魔鋼騎戦記フェアリア第2章エレニア大戦車戦Ep3エレニア平原Act6エレニア戦車戦第1次攻撃 後編
戦いは激烈を極めた。彼我の戦車が火を噴き、屍が転がる。
マチハは敵に包囲される前に味方の盾になる。
荒野に砲声が轟き渡った。
「よしっ、次は左舷に並ぶM4を攻撃してっ!」
リーンが次なる目標を指示する。
((ガッ ギイインッ))
停止したマチハに別のM4が命中弾を与えてくる。
砲塔前面で敵弾を弾いたマチハが次の目標に砲を旋回させる。
「目標、正面左舷のM4!
此方に砲を向けている奴を狙えっ!撃てっ!」
リーンの命令を受けて魔鋼弾を放つミハル。
((グオオオーンッ))
射撃音が響く中、敵も射撃してくる。
ミハルが放った弾が、M4の車体を貫く。
敵の弾は車体を僅かに逸れて砂煙を上げた。
「ラミル戦車前進っ!敵に正面を向けてっ!」
2両を撃破したマチハが前進を開始すると、敵M4が道を開く様に左右に展開を始めた。
ー どうやら左右に散って包囲する気ね。そうはさせないわ!
リーンが左側に分かれたM4に視線を注ぐ。
「ラミルっミハルっ、左側に行ったM4を攻撃するわ。
多分左側に行った奴等の中に指揮車が居ると思うから!」
ラミルが頷いて左舷に進路を向ける。
ー 走行射撃で命中可能な距離まで近付く事が出来れば。
でも、数で劣る味方にも被害が出てしまう・・・
リーンが敵との間合いを考えて迷っていた時。
「車長!師団司令部より報告。
敵は中戦車隊後方に未知の重戦車隊が居るようです。師団本隊は苦戦中との事です!」
キャミーが司令部からの警告を伝える。
「未知の重戦車?KG-1じゃあないのね?」
司令部からの報告を受けてリーンは更に迷ってしまう。
ー このM4隊の後方にもその重戦車隊が控えているとしたら。
味方を出来るだけ無傷にしておかないと。
ここは下手に接近戦を挑むより、
包囲されるのを防ぐだけに努めなくてはいけない
リーンはそう考えると直ぐに後続する各中隊へ向けて連絡を執った。
「キャミー、各中隊向け指示。
左舷のM4に攻撃を集中。
包囲されるのを防いで、そのまま後方へ退いて貰って」
リーンは右側へ向ったM4を観測しながら指示を出した。
「了解!」
キャミーは復唱すると無線で各中隊に連絡を取る。
「ミハルっ、左側のM4に牽制の攻撃を掛けて足を止めさせてっ!」
リーンが左側に回り込もうとしているM4隊へ向けて攻撃命令を下す。
ー 右側へ廻った奴等が気付いて包囲の輪をせまめて来るまでが勝負ね
リーンは尚も右側の敵戦車隊がそのまま進路を保っている事を確認し、
「各中隊は急いで包囲の輪から脱出。
後方へ一時転進、敵の出方に合わせて行動する様に。そう伝えてキャミー!」
そしてリーンはマイクロフォンを押えつつ。
「みんな、良く聞いて。後続の中隊を逃がすまで立ち塞がって護ります。
味方を包囲から脱出させる為に、此処で敵を食い止めます!」
リーンは覚悟を決めて命令を下した。
4人は顎を引いて頷いた。
「いいわねみんな!」
「了解っ!」
全員が決死の覚悟を決めて心を一つにする。
「よしっ!攻撃始めっ!
目標左側に向う先頭のM4、距離1800、敵速30。
5シュトリッヒ前方を狙えっ、撃て!」
リーンの指令に攻撃目標を捉えて照準を絞る。
「目標先頭のM4、側面後方。撃ちますっ!」
ミハルは復唱と同時にトリガーを引き絞る。
((グオオォーンッ))
マチハの停車と共に射撃を開始したミハルの狙いは正確だった。
走行中突然射撃を受けたM4は、どうせ当たらないだろうと漫然と走っていた。
((ガッ! ボンッ!))
当たるとは思えない距離からの一撃を受けて、
エンジンを撃ち抜かれて立ちまち停車してしまう。
メラメラと炎を吹き上げてつんのめる様に停まった車体から乗員達が慌てて逃げ出していく。
「よしっ、命中!一両撃破。
ミハルっ後は好きに撃って。
出来るだけ多くの敵を足止めして味方に近付けさせない為にね」
リーンは右側へ向う敵部隊を注視しながら命令を下した。
「はいっ、各個撃破を狙います!」
ミハルはリーンに伝えてから気になっていた事を訊いた。
「ミリア!魔鋼弾の残弾数は?」
残りの弾数をミリアに調べさせる。
「はいっ、ちょうど10発です。後10発!」
ミリアがマイクロフォンを通じて答える。
ー あと10発・・・
それを撃ち終えてしまえば、後は徹甲弾で闘わねばならない。
M3でも厳しいのにM4の正面は撃ち抜く事が出来ない。
その時は・・・
「ミハル・・・」
リーンの声にミハルは訊き返す。
「何?中尉」
「ミハル・・・弾が尽きたら、魔鋼弾が尽きた時には逃げるからね。
前みたいに一人で残って闘うなんて事はさせないから。解ったわね?」
リーンがミハルの心を読んでクギを刺してくる。
ー あはは。バレてたか。
でもそうでもしてでもリーンを護りたいから。
どんな苦しくても、リーンだけは護ってみせるから!
