魔鋼騎戦記フェアリア 第1章魔鋼騎士 Ep3訓練!あの戦車を撃て!Act1
ミハルが着任して1週間が経とうとしていた、夏の終わり。
草原が緑色から枯れ草色に変わり始めた頃、戦争はさらに激しさを増していた。
前線では度々大きな会戦が起こり、その度に錬度の高い将兵が失われて行った。
それは、国力の劣るフェアリア皇国にとって何物にも変えがたい損失だった。
街では男手が減り、老人と子供そして女の姿ばかりが目立つ様になって来た。
そして後方任務は全て女子が受け持つ有様であった。
「・・・ラミルさん、何処も彼処も女、子供。
それに老人ばかりになってきましたね。こんな田舎までも・・・」
エンカウンターの駅で物資の受け取りに来ているミハルは、トラックの運転席に座っているラミルに言った。
「そうだな、このまま行けば女も子供も、老人さえも戦いに駆り出されちまうかもしれないな」
ラミルも辺りを見回して、ため息混ざりで言う。
「そう言う私達も女なんですけどね」
トラックの荷台に小麦粉袋を積みながら、ミハルも愚痴る。
「後、どの位だい?ミリア」
整備班からの応援であるミリアが支給表を見ながら、
「えーと、後はあの台車に乗っている補給品だけみたいです」
「よし、早いとこ片付けて戻ろう!」
ミハルは、ミリアと共に台車の荷物をトラックに積み込み始めた。
その荷には、見慣れないマークが付いている。
長くて重い箱を、2人で積み込む。
ー 何だろう、これ。やけに重いけど?
ミハルは箱を見ながら、
「ミリア、これ何のマークか知ってる?」
ミリアがミハルを見詰め直して、小声で言った。
「先輩。これ、新式の徹甲弾ですよ。
ってのは建前で、試作砲用の魔鋼弾ですよ。しかも実弾頭付きの」
「ええっ!魔鋼弾ですって!」
ミハルが驚いて叫んでしまう。
「ミハル先輩、声が大き過ぎます」
ミリアの注意に、
「うっ、ごめん。
・・・で、魔鋼弾の実弾頭がここに贈られてきたって事は、
此処からじかに出撃を命じられるかもしれないって事なのかな?」
ミハルは手を休めずにミリアに訊く。
「そうなるのかもしれませんね。
でも、これ位の数だと1会戦分にもなりませんから。
この重さだと、一箱に2発でしょうから、箱が4箱で8発ってとこですね」
「8発かぁ。
47ミリ砲だから、敵によっては2・3発はいるだろうから。
2両仕留められたら上出来・・だろうね」
ミハルが話をしている内に、積み込みが終わる。
「はい。これで作業終了。ラミルさーん、終わりました!」
ミリアが運転席のラミルに報告する。
「よーし、2人供ご苦労さん。
これから帰るから荷台に乗ってくれ。それと、これは少尉からの奢りだ!」
運転席からラムネのビンとクッキーを二人に渡したラミルが。
「荷台で悪いな、2人供。助手席に座れると良いんだが、生憎先客が居てな」
そう言って、助手席を指差す。そこには一人の娘が乗っていた。
「どなたです?ラミルさん」
ミリアが小声で訊くと、
「小隊の方に用があるらしいんだが、良く判らないんだ。
秘密事項らしい。その連絡員の方だそうだ」
ミハルとミリアは、助手席に座っている娘に会釈する。
少女は2人にお構いなしに前方だけを見ている。
ー あ、この制服は、士官服だ。
襟章は・・。えっ!大尉ですって!
気付いたミハルとミリアは慌てて敬礼する。
そこで漸く娘が口を開いた。
「参謀本部より来ました。ユーリ・マーガネット大尉です。小隊本部まで同乗させて頂くわ」
そう言って返礼して、微笑んでくれた。
「あ、はっはい。どうぞ!」
ミリアが敬礼したまま、焦って答えた。
ー この人の瞳、誰かと似ている様な気がするけど、誰だったっけ?
荷台でラムネを飲みながら、助手席に乗っている士官の事を考えていると。
「先輩、ミハル先輩って。何考えてるんです?」
ミリアが肩を揺すって、我に返る。
「あ、ごめんね。あの人のことを考えてたんだ」
ミハルが指で助手席を指すと、
「あの歳で大尉って事は、よっぽどのエリートかそれとも・・・」
ミハルはミリアに、
「それとも?何?」
「参謀本部から来たって言ってましたし、もしかしたら皇族の方なのでは?」
「ええっ!皇族っ!?」
「先輩。声が大きいですって。それに、もしかしてって言いましたから、私」
「あ、あの。ごめんなさい。でも、皇族の方だったとしたら、どうして?」
「うっ、うーん。どうしてって言われましても。
あっそうだ、田舎にリクリエーションを兼ねて・・。無理有りすぎですよね」
「あははっ、そうだね。じゃあ、皇族の方じゃなくて、超エリートの人なんだろうね」
ミハルは笑いながら、ミリアに言うと、
「それがやっぱり妥当ですよね。
でも凄いな、そんなにリーン少尉と歳変わらないのに大尉ですって。何故かムカツクんですけどぉ」
ミリアは不平等だと言わんばかりに怒っている。
「まあ、それは彼女なりに苦労したって事じゃないのかな。
だって、見た目で私達と違う世界の人みたいなんだもの」
ミハルは兵と士官の違いだけでなく、人間の層が違うと感じていた。
まるで初めて会った時のリーン少尉の様に。
古城の小隊本部に着くと大尉は礼を言って、士官室に向った。
荷物をトラックから降ろしながらその姿を見送っていると、
「おい、なんかすげー荷物を降ろしたなぁ?」
キャミーが、同じく士官室へ向かって行くユーリ大尉を見ながらミハルに訊く。
「あ、あれ。エンカウンターで乗り込んで来たんだ。参謀本部の人だって言っていたけど」
「なんだって!?参謀本部だと!
