魔鋼騎戦記フェアリア第2章エレニア大戦車戦Ep3エレニア平原Act11思い出の中で
アミー軍曹の前で、過去の思い出に記憶を辿るミハル。
そこには懐かしく温かい彼女の記憶があった。
目の前に居るアミーと呼ばせる軍曹ではない、同級生アルミーアの優しい顔が・・・。
当時、フェアリア皇国は初夏を迎えていた。
新学期も始りを告げ、新入生達も漸く学校に慣れ始めた頃・・・
「あ、あの。宜しくお願いします。私、島田美春って言います」
頭をペコリと下げてお辞儀するミハルを横目で見た、
銀髪をショートカットに切りそろえた少女が碧い目を瞬かせた。
「わあ、可愛いっ。まるでお人形さんみたいだね、この娘!」
「ほんと、ほんと!
黒髪の娘って始めて見た、綺麗な髪ね。ストレートでさらっとしてて!」
学生寮の広間に入るとミハルの周りに女子が集まって来た。
「あ、あの。宜しくお願いします・・・」
面食らったミハルがモジモジして周りからやいのやいの言われて困ってしまっていた。
「あはは、顔赤くしちゃって。恥ずかし屋さんなんだね。シマダさんは!」
皆がジロジロと見詰めるので顔を赤くして恥ずかしがっていたミハルに助け舟が。
「ちょっと、あなた達!嫌がってるじゃない。
そんなに囲んでジロジロ見ていたら初めての娘だったら困ってしまうに決まってるでしょ。
さっ、こっちへ来て!」
アルミーアが手を掴んで奥の席へ案内する。
「初めましてシマダさん。私はアルミーア、宜しくね!」
アルミーアが手を差し出して握手を求めて来た。
「は、はい。こちらこそ宜しくお願いします!」
手を握ったミハルが頭を下げる。
「あの、ありがとう。アルミーアさん」
お礼を言って微笑みかえけると。
「あ、うん。どうってことないよ。
えっと、ミハル?・・・ミハルでいいよね呼び方は?」
かえってアルミーアの方が顔を赤くしてドギマギして答えた。
普通科の学校から軍が出資する全寮制の幼年学校に編入されて初めての寮生活を送ろうとしていた。
2名一室の部屋へ案内されると其処には・・・
「ほーんと、ミハルとは運命の出会いだったのね。
まさか同室になるなんて思わなかったわ!」
たまたま同室となったのがアルミーアだった。
明るく迎えてくれたアルミーアに照れながら、
「私も・・・でも、アルミーアさんでよかったです。優しい人がルームメイトで」
ミハルが微笑んで頭を下げた。
「うん。これから2年間、仲良くしようね?」
改めて握手を求めてくるアルミーアに。
「はい。勿論です、喜んで!」
差し出された手を握り微笑むミハルが其処には居た。
夏が終わろうとする初秋の頃・・・
「え?ミハルのお父さんお母さんはヤポンの技術技官なの?
それじゃあミハルはヤポンに帰ってしまうの?」
アルミーアが驚いた様に聞き返してくる。
編入から半年位たった頃の事だった。
自室へ戻った二人が身内の話をポツポツと話し合っていると、
ミハルの両親について話したミハルに、アルミーアが顔を上げて訊ね返した。
「じゃあミハルはフェアリアにずっと居る訳じゃあないの?」
「えっと。それは判らないよ。
永住権もあるし、国籍もあるから。お父さんの仕事次第じゃないかな?」
ミハルが小首を傾げてアルミーアに答えた。
「ええっ、そうなんだ。
お父さんの仕事次第ってことは、もしかしたら途中退校も有得るの?」
アルミーアの瞳が曇ってしまう。
「う、うん。もしかしたら・・・だけどね?」
瞳を曇らすアルミーアに不確かな返事を返してしまったミハルは、しまったと思った。
何故なら・・・
((ドサッ))
突然、アルミーアがミハルをベットに押し倒した。
「嫌だ、嫌だよミハル。ミハルと別れるなんて嫌!」
思いっきり抱きつかれたミハルが驚きの声をあげる。
「あ、アルミーア。ちょっと、どうしたの?」
ミハルが抱締めてくるアルミーアの顔を見上げて訊く。
「ミハル、帰らないで。私と一緒に居てよ。・・・お願い!」
ミハルの耳元に唇を寄せて、呟く様に願う。
「えっ、まだ帰るかもどうかも判らないから。ね、落ち着いて?!」
ー アルミーア?どうしてそんなに息が荒いの?
ミハルが耳元で荒い息をしているアルミーアに離して貰える様に手を軽く肩へ添えた時。
「駄目っ、離さない。ミハルを離さないっ、ミハルは私のものなの!」
ー え?私のものって・・・?
ミハルの耳に甘い言葉を吐くアルミーアが、
赤く紅潮した顔をもっとミハルに寄せて息を吹き掛ける。
「ふあっ!」
ー ひゃあっ、耳だけじゃあなく身体全体がビクッてしたぁ?!