ミハルは苦笑いを浮かべると。
「弾が尽きたら闘えませんものね。
でも徹甲弾が残っていますから、何とかしてみせますよ。
47ミリでも・・・ね」
心配そうに見詰めるリーンの視線を背中に感じて出来るだけ平静にリーンに答えた。
「車長!後続各中隊左舷方向に展開完了!後退を始めますっ!」
ラミルの声で我に返ったミハルは照準器に視線を戻すと射撃態勢に入る。
「目標!味方中隊に発砲するM4隊!撃ちますっ!」
十字線に走行中の2番車を入れてトリガーを引いた。
たった一両で踏み止まり射撃するマチハを見ている各中隊隊員達は、
遠く離れていくその姿に対して敬礼を贈って別れを偲んでいた。
「さよなら!
「すみません、ありがとう!」
「諦めるな、還って来るんだぞ!」
各車長の声が無線を通して皆の耳を打つ。
キャミーが無線を車内通話回線に流していた。
「ふっふっふっ、みんな今生の別れみたいに話しているね」
リーンが含み笑いを浮かべて呟く。
「本当ですね。まるで私達が死ぬ気みたいに話してる・・・」
ミハルが同じ様に呟くと。
「そんじゃ、ま。味方にも教えてやりましょうや」
ラミルがため息を吐く様に誰言うとなく話す。
「そう、ですね。私達の闘いぶりを見せてやりましょう」
ミリアが次発砲弾を取り出しながら頷く。
「さて・・・と。リーン中尉、回線はオープンです。
言ってやってくださいな、味方の連中にも!」
キャミーがキューポラに振り返って笑った。
大きく頷いたリーンがマイクロフォンを押しながら・・・
「それでは諸君、戦争を教育してやろう。
諦めない私達の闘い方を!私達の戦いを!」
リーンの瞳が、身体が碧い輝きを放つ・・・車体の紋章をも輝かせて。
敵M4を次々に撃つマチハ。
たった一両踏み止まって闘う鬼神のごときその姿に、敵は恐れを抱きつつも命令に従って近寄って来る。
左側に向っていたM4隊が、
後退して行くフェアリアの戦車隊の追撃を中断し、全てマチハに攻撃を集中してくる。
連絡を受けた右側へ回り込もうとしていた別働隊のM4型16両もマチハを包囲せんと展開を始めた。
((ギュイイイーンッ ガンッ!))
停止しつつ射撃するマチハに、敵の弾が命中し続ける。
何とか側面を見せない様にラミルが信地旋回を繰り返して敵弾を防いでいるが、
周りを囲まれてしまっては防ぐ術も無くなる。
ー 味方はもう脱出出来たみたいね。
そろそろ私の能力も限界に近い。包囲を破って帰るには潮時ね
荒い息を吐きつつリーンはミハルを観た。
「はあ、はあ、はあっ!」
諦めず砲を旋回させて射撃を続行しているミハルも息が荒い。
相当魔法力を酷使している様子が見て取れる。
リーンは決断を下した。
「ラミルっ、もういいでしょう。
私達も退こう。これ以上囲まれてしまう前に!」
必死に操縦するラミルに後退の指示を出す。
「はっはい。後退しますっ!」
ラミルはギアをバックに入れて後退を開始する。
「ミハルっ!右舷3時の方向から一両突っ込んでくるっ!」
キャミーが慌ててミハルに接近してくる敵を知らせた。
ー しまった!左舷の敵ばかりに気を取られていた!
ミハルが舌打ちして砲を旋回させようとした時。
「敵発砲!」
キャミーの叫びが耳を突く。
((ガッ! バキィッ))
車内に鋭い命中音が轟いた。
((ギャララララッ))
右舷側で異音が鳴り響き、後退をしていた車体が左側に流される。
「しまった!右舷動力系破損!
キャタピラを切られましたっ、動けませんっ!」
ラミルが操縦桿を離して叫ぶ。
後退するべく車体を動かしたマチハに痛恨の一発が命中してしまった。
動きを止めたマチハに敵が群がる。
絶体絶命のピンチにミハルは、リーンはどう闘う?
次回 絶体絶命!
君はこの戦いを生き残る事が出来るのか?