魔鋼騎戦記フェアリア第2章エレニア大戦車戦Ep2伝説の魔女と皇女Act11近付く闇
伝説を話し終えたユーリが渇いた口をお茶で潤している傍で・・・
「伝説では王女リインが、救国の皇女として語り継がれているの・・・って、ミハル?」
リーンがミハルの涙に気付いて小首を傾げる。
「え?いや、ちょっと。感動してしまいました」
ミハルが涙を拭いて、ニコっと笑った。
「あのねシマダ兵長。
感動するのはいいけれど、私が言いたかった事が解る?」
ユーリがため息を吐いて問い掛ける。
「えっと、王女と魔女が別れて王女が一人で立ち向かう・・・って処ですよね?」
ミハルが話を思い出して答えたが。
「そこも重要なのだが、問題は大悪魔ルキフェルのところだ」
ユーリがコップを置いてリーンとミハルに問い直す。
「その大悪魔が今現在、一体誰に当たるのか。それが問題なのだ」
「は?大悪魔がこの世界に存在するとでも?」
ミハルがユーリに訊き直す。
「はははっ、悪魔が居るとは思わんが。
私の言っているのはリーンを苦しめる者が居ると言う事だ。
それが誰なのかと言う事なんだ。
解るか、シマダ兵長?」
ミハルに鋭い視線を投げ掛ける。
「そ、それは・・・中央軍司令部に居る人達ですか?」
ミハルは作戦に出る度にリーンを狙う中央軍司令部を思い出して訊く。
「そう、それもあるだろう。
だが、もっと個人に絞ればどうだ?」
ユーリはルキフェルに相当する人物の事を訊く。
「私の姉様。第一皇女のエリーザ、そしてリマンダ。
そして、姉様達を陰で操るヘスラー参謀長。
・・・いずれにしても私の命を狙っている。そうですよねユーリ姉様」
リーンがミハルに助け舟を出す。
「その通り。リーンの思っている通りなのだ、シマダ兵長」
ユーリが2人に背を向けて窓から外を見る。
「では、戦争が終わってもこの国は平和にならないと仰るのですか?」
ミハルは伝説の再来に危機感を募らせる。
「ああ、リーンが生き残っている限り。
いずれ皇位継承問題に発展して、最悪の場合は内戦となるだろう」
ユーリは外の闇を見ながら答えた。
「そんな。戦争が終わっても平和が訪れないなんて。
じゃあ私達は何の為に闘っているのですか。
みんなが国を護る為に必死に闘ってきて、やっと終ってもまだ争う事になるなんて」
ミハルはユーリの考えに失望を覚える。
「ミハル、私は皇位を継ぐ気なんてないわ。
欲しければあげるって言ってるのに。
でもね、姉上様を担ぐヘスラー一派と、
私を救国の皇女と信じている皇父様が対立しているの」
悲しげにミハルに教えるリーンに訊き直す。
「そうなのだ、シマダ兵長。
二つの勢力が我国を戦争へと導いたのだ。
ロッソアとの戦争は我国が引き起こしたと言ってもいい」
ユーリが窓の外を見詰めて答える。
「な、なんで?どう言う事なんですか!?」
ミハルが驚きつつ訳を訊く。
「権力争いの結果なんだよ。
ヘスラー達が外敵の力を借りてこの国を牛耳る為に起した紛争の末、全面戦争に発展したのだ」
窓を見詰めたままのユーリが答える。
「そんな。
ロッソアが領土拡大政策の為に戦争が始められたと教えられてきたのに・・・」
ミハルがユーリとリーンを交互に見て訊く。
「それも本当の事。
確かにロッソア帝国は領土拡大政策を推し進めている。
このフェアリアに対しても領土の割譲を求めているわ。
でも事の起こりは我国を売ってでも権力を握ろうと目論む者がいたのが原因」
ユーリが窓にそっと手を添えて言った。
「フェアリアを売ってでも?それでは国はどうなるのです?」
ミハルは背中を見せるユーリに訊いた。
「この国を貶めてでも権力を握りたいのであろう。
領土を割譲してでも我国を牛耳ろうとしたのであろう。
だが、その目論見は帝国側が全面戦争へと持ち込んで来た事により事態が変わった」
流れが変わったのだとユーリが教えた。
「我々が魔鋼騎技術を戦力に持ったのを知った帝国側は、その技術の譲歩を迫って来た。
勿論極秘技術を譲る訳が無い。
・・・普通の国ならばな。
でも、彼等はある条件で技術を売った、その技術者と共に・・・」
ユーリの言葉にミハルはドキリとする。
ー 技術者・・・お父さんとお母さんの事?