だったらもうじき出撃かもしれないぞ。きっと作戦の打ち合わせに来たんだろうぜ?」
キャミーが目を輝かせて言った。
「そうかもしれませんね。
大分戦力が少なくなって来ているみたいですから。
私達も何時までもこんな所で訓練って訳にはいかないでしょうから」
「そうね。今日の荷には、実弾頭の魔鋼弾もあったからね。
実弾射撃訓練だってしていないのに、いきなり実戦なんて・・・もう少し時間が欲しいなぁ」
「そうだな、未だ練成途中って感じなのにな」
ミハルの心配にキャミーでさえ同調する。
「今、出て行ったら何処まで闘えるだろう。
敵にもよるけど、あまり分が良いとは言えないよね」
ミハルはキャミーに心配顔で言う。
「まあな。そうだとしても、やれるだけやるさ。
命令が出されたら、往くしかねぇんだし・・・さ」
キャミーは半ば諦めた様にミハルに話す。
ー キャミーさんはそう言うけど、死ぬ時に後悔したくないもの。
あと少し、もう少し時間を貰えたら、
射撃訓練をして、砲の癖や射撃能力が掴めるのに・・・
ミハルは心の中で、時間が欲しいと思った。
((コツコツコツ))
軍靴の音が廊下に響く。
「リーン、リーン少尉はここか?」
指揮官室のドアをノックもせずに、ユーリ大尉は開けた。
中に居たリーン少尉は上着も着ずワイシャツ姿で立ち尽くし、目を丸くする。
「え?姉様?どうして此処に?」
ビックリした顔が次第に笑顔になって、
「ユーリ姉様!お久しぶりです。お元気そうで何よりです!」
そう言って、ユーリ大尉に抱き付いた。
「こ、こらっ、リーン。上官に向って何をするんだ!」
そう言うユーリ大尉もしっかりとリーンを抱き止めて笑顔を見せる。
「リーン、貴女こそ元気そうで安心したわ。
こんな田舎に送られて、さぞ不満だったでしょ。
私と一緒に本部へ帰りましょうよ」
ユーリ大尉が、抱き付いているリーンに言うが、
「それは駄目です、お姉様。
私は上のお姉様から疎まれていますので。
本部に戻ったら今度はどこかもっと遠い国へ送られてしまうかもしれません。
私はこの国から出たくないのです。この国を守りたいのです。
どんなに力が弱くても、どんなに力になれなくとも、私は生まれ育ったこの国が好きなの。
お願いお姉様、どうかこの妹の我侭を許して下さい」
リーンは、ユーリ大尉に哀願する。
ユーリ大尉はため息を吐き、
「判っていたわ。
貴女は昔から一度言い出したら、絶対自分を曲げなかったものね。
しょうがない娘ね、リーンは・・・」
ユーリ大尉は、リーンを抱き寄せて強く抱締めた。
「ありがとう、ユーリ姉様!」
リーンは顔をユーリ大尉の胸に寄せて感謝した。
2人は暫し、姉妹の仲を感じ合っていた。
「それでは、本当の命令を伝えるわね、リーン。
実は貴女の小隊付き教官兼先任搭乗員のバスクッチ曹長を転任させるわ。第1戦車師団付に・・・」
「ええっ!?先任を?どうして!
彼はお父様が私の教官として・・・いいえ、私の護衛役として配属させられたのに。
まだ、彼の力が私には必要なんです。
教わりたい事が一杯あるのに!」
「解っているわ。
でも、彼ほどの実力者を此処で教官役として置いて擱けるだけの戦力が無くなったの。我国の現状では・・・ね」
「そんな・・・バスクッチ曹長を引き抜かれたら、
私の小隊は古参の者が居なくなってしまいます。
私だって実戦経験無いですし、私がいくら魔法使いだからって無敵ではないですから。
・・・部下をどうしたら統率したら良いのかもまだまだ教わっていないのに」
「リーン。
それ程バスクッチの事を頼りにしているの?
