明を始める。
「まず我が軍の一点集中攻撃で敵の状況が掴めた。
敵2個機甲師団約200両は、全てにおいて我が方に勝っている。
質、量共にだ。
だが、肝心の乗員は寄せ集めの新人が多い。
今日の戦いでも感じられたが、指揮官連中は命令に従って、硬直的な戦法しか採れないみたいだな。
そこが唯一の勝機でもあるのだが・・・」
一度話を打ち切ってリーンを見ると、リーンは手を差し出して話を進めろと促す。
「そこでだ、我々は敵のこうした実情を知った上で戦うにはどうすればいいか。
オレはこう思うんだ、型に嵌った撃ち合いはせず、
常に臨機応変に動き回って敵の指揮系統を撹乱し穴を穿つ。
そこに全力を突っ込ませる。
これは言うが安いが、敵の出方によっては失敗するかも解らんのだが・・・
どうです、リーン中尉?」
バスクッチは話し終わり、リーンに意見を求める。
「うーん。敵の出方次第って処が不確定だけど。
味方の一点集中作戦をどう誘導するか・・・だよね。
私達4両だけでは戦争にならないもの」
リーンは手を顎に当てて考える。
「ラミル、味方の残存戦力は?」
一度顔を上げてラミルに質問する。
「はい、今晩中に使用可能になる車両を含めて130両程と思われます。
内重戦車12両、中戦車78両、軽戦車40両程です」
ラミルが整備班から貰ったメモを見て報告する。
「200対130・・・戦力ではかなり不利ね。
それを跳ね返すには確かに作戦が重要ね。
それで具体的にはどうする気なの?」
リーンは再びバスクッチに訊く。
「ええ。
我々の本陣が再び真正面から攻撃を始めれば、
敵も今日と同じ様に包囲作戦でくるものと思われます。
当然敵も主力を左右どちらかに振り向けて包囲に全力を注いでくるでしょう。
今日我々が叩いた左側の部隊のように。
明日はきっとより強力な部隊を差し向けて来るものと考えられます。そこで・・・」
一度話を打ち切って皆の顔をゆっくり眺めてから、
「そこで我々も明日は左に行くと見せかけて、
あえて正面攻撃に加わり、先頭を切って敵陣に突っ込もうと考えます!」
その意見に全員が顔色を変える。
ー 無茶だ・・・
皆が皆、そう思ったに違いない。
しかし・・・
「あっはっはっはっ、少尉!いいわそれ。気に入ったわ。さすが私の教官様ね!」
リーンが大笑いして認める。
「敵を騙し、味方も騙す。
師団司令部も真っ青ね、その報告を受ける中央軍司令部も」
ニヤリと笑うリーンがバスクッチの計画を認め。
「敵の主力を後方にやり過ごして、その内に敵の本陣を突く。そうね、バスクッチ!」
リーンの言葉に頷くと。
「そうです、中尉。奴等に一泡吹かせてやりましょう!」
奴等と言う所を強調したバスクッチがニヤリと笑った。
その意味は敵に向けられたというよりも師団司令部に、
そして中央軍司令部に居て兵の命を虫けらの様に思っている者達に対して向けられた事は誰にでも解った。
ー 少尉。あなたには頭があがりません。
やっぱりバスクッチ少尉は私達の教官です!