ミハルの目が大きく見開かれる。
「技術を売る条件として、衛星国となっても自治権を認める事を承認させた。
これは事実上の終戦工作とも言えよう」
「・・・終戦工作?まだ戦端が開かれた処で・・・ですか?」
ミハルが信じられないと、首を振って訊いた。
「そう。戦争が始まる前から我々は負けていたのだ。
売国奴達の手で。
汚い者達の手で我国は負ける事が決まっていたのだ」
「ではどうして、闘わねばならないのです。
負けると決まった戦争を死んでも無意味な戦争を?!」
ミハルはだんだん怒りが込上げて来て声が大きくなる。
「闘わねば仲間が、身近な人達が死んでしまうから。
罪も無い国民が殺されてしまうからだ。
そう考えるのが我々自身を慰める唯一の考え方だ・・・だが」
「だが・・・なんです!」
ミハルがユーリに答えを求めるとユーリが窓の外を睨んで言う。
「奴等はそう考えていない。
帝国側に魔鋼機械の能力を見せつけ、
帝国側に損害を出させて少しでも高くこの国を売ろうとしているのだろう。
我が軍が勝てないまでも良く善戦し、帝国の侵攻を食い止めていられているのがその証拠。
あんな馬鹿な用兵をしていても帝国側が追撃してこないのがその証拠。
つまり、追撃してこないのは無駄な損害を防ぐのもあるが、
我国が降伏して来るのを待っているのだろう」
衝撃的な話を聞かされたミハルは耳を疑う。
戦争は負ける事が確定していると言われ、何故未だに闘い続けなくてはいけないのか。
ー これでは犬死になる。
無駄死にになってしまう。タームや死んで逝った人達全てが・・・
ミハルは死んで逝った人達を想って悲しく、辛くなって下を向いて震える。
「でも、まだ闘わなくてはいけない。譬え結果が敗戦だと決まっていても・・・」
リーンが瞳を曇らせ溢した。
「何故です?
負けると解っているのなら早く降伏してしまえば、
両軍共に無駄な犠牲を払わなくて済むじゃないですか!」
怒りの声をあげてミハルは抗議した。
「シマダ兵長。
このまま敗戦してしまえば国民はどうなる?
ヘスラー達一部の権力者の物になってしまう。
この国がずっと闇に閉ざされてしまう事になるんだぞ」
ユーリが背中でミハルに答える。
「しかし、どうせ負けるのならば一刻も早く降伏し、犠牲者を出す事を防ぐべきです!」
強い口調でミハルは反論する。
「どうせ負ける・・・そうだろうか。
ヘスラー達を粛清し、軍政を正常に戻せばどうなると思う。
ロッソア帝国に和平交渉をすると伝えればどうなると思う?」
ユーリが振り返り強い口調でミハルに問う。
「えっ?そ、それは・・・
帝国側が領土の割譲を求めて来る物と思われます。
若しくは・・・最悪の場合は無条件降伏を求めて来るかも知れませんが」
ミハルはそう答えたが、どちらにせよ敗戦は免れないなと思い。
「和平交渉をする為には現政権の放棄、若しくは改変が必要ではありませんか。
そんな事がこの戦争中に可能なのですか?
それが叶わないというのなら、早期降伏しかないではないですか」
そう叫ぶ様にユーリに言った。
「クーデター、いや、皇父様の勅命を貰い罷免させる。
そして軍が国政を操る現状を変えた後、条件が揃い次第に和平交渉に入る」
振り返ったユーリは厳しい瞳でミハルを見る。
「条件?条件とはなんなのです姉様?」
リーンがユーリに尋ねる。
「それは、北東部エレニア地方を解放し、ロッソア軍に手痛い損害を強いる事。
そして、帝国の内部が崩壊するに因って為される」
ユーリは机に手を置いて二人に話す。
「ロッソアが・・崩壊する?そんな事があるの?」
リーンがありえない事だと云わんばかりに質問した。
「・・・ある。
友邦ヤポンからの情報では既に南西衛星国では反逆が起こりつつある様だ。
その討伐の為に我国に向う予定だった1個軍団がそっちに取られたらしいのだ。
ロッソアの圧政に反旗を翻す小国が増えて来た。
その内に皇帝は決断を迫られるだろう、退位か、それとも・・・」
ユーリの結論の前に、
「帝政の終結を・・・ですか?」
リーンの結論に頷いてユーリが椅子に座る。
「その時こそ我国が敗れずに済む最大のチャンス。
そしてその時以外に終戦を迎える事は出来ない」
「それは何時の事ですか?一年先?十年先?そんなに待っていられるのですか!?