もし、今のままで彼が居たとしてもあなたが彼を頼り過ぎているなら、
それはこの小隊を危険に晒している事になるわ」
「えっ?それはどう言う事なのユーリ姉様。
彼ほどの実力者を頼らない方が変なのでは?」
「いいえ。
リーンが彼を頼れるのは戦闘中ではなく、訓練の時だけ。
もし戦闘中に、彼が負傷したらどうするの?
指揮官の貴女が彼を頼りきって迷ってしまったら、小隊全員を危険に晒す事になる。
最悪の場合は全滅になるかもしれないのよ。
あの連隊のように・・・」
ユーリの言葉にびくりと体を震わせて、顔を上げたリーンは。
「でも、だからこそ彼を、バスクッチ曹長を私から奪わないで。
ユーリ姉様、せめて私が一人でも指揮をとれる様になるまでは・・・お願いです!」
リーンは涙目でユーリに頼む。
そんなリーンに妹想いのユーリはため息を吐いて。
「ふうっ、しょうがない娘ね。
解ったわ・・・3日。
3日間だけ待つ様に転任先に掛け合ってあげる。
それ以上は無理よ。次期作戦上、3日間が私が引き伸ばせる限界ですからね」
「あ、はい、姉様。ありがとうございます。
いつもユーリ姉様は私の事ばかり気を使ってくださって、何とお礼を申し上げていいのか・・・」
リーンがユーリに頭を下げてお礼を言うと、ユーリが指でリーンの額をつんっと突いて。
「何を今更・・・私達は姉妹じゃないの、例え母親が違ったとしても。
同じ父の血を受け継ぐ本当の姉妹なのだから。私のたった一人の妹なのだから」
「・・・ユーリ姉様。
ありがとう、そう言って貰えるのはユーリ姉様だけ。
上の姉様達は絶対にそう言ってくれないのに・・・」
リーンはユーリを見詰めて、涙を零す。
「あの2人はほって置きなさい。
正妻の娘だからって、いつも私達を馬鹿にして喜ぶ様な人を、私は姉だとは思わない。
国の事、民の事を何も考えない様な人を私は皇娘<プリンセス>とは認めない。
お父様も何時かは解って下さると信じているから・・・」
ユーリが優しくそして強くリーンを抱締めて話す。
「はい、ユーリ姉様。私もお父様を信じています。
この国をまた平和で豊かな国へ戻す事を誰より願われている皇王様の事を!」
ユーリはそう言って涙を拭うリーンの頭を撫でてやりながら、
「そうね、リーン。信じましょう神のお力を。そして皇王様の御心を」
「はい、ユーリ姉様」
漸く落ち着きを取り戻したリーンは、ユーリに答えた。
その顔に笑顔で訊くユーリ。
「ところでリーン。例の彼女、どう?使えそうなの?」
突然話題を変えられてリーンが訊き返す。
「例の彼女?ああ、ミハルの事ですか?」
「そう、シマダ教授の娘の事。能力を確認したの?」
ユーリの瞳が鋭くなって、リーンの反応を待つ。
「あ、いえ。
どの様なレベルなのかは解りませんが、
私達と同じく、能力を秘めているのは手を握った時に感じました」
「うん。
彼女は我国の窮地を救ったあのシマダ夫婦の娘。
島田美雪さんの血を継ぐ娘なのだからな。
力があっても不思議ではない。私達の力になってくれる筈だと踏んだのだがな」
ユーリはミハルの両親の話と共に、
「それに4師戦1が壊滅したのに、あの戦場からたった一人、生きて帰れた。
何があったかは解らないけど、強い力、いえ運命を持っている事は解るわ。
きっと彼女には強い何かが有るのでしょうね?」
「はい、私もそう思います。
ですからお願いしたのです。ユーリ姉様に、彼女を私にくださいと」
「あははっ、そうだったわね。
リーンがあの死神って呼ばれた娘を欲しいって言ってきた時には驚いたわ。
でも、今となっては彼女こそが幸運を運んで来てくれる天使なのかもね」
ユーリは笑顔をリーンに見せる。
「ミハルに言ったら、謙遜されちゃいますよ。ユーリ姉様!」
「そう?私はそうなって欲しいけど。
幸運の女神に。リーンの為の女神にね!」
ユーリはリーンの肩に手を置いて、
「それじゃあ、私は本部に戻って曹長の件を引き伸ばす様に手配するわ。
リーン・・しっかりね。決して無理しちゃあ駄目よ。貴女は何時も頑張り過ぎるから!」
ユーリの温かい心使いに、
「ユーリ姉様こそ、一人で無茶しないでください。
お父様に宜しく伝えて下さいね、リーンは信じていますって伝えて下さい!」
リーンはユーリの手を硬く握って、別れを惜しむ。
「解った・・・解っているからね。リーン、私の大切な妹」
そう言って両手で握り返すユーリも、笑顔で別れを惜しんだ。
リーン少尉は覚悟を決める。
教官兼先任搭乗員のバスクッチ曹長を手放す事を。
あと3日。その3日で全てを訓練し直さねばならなかった。
MMT-3の砲手と、装填手の練成を。
次回Act2
君はこの訓練に耐えられるか