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魔鋼騎戦記フェアリア  作者: さば・ノーブ
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魔鋼騎戦記フェアリア第2章エレニア大戦車戦Ep3エレニア平原Act13裂かれた仲

ミハルの記憶の中で、あの理不尽な出来事が甦る。

能力者検査・・・

その結果にミハルとアルミーアに溝が出来てしまう。

二日後の検査をアルミーアは受ける事が出来た。


その結果は・・・



「私っ私が陽性!?本当ですか?」


アルミーアが検査官に聞き返す。


「レベル2だ。おめでとう、君には砲術科学校への進学が決定された。

 下士官となり軍務に付いて貰うことになる」


検査官は書類に判子を押して差し出す。


「次の生徒!」


検査官が次の順番のミハルを呼ぶ。

アルミーアがミハルにウインクして立ち上がる。


「君、名前と書類を出しなさい」


アルミーアは検査室から出るのを立ち止まって検査官とミハルの様子を伺った。


差し出された書類を受け取った検査官が名前を言おうとしたミハルに鋭い目を向けると、

ミハルはその瞳に身体を竦めてしまった。


「ミハル・シマダ14歳、いや、もう15歳だな?」


書類に眼を通した検査官が有無を言わせぬ声で確かめる。


「え?あ、はい、そうです」


じっと見据えた検査官が一声だけ言った。


「もういい。君は検査の必要がない。戻りたまえ!」


そして、書類を返さず自分の机に置いてしまった。


「え・・・あの、どうしてですか?」


ミハルが訳も判らず、どうしてなのかと訊こうとしたが。


「よし、次の生徒!」


検査官はミハルを無視して次の生徒を呼ぶ。


あまりの理不尽な仕打ちにアルミーアの方が驚く。

何がこの検査官にあったのか解らないが咄嗟にアルミーアの身体はミハルに向って走っていた。


ミハルの手を掴んだアルミーアが自分がした様に検査用魔法石にミハルの手を触れさせる。


「何をするんだ君!」


検査官が怒鳴ってアルミーアを叩いた。


「ア、アルミーア。どうしてこんな事を!?」


叩き飛ばされて床に投げ出されたアルミーアを起そうとミハルが手を伸ばす。


その時アルミーアは見た。

ミハルの瞳の色が変わっていたのを。

自分よりもっとはっきりと青く変色していたのを。





「ねえ、アルミーア。どうしてあんな事をしたの?」


ミハルがお茶をカップに注いで持ってくる。

叩かれたほほを水で濡らしたハンカチで冷やすアルミーアが言葉も荒く答える。


「あんないい加減な検査をするからよ。

 何よ書類を見ただけでもういいって。

 私も前の生徒にも検査機械で調べたくせに。

 ミハルだけ書類で、はいお終いって。

 腹が立って、それで・・・ね」


手渡されたカップを受け取り一口飲むと。


「ミハル、もう一度検査を受けなさいよ。

 あんないい加減な検査官じゃなくて、ちゃんと調べてくれる人に調べてもらいなさいよ!」


強い口調でミハルに言った。

ミハルも理不尽な検査に納得がいかなかった。


「うん、解った。申請書を送るから」


ミハルも同意し、申請書を学校側に提出したが・・・




「何故です!ミハルの申請が拒否されたのは、何故なんですっ!」


アルミーアが教官に怒鳴る。


「そんな訳など私には解らん。文句があるのなら国に言いたまえ」


取り付く暇など無く教官は立ち去って行った。


「なんで?どうして?