人が死んで逝くって云うのに!」
ミハルが遂に怒りを爆発させ叫んでしまった。
「ミハル・・・」
リーンがユーリに向うミハルを止める。
「私達軍人はいいとして、民間人までが犠牲になっていくのですよ!
こんな汚い戦争を続ける事で!
それが国を護るって事なのですか?それが平和を齎す事なのですか?」
ミハルは涙を溜めた瞳でユーリに訴える。
ユーリはじっとミハルを見て静かに答える。
「そう、これが一度始めてしまった戦争から国を護る術。
国の未来を統べる者の考え方。
民を犠牲にする汚い為政者の考え方なのだ」
ユーリは顔を背けてミハルの視線を避けて言い切る。
「ミハルの言う通り、汚い戦争なんだよこの戦争は。
誰かの私欲の為に始めてしまったこの戦争を誰が終わらせられるのか・・・」
ユーリはゆっくり視線をミハルに戻すと。
「シマダ兵長。私達皇族の手を見てみろ。
民の血でどろどろに穢れてしまっているこの手を・・・」
震える両手を差し伸ばしてミハルに見せる。
震えている細くしなやかな白い手の平を見せた深慮の皇女が告げるのは・・・
「誰かが救わなければ我国は、フェアリアは滅んでしまう。
譬え戦争に勝ったとしてもこのままでは国は滅ぶ。
民は苦しみから解放されない。
邪な者が国を統べるのであれば・・・」
ユーリが2人に答えを欲して両手を差し出したまま涙を溢す。
「リーン、シマダ兵長・・・私は汚い人間だ。
国の為と言いながら民の命を奪い、民を苦しめようとしている。
神はこんな私を許して下さるだろうか」
自分の決断を迷い、悲しみに暮れるユーリは両手で顔を覆って泣いてしまった。
「ユーリ姉様・・・」
リーンは大泣きする姉を初めて見てショックを受けた。
何時も気丈で頼れる姉のこんな姿を見て、居た堪れなくなる。
「私達が・・・魔鋼騎士が護ります」
ポツリとミハルが呟いた。
「私が約束したのは生きて帰ること、弟の元へと。
そしてこの小隊を護る事。
それ以外に守るべき約束はしていないから・・・」
うな垂れて言うミハルがすっと、顔を上げて。
「もう一つ位、約束が増えたとしてもいいんじゃないかな・・て、思うんです」
ミハルの顔は明るく微笑んでいた。
「約束?何を約束するというの?」
リーンがミハルに訊ねる。
ミハルはフッと息を吐くとリーンに振り向いた。
「今度の約束は大きいですよ、中尉!」
ニコリと笑うミハルが右手の宝珠を翳し、力を籠める。
「リーン中尉やユーリ大尉を助けて・・・」
ユーリがミハルを見て変化に気付いた。
「私やリーンを助けて?」
蒼き光に輝く宝珠と・・・
古の力を宿した蒼き瞳の魔砲少女ミハルに・・・
「そう。助けてこの国を護ります。伝説の巫女の様に・・・です!」
2人に満面の笑みを見せて応えた。
「ミハル・・・あなた?!」
リーンとユーリがミハルを見詰めて声を吞んだ。
それはミハルの身体から、いや、宝珠から青く輝く光を見たから。
神の盾の紋章がクッキリと現れた宝珠を見たから。
その姿が魔鋼機械もないのに変化したから。
「その紋章は・・・神の紋章!