ミハルは憧れる様に瞳を輝かせて少尉を見詰める。
「あげないからね、ミハル。ウォーリアは・・・」
耳元でこそっとミハルに言ったキャミーが微笑んだ。
「う。キャミーさんのけちんぼ」
ミハルもキャミーに小声で返す。
「少尉、宜しいでしょうか?」
アルミーア軍曹が片手を挙げて質問する。
「なんだ、アミー?」
皆が質問するアルミーアに視線を注ぐ中、バスクッチが促す。
「はい。我々4両で先陣を切るのは解りましたが、
敵の新型重戦車がどこに配備されているのかが問題です。
その実力も完全に知られていない実情で、突っ込むのは危険だと判断するのですが」
アルミーアが始めて発見された未知の重戦車を警戒して発言した。
「それはそうだ。相手の実力が解らない現在、我々の砲で打ち破れるか解らんのだからな。
だが、我々の車両も敵は知らない訳だ。
超遠距離からM4の装甲を撃ち抜ける事だけは知った筈だから、
もし我々を見て前に出て来ないならば装甲は大した事はない筈だ。
逆に近寄って来るのならば我々は警戒せねばならない。
我々の砲では撃ち抜けない装甲を持っている可能性があるのだから」
バスクッチ少尉の説明に納得したのかアルミーアが。
「小隊長の考えに同意します。
奴等がどれ程の実力を持っているか、私が試してやりますよ」
そう言って腕を挙げて力瘤を撫でた。
「他に質問は有るか?」
少尉が皆を見回して訊くが、皆は頷くだけで質問は無かった。
「よし。明日は5:00に出撃用意に掛かる。
それまでゆっくり身体を休めておけ。宜しいですか中尉?」
バスクッチがリーンに解散していいか訊ねる。
リーンはバスクッチに頷いて認めた。
「それでは解散。食事後早めに休めよ」
バスクッチの号令に敬礼して解散する両小隊隊員達がテントを出て行く。
「アミー、良かったな。あ、そうか。アルミーアと呼んだ方がいいかな?」
優しい声で微笑むバスクッチが出て行こうとしていたアルミーアを引き止めた。
「はい。覚えててくれたんですね、小隊長」
明るく笑顔で答えるアルミーアを見詰めて。
「ミハルの顔を叩いて仲を戻すなんて、やっぱりお前は魔女だよ。流石オレの砲手様だな」
「見ておられたんですか小隊長。人が悪いです」
照れて顔を赤くしたアルミーアがちょっと咎める。
「はははっ、最初は止めようと思ったんだがな。
お前の気持ちをミハルが感じ取れればと考えて、あえて止めなかったんだ」
テントの中にまだ残っているリーンとミハルを見てニヤリと笑う。
「なあ、ミハル。アルミーアはずっと気に病んでいたんだ。
オレの小隊に来た時に言ったんだ。
この名は呼ぶなと。アルミーアと呼んで善いのはミハルだけだと」
バスクッチとアルミーアの記憶に初めて出会った時の事が甦る。
「軍曹はどうして自分をアミーと呼ばせるんだ?
皆が不思議がっているのだがな。訳を教えてくれないか?」
バスクッチが砲手席で自分を見上げるアルミーアに訊く。
「車長。私は謝らなくてはいけない人が居るのです。
ずっと許して貰えていない人に。
その人と出会って許して貰えるまではアミーで通したいのです。
勝手な願掛けで申し訳無いのですが」
「で?
その人は近くに居るのか?何時までアミーを名乗っているつもりなんだ。
早く許して貰える様に話し合ったらどうだ?」
バスクッチがため息を吐いて訊くと、
「その人も砲術学校を出て、多分私と同じ砲手として活躍していると思います。
だって、その娘も魔鋼の力を秘めているから・・・」
アルミーアが自信なさげに呟いた。
「お前の同期でか?
確かに魔鋼の力があるのか、その人には・・・その人の名はなんていうんだ?」
バスクッチの瞳がアルミーアに訊ねた。
ある娘の名を思い起こして。
「少尉が知っておられる訳無いと思うのですが・・・
その人の名は・・・シマダ。シマダ・ミハルって言うのです」
伏せ目がちにアルミーアが答えると突然。
「わっはっはっはっ!」
突然目の前のバスクッチが笑い出した。
「?」
笑う少尉に怪訝そうな顔をして見上げると。
「世間は狭いものだな、アミー。
その娘を小さい時から知っていると言ったらどうする?」
笑いながらアミーに教えた。
「え?ええっ?少尉はミハルの事を知っておられるのですか?」
驚きながら信じられないような顔でアミーは訊く。
「知っているとも、この国へ来た日からな。
あの親子の事をオレは知っているのさ。それに、彼女の居場所もな!」