 ミハルには私以上の能力がきっと有るというのに・・・」


悔し涙を零すアルミーアに寄り添うと。


「もういいよ、アルミーア。私には能力なんて無いんだから」


ミハルが諦め顔でアルミーアの肩に手を添える。


「ミハルっ、あなたはいいの?私と一緒に居られなくてもっ!」


アルミーアが怒ったままの顔で振り返る。


「だって・・・検査を受けさせて貰えないのなら、諦めないと・・・」


ミハルが困って顔を背けてしまう。


「私には解るの。ミハルには私以上の能力が有るのが。

 私は見たのよ、ミハルの瞳の色が変わったのを。

 なのにっ、何で誰も判らないのっ!」


アルミーアは肩に置かれたミハルの手を掴むと懇願するように言う。


「もう一度、もう一度申請書を出そう。ね、ミハルっ?」


だが、顔を背けたミハルは小声で答える。


「もう・・・駄目だよ。

 教官に怒られたんだ・・・しつこいって。

 もう取り合わないって・・・ごめんなさい」


アルミーアの瞳が絶望に染まる。


「どうして?どうしてミハルは諦めてしまえるの?

 私がこんなに望んでいるのに。

 どうしてそんなに簡単に諦められるの?

 ・・・悔しい、悔しいよ!」


顔を背けたアルミーアの責めに耐えるミハルは、何も言わずに俯いていた。


「解った、ミハルは私から離れても平気なんだ。

 私の存在なんてそんな物だったんだ。

 もういいわ、もう知らないからっ、ミハルなんて。

 私の気持ちを解ろうともしないミハルなんて嫌いよ。大嫌いっ!」


アルミーアは泣きながらミハルを突き飛ばして走り去る。


「あっ!待ってアルミーア。お願いっ!待って!」


指し伸ばす手でアルミーアの後姿を求めるミハルはこの時、諦める事の恐さを初めて知った。



その日以来、アルミーアはミハルを無視する様になった。

部屋さえも換えて貰い、話す事も出来なくなった。

更に事あるごとにミハルに対して意地悪をする様にまでなっていった。




その後の半年間にミハルに起きた事は、まるで悪夢のようだった。


両親が事故で行方不明になり事故死と判断され、

故郷のヤポンに帰ることも出来ず、そして戦争が始まった。

ミハルは国に助けを求め弟の身を保障する代わりに軍に入る事となった。


その入隊式の後で・・・


「ミハル姉ちゃんお願いだよ、必ず還って来るって約束してよ。

 僕と一緒にヤポンに帰ろうよ。父さん母さんの故郷に帰ろうよ」


泣きながらしがみ付いてくるマモルの頭に手を置いて答える。


「うん、約束するから。もう泣き止むんだよマモル。

 必ずマモルの元へ帰って来るからね。お姉ちゃんが護ってあげるからね」


マモルが差し出す小指に、そっと自分も併せる。


「マモルとの約束、必ず果すからね。

 一人で寂しくても辛くても我慢するんだよ、いいね?」


ミハルがマモルに微笑んで言い聞かせていると、横に士官伍長補の制服を着た銀髪の少女が来た。


「あらあら。

 美しい姉弟愛だこと。一兵卒がそんな約束が守れるかしらね」


アルミーアが高飛車な言い振りでミハルを見下した。


「アルミーア・・・」


ミハルが名を呼ぶと、制服を着たアルミーアがいきなり大声で叱りつける。


「ここはもう軍隊なのよ、ミハルっ!

 上官に向って呼び捨てに出来るのは娑婆に居る時だけよシマダ二等兵!」


アルミーアの瞳は昔の面影は少しも残っていない。


「す、すみませんアルミーア伍長補殿」


姿勢を正し、なるべく大きな声で謝る。


「ふん、せいぜい頑張る事ね。

 砲術科へ進んでも兵が砲手になれるのは余程の腕がないと務められないわ。

 じゃあね、さよならミハル二等兵!」


忠告を残し、踵を返してアルミーアは去って行った。


その後姿を見送るミハルの瞳には、寂しさと悲しさの色が涙と共に流れ出ていた。


記憶の中でアルミーアは離れて行った。

砲術学校を出て、実戦部隊に配属されてから1年近い日が経った今、そのアルミーアが目の前に居る。

ミハルも数々の経験を経て昔とは違っていた。

そう、あの頃とは・・・


次回 リーンのジェラシー


君は愛する人の自分が知らない過去が気になりますか?

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