その服は・・・魔法の衣?!」
輝きが一層はっきりと紋章を浮き立たせている。
蒼き魔法衣を身に纏った魔砲の使い手。
ユーリの記憶にある伝承の紋章。
その紋章は伝説の魔女がリイン姫に見せたあの紋章を現していた。
巫女たる娘が衣装を替えた話と酷似している。
「どうかしたの姉様?」
リーンが呆然と立ち上がりミハルの宝珠を見詰めているユーリに声を掛けた。
「あ、いや。シマダ兵長の宝珠の輝きに驚いてな」
ユーリは宝珠を見詰めたまま呟いた。
ー リーンはこの紋章の意味が解っていない。
ミハルに秘められた力の意味に気付いてはいないようだ。
自分が持つネックレスの意味と、その運命にも・・・
ユーリは2人を見てある確信を持った。
ー 伝説は今甦ろうとしている。
2人の魔砲の使い手に導かれる新たな世界を目指し。
私の知る<リーン>に因って…
ユーリは遠い過去に居るリーンを思い出す。
「ふっふっふっ。そうか、シマダ兵長の約束、確かに訊いたぞ!」
リーンとミハルの前に進むと、手を指し伸ばして。
「では、約束・・・いや、誓約して貰おうか。2人で」
リーンのネックレスを取り出しながらミハルの右手を掴んで。
「リーンも誓え、ミハルと共に。この国を護ると、二人の力でこの国を護り抜くと!」
リーンのネックレスをミハルの宝珠に併せると。
「さあ!今こそ再び国を護る時だ皇女と魔女よ。
誓えこの神器に。
約束しろこの光の石に!」
ユーリが二人に迫る、約束を求めて誓い合う事を。
リーンとミハルが見詰め合って自然と口を開く。
「私はミハルと共にこの国を護りたい。国に仇なす者達から」
リーンの瞳が蒼く染まる。
「リーンの願いがそうならば、私は護るリーンを、この国を。
リーンを護るのが私の務めなら、リーンと共にこの国を護りたい。
それが私の約束なのだから!」
ミハルの宝珠が輝きを増し、瞳と髪を蒼く染め抜く。
ー これが魔鋼の力。
いいえ、伝説の魔女の力を受け継いだ者の力なのね・・・
ユーリはミハルの宝珠に浮き出た紋章を見詰めて頷いた。
自分が調べた<双璧の魔女>の伝承の最後に出て来る神官巫女が王女に見せたと言うあの紋章。
それを模ったレリーフが王宮の神殿に小さく示されてあった事を思い出す。
ー ふふっ、<双璧の魔女>・・・か。
いや、今度こそなって貰わないとな、本当の<双璧の女神>に・・・
ユーリは蒼き光を身に纏う2人の少女を見て微笑んだ。
「はっはっはっ!それでいい。それでこそ私の妹を名乗る者だ。
それでこそ私が見込んだ魔砲少女だ。
リーン!シマダ兵長!
2人に任せたぞこの国の未来を。救国の乙女達にな!」
ユーリは突然大笑いして二人を指す。
「はあ?ユーリ姉様。何が可笑しいの?」
リーンが蒼き光を納めて咎めるように訊くと、ニヤリと観て。
「はっはっはっ。どっちがミコト役なのかなって思っただけさ。
私の語った食欲魔人がな。
腹が減ったのはお前達のどちらだ?」
ユーリが笑いながら2人を指差す。
「そんな。さっき会食した所じゃない。まだお腹が減る訳・・・」
リーンが馬鹿な事を言うなとばかりに、
ユーリに言ってミハルに同意を求め様と観た先には。
「あ、あはは、あはははっ・・・」
宝珠の輝きを納め、普段通りに戻ったミハルが、少し赤い顔をして下を向いて笑った。
「え?・・・本当に?ミハル?」
リーンが驚いて確かめる。
「あの・・・いえ、怒ったらお腹が減って。
こ、これは魔鋼力を使ったからじゃなくて、その・・・」
しどろもどろになって、ミハルは更に赤くなる。
「はーっはっはっはっ。まあ、そう言う事にしておこう。
では、宴会場に戻って食事の取り直しといくかな?」
ユーリがミハルに笑いながら指揮官室から出る。
「もう、ユーリ姉様。話はそれで終わりなのですか?」
リーンが大切な話が有ると思って引き止めたが。
「ああ。とても大切な話が出来た。
二人の意思が解ったのだからな。後は私自身の問題だ。
リーンとシマダ兵長に教えて貰えたんだよ、ありがとう」
ユーリは2人に背を向けたまま礼を言って部屋を出た。
「私とミハルがユーリ姉様に何を教えたの?
ねえ、姉様ちょっと待ってよ、待ってってば!」
リーンが訳が判らず追いかけて訊くがユーリは笑うだけで取り合わなかった。
そんな2人をミハルは観て想う。
ー 私がもし伝説の巫女の生まれ変わりだとしたら・・・
この国を護る事が出来るのだろうか。
とてもそんな力が私にあるとは思えない。
・・・でも、一つだけ同じ事がある。
それは彼女の事を護りたいと願っている事。
彼女と共に闘い、彼女と共に強く優しく生き続けて行きたい。
私のリーンが抱いている<願い>を遂げさせてあげたいから・・・
ユーリに絡むリーンの姿を見て、
右手の宝珠に自分の願いを重ねるように、ミハルは心からそう想った。
ミハルが転属させられると勘違いした仲間達。
思い詰めた彼らが取った行動とは・・・
おーーいっ、マジか?
それがあなた達の思い付いた行動なのか?
いやマジで?
次回 馬鹿騒ぎ?!だって笑顔が見たかったんですっ!
君は友の心遣いに気付けるか?





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