ウインクをアミーに投げ掛け。
「今、彼女はオレの教え子の元に居る。
オレの信じる姫の元で砲手を務めているのさ。
アミーが言った通り彼女は、ミハルは魔鋼騎乗りとしてな」
その一言でアミーの瞳は大きく見開かれる。
「ミハルがっ!?やっぱりミハルは魔鋼騎乗りに、砲手になっていたんですね。
それで少尉、彼女は今何処に?」
思わず身体を乗り出して訊くアミーに手で制してから。
「慌てるなアミー、もうすぐだ。もう直ぐ会えるさ。
この戦車の試験が終ればユーリ大尉が命じられるさ。
第97小隊の元へ行けと。リーン姫の元へ行けと。
その時アミーは戻れるさアルミーアに。
ミハルに会って、許されて・・・」
笑ってアミーに言うバスクッチに、
「はいっ!アルミーアと笑顔で言ってもらいたいです少尉!」
微笑んでアミーは頷いた。
「アルミーア、良かった。また信じ合える仲に戻れて」
ミハルが嬉しそうに微笑むと、
「小隊長、バラさないで下さい。恥ずかしいですから・・・」
アルミーアが口を尖らせて咎める。
「はははっ、もういいだろう仲直りしたのなら。
それに今のアルミーアは闇から解放された様に明るい表情を見せているしな」
バスクッチは全てを見抜いている。
ミハルに出会う事でアルミーアが闇の心から解放されるのを知っていたかのように。
「小隊長・・・なにもかも解っておられたのですか?」
大きく見開いた瞳で信頼する上官に訊いた。
フッと息を吐いて頷くバスクッチに尊敬と信頼の念を顕わにした瞳で見詰める。
「やっぱり小隊長には敵いませんね。
私、この小隊へ配属された事を今程嬉しく思った事はありません」
感謝と感動が入り混じった表情を浮かべてアルミーアは微笑んだ。
「そうかい?じゃあ、オレとキャミーの事も認めてくれるよな?」
そう言って笑うバスクッチ少尉へ。
「いいえ。それは別です。今やっぱり思ったんです。
少尉に憧れていると、男の人と付合うなら小隊長が理想の人なんだなって・・・
だから私、小隊長を諦めきれません。
キャミーさんとちゃんと結婚してあげてくれない限り」
笑顔のバスクッチに笑顔で応えるアルミーアが諦め切れないと言いながら、
二人が結婚する事を望んでいると、キャミーを認めている事を告げた。
「もう、アルミーアは素直じゃないんだから」
横で話を聞いていたミハルが肘でコツいた。
「えへへ。こうでも言わないと小隊長はニブイから、女の子にはね」
ミハルに振り向いて話した訳を言って笑う。
「ふぇ。流石アルミーア。見直しました、はい」
手をポンと叩いて納得したミハルも同意する。
「はははっ、これは一本取られたな」
バスクッチの一言で皆が笑った。
「バスクッチ、どうなのよ。キャミーにちゃんと言ってるの?
あまり待たせちゃあ駄目よ。私の無線手様なんだからね」
笑いながらリーンもそうなる事を願っている。
「いや、姫。姫からそんな言葉を頂くとは。参りましたね」
頭に手を置いて恥ずかしがるバスクッチに2人も加わる。
「そうですよ少尉。キャミーさんもちゃんと言って欲しいに決まってます。
指輪だけじゃなくて、ちゃんとした言葉で!」
ミハルがやけに大人びた事を言ったので・・・
「おっ?なんだミハル、誰かに告白したのか?
それともされたのか?そんな事を言えるというのは?」
バスクッチに追求されてミハルとリーンが赤くなる。
「ははーん・・・」
2人の顔を見比べて、ニヤッと笑ったバスクッチが。
「まあ、判ったよミハル。
明日の戦闘の前に、キャミーに言うさ。次の休暇に式を挙げようってな」
「えっ!ええっ!?本当ですかっ!」
3人が声をハモらせて驚く。
「なんだ?オレ・・・変な事を言ったか?」
大きな声で聞き直されたバスクッチが、その反応に戸惑う。
「いえいえー。本人が聞いたらさぞ喜ぶかと!」
「バスクッチ!それ本当だよね?」
「あああっ!しまったぁ。そんなに早くだなんてっ!」
3人3様。
バスクッチ少尉の決断に舞い上がる3人娘達だった・・・
次の日の朝、まだ日の昇る前。
この日闘う者達が集う。
第97小隊とバスクッチ少尉が率いる特別小隊はリーン中尉の指揮の元、出撃準備に掛かる。
次回 攻撃の前に話しておこう
君は信頼する人から教わる、闘う理由を・・・





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