身体をビクンと反り返し、驚いた様な声をあげるミハル。
「ミハル、好き。好きなの!あなたの事を愛しているの!」
耳元で呟きながら首筋にキスをするアルミーア。
「ひゃんっ、アルミーア駄目。や、やめっ、やめて・・・」
ー こんなの・・・女の子同志なのに。
くすぐったいような、気持ちいい・・ような。
・・・あたしノーマルなのに・・・抗えないよぉっ?!
訳が判らず混乱するミハルに求め続けるアルミーアが、その白い首筋に舌を這わす。
「ひっ!ア、アルミーア。駄目っ、駄目ぇっ!」
ー ひゃああっ、ゾクゾクしちゃう。なにがなんだか訳判んないっ!
身体を弓なりに反らすミハルが必死に抗うが、アルミーアの責めに次第に力が抜けてゆく。
ー もう駄目・・・頭の芯が、呆ってしちゃって・・・
何も考えられなくなってきた・・・
「はーっ、はーっ、はあっ。アルミーア・・・もう・・許してぇ」
か細い声で許しを請う赤い顔をしたミハルに、
起き上がったアルミーアがほくそ笑んで唇を奪おうと顔を近付ける。
「あ?ア・・・アルミーア?」
呆然とアルミーアを潤んだ瞳で見るミハルにあと少しで触れるまでに近付いた時・・・
「「ビビーッ!学生諸子は至急広間へ集合せよ」」
寮内スピーカーがけたたましい音を立てて総員集合を命じた。
跳ね起きる様に身を起したアルミーアが慌てて上着を掴む。
ベットで呆然と力が抜けて起き上がれないミハルに手を貸すと。
「ミハル、総員呼集よ!早くっ!」
いまだに呆けているミハルを引き起こして上着を手渡すと。
「さあ!一緒に行こうっ!」
凛々しい瞳になってミハルの手を引いて走り出す。
「ふえぇ、ひゃいっ!」
アルミーアに曳かれて走り出すミハルは、全然呆けたままだった。
整列を終えた学生達に学校長の訓辞が始まる。
「本日20:00、本フェアリア皇国とロッソア帝国の国境地帯において、武力衝突が発生した。
事変は拡大するやもしれん。
両国政府の出方次第では戦争に突入する事も考え得る。
その時は諸君の中からも兵役に出なければいけない者も出よう。
皆はこの国難を十分理解して今後の行動に留意する様。終わり!」
校長が壇下に降りると、教頭の軍人教官を兼ねるファブリット少将がマイクを取って話し出した。
「諸君、いよいよ時が迫って来た。
今年も能力者検査を執り行う。
だが、時も時なれば本年は低学年の検査も執り行う。
よって上級下級の区別無く女子は検査を受けてもらう。
時期も例年より早められるものとする、以上だ。総員解散!」
教頭の号令で皆それぞれに自室へ戻っていく。
アルミーアとミハルは手を取って自室へと歩く。
周りの生徒達は戦争の話でもちきりだった。
皆が皆、事変の拡大を嫌がり拒んでいる。
「ねえ、ミハル。どう思う?」
アルミーアが心配そうに訊いてくる。
「戦争になんて・・・なって欲しくないね、アルミーア」
伏せ目がちにミハルがうな垂れる。
「ほんと。
戦争になんてなっちゃったら、来年には徴兵検査を受けさせられちゃうわ、私達も」
学校を卒業すると同時に軍隊へ入らされる男子を思ってため息を吐くアルミーア。
「どう思っているのかな、男の子って・・・」
ミハルも威勢の良い言葉を吐く男子達を見て本当の気持ちを知りたくなる。
「そりゃあ、男の子達だって戦争になんて行きたくないに決まっているわよ。
軍隊がどんな所かなんて教頭先生を見れば判っているに決まってるから」
アルミーアがファブリット教頭の恐ろしさに身震いしながら言い切る。
「そうだよね、軍隊の厳しさもあるし、戦争へ行って死ぬのも嫌だもんね」
ポツリとミハルが零した。
「それよりミハルは知ってる?能力者検査って」
アルミーアの質問に首を振って応えると。
「何だか知らないけど女子だけに有る特殊な能力を調べるんだって。
その能力が有る女の子は絶対に兵役から逃れられないんだって。
嫌だよね、そんな能力なんてあったら・・・」
アルミーアが苦笑いしてミハルに教えた。
「へー。どんな能力なんだろう。軍に関係があるのかな?」
指を頬につい立てて、ミハルが考えていると。
「女子だけに受けさせるって聞いたから、もしかして女子力の検査かもね?」
アルミーアが意外と真面目な顔で言うので。
「女子力?って、何?」
ミハルが更に小首を傾げて聞き返すと、
「ふふふっ、ミハルはまだ知らなくていいの!」
お姉さんぶってアルミーアが教えてくれなかった。
「ぶう。同い年なのに。アルミーアの意地悪!」
頬をプウッと膨らませて拗ねるミハルの頭を撫でると。
「ほら、やっぱりお子様だよ、ミハルは。
そんな所も可愛くて好きだよ!」
アルミーアが笑ってミハルをなだめた。
それから半年の後、下級学年が終ろうとしていた頃。
事変は拡大の一方だった。
ロッソアとの全面戦争が意識され始めて、学生は徴兵される事になる。
ミハル達も能力者検査が行われようとしていた。
次回 秘められた力
君は自らの力を誰に使うのか





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